グルメクラブ powered by 大人のレストランガイド

World Food Watch

インドネシア料理ひと筋 戦後老舗の味も、最新の味も

2018/2/8

春巻きの「ルンピア」 奥様のあきさんが好きな料理の一つ 「CABE」のソースはピリ辛で「ブンガワンソロ」と同じタイプ

 帰国してから語学を生かそうと商社や旅行会社などを受けたが、「面接に行くと、来ている人たちがみんな欧米に留学していた人たちばかりで。なんだかそういう人たちと働くのはつまらないなと思って、『ブンガワンソロ』で社員として働き続けることにしたんです」(大平さん)。

 転機が訪れたのが30歳のとき。同店が閉店することになり、自分の店を開くことになったのだ。ワタミなど外食企業に転職しようかとも考えたというが、「自分でやってみたら」と、奥様のあきさんが背中を押してくれたのだと言う。

「大手の会社に勤めるのは違う感じがしたんです。彼はすごくお客さんからかわいがられていて。インドネシアの出来合いのソースを使えば簡単な料理はできるし、本格的な料理店じゃなくて、ドリンク中心の飲み屋ならできるんじゃないかって」(あきさん)。そうして2002年、武蔵小山に最初の店をオープンした。

「バリ島のクタビーチのような、外国人がたくさん集まる混沌とした雰囲気が好きで、わいわいがやがやとした飲み屋ができればいいぐらいに考えていたんです。ところが、以前の店で一緒に働いていたインドネシア人女性が厨房に入ってくれることになったんです」と大平さんは振り返る。その女性は日本人の夫が好きな料理をどんどん作っていったところ、それをみんなおいしいと言い、メニューが増えていったという。それで、カウンターのほかに何席もないような小さな店なのに、70種類ほども料理を出すようになった。「出来合いの調味料で料理を出そうとしていたのに、結局ソースから全部手作りする店になってしまいました」と大平さんは笑う。

今はなき「せでるはな」を特集した米国雑誌

 現在、「CABE」は、武蔵小山のほか、目黒にも店を構える。大使館に近く、日本人客だけでなくインドネシア人でにぎわう店だ。実はここは、やはり日本人とインドネシア人カップルが始めた老舗「せでるはな」があった場所。大平さんに1976年の米グラフ雑誌『パシフィック・フレンド』を見せてもらうと、店が大きく特集されていた。

「店を閉めるというので、以前別の場所にあった『CABE』2号店を2016年に移転したんです。この店は『ブンガワンソロ』が閉店したときに椅子などを引き取ったそうで、今使っているのはその椅子なんです。この頃の家具ってすごくしっかりしているんですよね」とあきさんは、懐かしそうに東京の同国料理店の歴史が刻まれた椅子に手をかける。

「引き継いだお店を整理していたら、こんなものも出てきたんです」とあきさんがバックヤードから出してきてくれたのは、三島由紀夫の色紙。元々「せでるはな」は赤坂に店を構えていたらしいが、インドネシア料理店が、かつて文化人の華やかな交流の場であったことを物語っているようだ。

 やはり老舗の『インドネシアラヤ』が2008年に閉店したときも、飾り物などを譲ってもらったらしい。なるほど。あきさんの言うように、大平さんは周囲の人々にとてもかわいがられていたのだろう。

海老のココナツ煮 「CABE」のものはココナツ風味がやさしく日本人が馴染みやすい味

「CABE」のメニューには、「ブンガワンソロ」時代の人気料理もラインアップ。海老のココナツ煮だ。ココナツ味のカレー風料理で、どこか日本風のだしを使っているかのような味がする。「この国の料理は、とにかくご飯に合うんです。私は牛肉のスパイス煮『ルンダン』などが好きなんですが、ご飯がすごく進むんですよ」(あきさん)。

 近年では人気リゾート地バリ島の料理を出す店が目立つが、インドネシアの人口の90%近くがイスラム教徒であるのに対し、バリに暮らす人々は主にヒンドゥー教徒。イスラム教徒が食べないブタを使った名物料理があるなど、食文化が異なる。日本の5倍の面積を持つ同国は、「数々の島から成る国なので食文化が多様なんです」とあきさんは教えてくれる。

グルメクラブ新着記事

ALL CHANNEL