自分だけのカップヌードル 発明・発見の楽しみを体験
自分だけのカップヌードルやチキンラーメンを作る……。数多くある企業ミュージアムの中でも、群を抜いた人気を誇るのが、横浜にある「カップヌードルミュージアム横浜(安藤百福発明記念館)」だ。多くの人々をひきつける魅力はいったいどこにあるのだろうか。
同館のオープンは2011年9月。アートディレクターの佐藤可士和氏が総合プロデューサーを務めた。同館のコンセプトは「発明・発見の面白さを子どもたちに伝える」こと。安藤百福の創造的思考(クリエーティブシンキング)、つまり起業のベースになっている考え方を展示や体験から学べるようになっている。
コンセプトのベースになっているのは、インスタントラーメン発祥の地、大阪府池田市に1999年に誕生した「インスタントラーメン発明記念館」。創業者・安藤百福がいかにしてインスタントラーメンを発明したかを展示するとともに、04年には、自分だけのカップヌードルが作れるマイカップヌードルファクトリーを新設、人気を高めた。
2階の展示コーナーを経て3階に上がると、特に高い人気を誇る体験コーナーにたどり着く。世界で1つだけのカップヌードルが作れる「マイカップヌードルファクトリー」とチキンラーメンの製造を原材料の段階から体験できる「チキンラーメンファクトリー」だ。
取材当日は、まだ冬休み期間中。両ファクトリーは、親子連れでごった返していた。
「マイカップヌードルファクトリー」は、基本的に予約不要(多客期には早期の受け付け終了の可能性も)で、館内の自動販売機で専用のカップを購入(300円、税込み)すれば体験できる。
アルコールで手を消毒したら、カップに自分だけのオリジナルのデザインを描き込んでいく。自分専用のカップができあがったら、ブースの中にいるスタッフにカップを渡す。そこからガラス越しに「マイカップヌードル」ができあがる様子を体験できる。
まずは麺。カップヌードルは麺がカップの途中で引っかかって下に空洞ができるように設計されている。こうすることで、お湯を入れた後、おいしく仕上がるからだ。製造過程では、麺をカップに入れるのではなく、麺にカップをかぶせてからひっくり返す手法が取り入れられている。それを間近に見ることができる。
カップに麺が入ったら、4種類の味からスープを選び、具材も12種類から好きなものを4つ選んで、入れてもらう。最後にふたを閉めて、店頭に並ぶときと同様に、シュリンク包装すれば完成だ。通常は、オートメーションで行われる工程を、目の前でスタッフが手作業でやってくれる。
一方「チキンラーメンファクトリー」は予約が必要。申し込みは、3カ月前の同日の午前10時から受け付けるが「週末や夏休みなどの多客期は、すぐに予約が埋まってしまう」(日清食品ホールディングス広報部)という。約90分かけて、小麦粉から製麺し、調味、麺の乾燥からパッケージングまでをスタッフの助けを借りながら体験できる。
まずは麺作り。小麦粉などの粉にかん水などを含んだ水分を加え練り込んでいく。予想以上に力がいる作業だ。粉全体に水分が行き渡るまでには、けっこうな時間もかかる。隅々にまで水分が行き渡ったら、今度は麺棒で伸ばしていく。広げては折り、折っては広げてを繰り返す。最後は、製麺機のローラーを使って、さらに薄く伸ばしていく。
しばらくの間麺を休めたら、麺をカット。そしてチキンラーメンならではの調味を行う。1食分ずつ、麺に直接スープの味を染み込ませていく。手早く均等に味付けするのがポイントだ。
味付けを終えたら、フライヤーの容器に収める。安藤百福が、てんぷらの衣がさくさくに揚がるのを見て、麺を油で揚げて乾燥させることを思いついたのはあまりにも有名な逸話だ。麺が油に入ると、一気に水分が気泡として飛び出してくる。
水分が飛ばされた麺は、冷えたら、最後はパッケージに。その際、容器に残った麺のかけらを味見することができる。揚げたての麺は、何とも美味。さくさくで、ビールがほしくなった。
こうした課程で知ることができるのは、インスタントラーメン、カップラーメンの製造と言っても、製造ラインから外れて手作業にすると、ごく普通の「ラーメン作り」と大きくは変わらないと言うこと。粉に加える水分からは、ごま油のいい香りが立ち上り、調味液が発するだしの香りは素直に食欲を刺激する。干すのではなく油で揚げて水分を飛ばしたり、麺にかぶせることで、カップに入れやすくするなど様々な創意工夫こそあるものの、食べ物を作る工程には違和感はない。
製造工程を機械から手作業に置き換えて体験することで、高速の製造ラインでは見ることができない「安心安全」の製造過程を知ることができるのだという。
今でこそ当たり前に暮らしの中にあるインスタントラーメンだが、その発明には多くの斬新なアイデアが盛り込まれており、3階の体験コーナーでも新たな発想、斬新なアイデアの部分は、それが強調された演出になっていた。
3階フロアでの体験によって、改めて2階展示部分の「言わんとすること」が、体で感じることができるようになっているのだ。
再現された、ありふれた道具がならぶ安藤百福の木造の研究小屋からは、麺を天日干しするなどの試行錯誤の末に、てんぷらをヒントに麺を油で揚げて乾燥させることに行き着いた「着想」の斬新さが伝わってくる。
「まだないものを見つける」「なんでもヒントにする」「アイデアを育てる」「タテ・ヨコ・ナナメから見る」「常識にとらわれない」「あきらめない」の6つのキーワードが展示、体験の随所から浮かび上がってくる。
4階にはイートインスペース「ワールド麺ロード」もあり、世界各国の麺料理をハーフサイズで食べ比べすることもできる。また、カップヌードルの具材をトッピングに使ったソフトクリームも人気が高いという。多くの製品が買える1階のミュージアムショップと合わせて、展示・体験に加えて「食べて知る」こともできるようになっている。
大阪の「インスタントラーメン発明記念館」は、昨年8月に「カップヌードルミュージアム大阪池田(安藤百福発明記念館 大阪池田)」と名前を変えた。「マイカップヌードルファクトリー」や「チキンラーメンファクトリー」など、大阪でも横浜同様の体験ができるようになっている。去る1月8日には、開館以来、800万人目の入場を果たすなど、依然高い人気を誇る。
2018年は、安藤百福がチキンラーメンを発明した1958年から60年の節目にあたる。10月からは、NHKで安藤百福とその妻仁子さんの半生をモデルにした連続テレビ小説「まんぷく」の放映も決まった。今年は、チキンラーメン、カップヌードルの注目度がさらに高まりそうだ。
(渡辺智哉)
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