DANDY & RHAPSODY

結んで、飛来て、蝶ネクタイ。 by Takanori Nakamura Volume 5

2018/4/11

蝶ネクタイには「蝶結び」の他に「叶結び」や「いちご結び」など実にさまざまな結び方がある。結び方次第で表現力は自在に変化。鞄にひとつ忍ばせておけば、不意のパーディーなどでも心強い武器になる

岩倉具視は、蝶(ちょう)ネクタイを本格的に結んだ、最初の日本人のひとりであった。岩倉率いる西欧使節団は、明治4年(1871年)から1年9カ月かけて、米欧12カ国を回覧した。その“国家見学”ともいえる視察は、政治・経済、教育など、後の日本の近代化に大きな影響を与えるが、西欧服飾文化もまたしかり。岩倉の蝶ネクタイ姿は、まさにその象徴であった。めったにお目にかからなくなったが、500円紙幣の岩倉具視の肖像も、ちゃんと蝶ネクタイを結んでいる。

文=中村孝則 写真=藤田一浩 スタイリング=石川英治

(6)ライターは、紳士の火付け役。>>
<<(4)あの帽子は、どこへいったのか。

そもそもネクタイの起源は、ローマ時代に遡る。ローマ皇帝トラヤヌスの記念柱に描かれた「ファカーレ」が最古の証拠とするのが定説だ。19世紀までは、紳士のネッククロスは、四角の布を三角に折ったものを、蝶結びにしていた。それが徐々に小さくなって、岩倉が英国を訪ねた1870年代に、ほぼ現在の蝶ネクタイの姿に完成する。

むしろ18世紀のアメリカを発祥とするロングタイの方が、歴史は浅いともいえるが、現在は蝶ネクタイの方が少数派になってしまった。近ごろ日本国内でも、特別なシーンか愛好者を除いて、めったに結ばれなくなった。

■蝶ネクタイの見直すべき利点

ところが蝶ネクタイは、あらためて見直すべき利点も多い。普通のロングタイに比べ、食べ物をこぼす不安もないし、剣先を料理の皿の中に落とす粗相もない。僕の茶道の宗匠は、そのメリットを心得ていて、茶の席で洋装の場合は、稽古であろうと蝶ネクタイを義務付けていた。

蝶ネクタイはタイピンも必要ないから、茶道具を傷つける心配もないのだ。しかも、あらたまった気分も演出できるので、茶に招かれたらぜひとも試してみてほしい。ちなみに、今も私が愛用しているエルメスの蝶ネクタイは、その宗匠が20年前にパリに旅した際に、エルメス本店でみつけてきてくださったものである。

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