あの帽子は、どこへいったのか。by Takanori Nakamura Volume 4

ボルサリーノは1857年、イタリアで創業。仕立ての良さや、映画「ボルサリーノ」などのおかげで世界屈指の帽子ブランドに。伝統技法を頑なに伝承し、ウサギの毛を独自のブレンドで仕上げるフェルトは秀逸

ほぼすべてのメンズ・ファッションが実用から生まれているように、帽子も必然性から誕生した男の服飾の象徴だった。帽子は、風や雨やホコリ、寒気や紫外線から頭を守る最強のツールである。少なくとも1950年頃までは、帽子無しで歩き回るのは、社会的なルールに縛られない人間であるということを触れまわるようなものだとされた。

文=中村孝則 写真=藤田一浩 スタイリング=石川英治

(5)結んで、飛来て、蝶ネクタイ。>>
<<(3)万年筆は、千年あたらしい。

その帽子も、60年代から70年代にかけて、潮が引くように男たちの頭から消し去っていった。理由は単純だ。日常生活が便利になったからである。外を長距離歩く必要がなくなり、いつでもシャンプーで洗髪できる環境なら、ホコリから頭を守る必要もないだろう。洗髪が週1回だった時代は、遠い記憶ですらなくなった。整髪料やヘアサロンの進化も追い打ちをかけていると思う。手をかけたヘアスタイルを、誰が帽子で台無しにしようと思うだろうか。

■前髪が帽子を駆逐した

個人的には、最近の男の前髪のトレンドにも関係していると思う。昔にくらべて、おでこを出さずに前髪をおろす男がふえた。前髪は若々しさを演出するにはいいが、帽子には不向きだからだ。ベルンハルト・レッツェル著「GENTLEMAN」(Konemann社刊)では、「帽子のつばから前髪がのぞいているのは、スーツからシャツがはみ出しているようなものだ」という。

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