体の動きを止めない椅子 「座ればカロリーを消費」
シドニー大学が20カ国を対象に実施した調査によれば、日本人は平日の座っている時間が世界一長いという。座り過ぎは健康リスクも懸念される。脚の筋肉を動かさないことで、全身への血流に影響が出るからだ。そんななか、コクヨが「座るを解放する」をコンセプトにした、座っている状態でも体の動きを止めない椅子「ing」を開発した。初年度販売目標は15億円。発売開始(2017年11月7日)から2017年末までの間で、「目標販売数の2倍ほどの販売数を達成している」(コクヨ広報室)という。
「座りすぎ対策としてオフィス家具業界ではスタンディングデスクを提案してきた。しかしそもそも座ることが悪いのではなく、同じ姿勢を取り続けることに問題の原因がある」と考えた同社。座面が体の微細な動きに合わせて360度自然にスイングしブランコのように重力で座面を揺らせる「グライディング・メカ」(特許申請中)を開発。これまでにも座面を動かせる椅子はあったが、前後のみなど一方向のみ動くものが大半だった。「ing」では前傾、後傾、左右のひねりまで対応する。
同社と慶應義塾大学スポーツ医学研究センターの橋本健史准教授との共同研究によれば、この椅子に座って作業をした場合、座っているだけで従来品に比べて8割の人の肩の筋肉、5割の人の腰の筋肉がより多く活動していることが確認された。
またingに座って揺れながらデスクワークを4時間した実験では、ウォーキング約1.5kmに相当するカロリーを消費。さらにingに座った状態で60分揺れると、7割の人のα波、6割の人のβ波が増加したという。
「揺り戻しの心地良さを重視し、試作品では数多くの人の心地良さを確認した。きっかけは健康視点だが、体が揺れることで脳が活性化され、有用なアイデアの生成が13%アップすることも実証されている。働き方改革で長時間労働に焦点が当たることが多いが、楽しくポジティブに働ける環境を提供し、『生産性を高める』働き方改革につなげたい」(同社)としている。
(ライター 桑原恵美子)
[日経トレンディネット 2018年1月22日付の記事を再構成]
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