MONO TRENDY

フード・フラッシュ

ヒット食品の裏に機能性 消費者にストーリーで訴求 日経BP総研マーケティング戦略研究所 西沢邦浩

日経BP総研マーケティング戦略研究所

2017/12/8

 2015年に開始された機能性表示食品制度で受理された商品はトータルで1100件を超え、すでに特定保健用食品(トクホ)の許可商品数を上回った[注1]。「心身のどこにどのような機能性を発揮するか」という、食品を食べることで得られる効果を人で実証する研究には数千万円のコストがかかるが、機能性だけで商品が売れるとは限らない。消費者の支持を得るために何が必要か、ヒット商品のランキングをベースに見ていこう。

[注1]特定保健用食品(トクホ)は健康の維持増進に役立つことが科学的根拠に基づいて認められ、機能性の表示が許可されている食品。国が審査し、消費者庁長官が食品ごとに許可する。一方、機能性表示食品は事業者の責任で、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品。安全性や機能性の根拠を消費者庁長官に届ける必要はあるが個別の許可は受けない。

日経トレンディの2017年ヒット商品ベスト30の1~10位
同11~20位
同21~30位

 ヒット商品のバロメーターである、日経トレンディ「2017年ヒット商品ベスト30」を見ると、実はランキングの中に機能性表示食品は一つも入っていない。しかし、機能性を直接、間接に訴求のポイントにした商品はいくつかある。

 商品名などから機能性を感じられる食品でランクインしたのは20位の「シールド乳酸菌」のみ。日経トレンディの誌面では、代表的商品として、森永製菓の「シールド乳酸菌タブレット」が大きく取り上げられている。この商品は発売当初、「たべるマスク」という刺激的なキャッチで登場し話題を呼んだ。1カ月強で半年分の計画の1.6倍の出荷量を記録したという。

20位にランクインしたシールド乳酸菌を使った森永製菓の「シールド乳酸菌タブレット」

 「たべるマスク」というキャッチが暗示している、風邪やインフルエンザの予防、免疫力アップといった機能性は機能性表示食品制度では受理される可能性が低く、この商品も機能性表示食品ではない。

 後に「マスク」という単語は商品パッケージから消えることになったが、「たべるマスク」という表現や、「たべるシールド乳酸菌」という表現は、予防用途の商品であることを直接想起させ、インフルエンザの流行期間にマスクのように使い続ける利用シーンを消費者に描かせる。

 また、明治の「明治プロビオヨーグルト R-1」と同系統の赤色をパッケージに使うことで、同ヨーグルトが展開してきた「インフルエンザの季節に乳酸菌」というストーリーラインを援用しているようにも見える。

 さらに、このシールド乳酸菌を森永乳業は170社以上に供給して、この菌を使った食品群が生まれている。その中からもタカノフーズの「すごい納豆S-903」といったヒット商品が登場した。

シールド乳酸菌を使った製品が急増。左がタカノフーズの「すごい納豆S-903」

 このように、シールド乳酸菌は多くのメーカーを巻き込みつつ、「免疫にはシールド乳酸菌」という印象付けを強力に推進した。

■ローカーボ食品は「罪悪感フリー」で心をつかむ

 同ヒットランキングの17位には、糖質量を抑えた食品群「ローカーボ食品」が入り、象徴的なヒット商品として日清食品の「カップヌードル ナイス」を紹介している。これは、こってり味でありながら従来品に比べ糖質40%オフ、脂質50%オフでカロリーもカットという商品だが、「罪悪感フリー」で即席麺好きの琴線に触れたもようだ。発売約40日で1000万食を売り、年間売上は30億円に達したという。

17位に入ったローカーボ食品の象徴的ヒットである日清食品の「カップヌードルナイス」

 ローカーボ市場は2016年ですでに3000億円台半ば近くまで達したと見られており、糖質量を制限することが血糖値の上昇抑制やダイエットにつながることは広く認知されている。そのため、「ナイス」のユーザーの心の中では、こうした機能性も織り込んだストーリーが描かれていることだろう。

 カップヌードルナイスは特に機能性を打ち出していないが、このように消費者に買いたいと思わせる「利用ストーリー」を打ち出せればヒットする。この「利用ストーリー」が機能性を持つ食品のヒットの分水嶺になってきそうだ。ではどのように描いていけばいいのだろうか?

■ストーリーデザインには「周辺エビデンス」も必要

 例えば、「ローカーボ食品」の機能性の一つでもある「食後血糖値の上昇抑制」という効能について少し詳しく見てみよう。

 本来、この機能が気になる人は、糖尿病患者や耐糖能異常と診断された人などの糖尿病予備軍が主だった。しかし、「野菜から先に食べる(ベジタブルファースト)」といった血糖値を上げにくくする食事法が健康法として人気を博していることや、糖質摂取を抑えつつ運動をすることがダイエットにつながることを訴求しているライザップの知名度を考えると、血糖値の上昇を抑制する食品はストーリーの描き方次第で、糖尿病患者および予備軍を超えて広く消費者の関心を呼び込むことができるレベルに達していると考えていい。

「健康ニーズ調査2016」(日本能率協会総合研究所)より。ダイエット関連の食事で実行している方法の中で、近年話題になったものではベジタブルファーストの定着度が特に高かった。50代女性では60%近い実施率になっている

 このような食事法が話題になっているのは、血糖値が急上昇した時に大量に分泌されるインスリンというホルモンが、脂肪細胞に糖質や脂質をためこむ性質を持っていることが広く知られるようになったからだ。つまり、血糖値が上昇しやすい食事は肥満リスクにつながると考える人々が増えたわけだ。実際に、食後高血糖をもたらす食事が肥満や肌老化を進行させるという日本人の研究報告もある[注2]

[注2]Acta Derm Venereol.;92,241-246,2012
   Am J Clin Nutr.;83,1161-1169,2006

 ヒットに結びつけるためには、その商品自体の機能性だけでなく、その機能性がもたらすメリットに関するエビデンス(証拠)を収集整理し、それがどんな消費者層の関心を引きそうかということを検証し、有効に伝達する方法を考える必要がある。

■情緒的価値はエビデンスより効く?

 消費者にわくわく感をもたらし感情移入させる価値のことを、マーケティング用語で情緒的価値と呼ぶが、周辺エビデンスに情緒的価値が加わると、商品は羽が生えたように売れ出すことがある。特に、SNSを通して自分が気にいったもの、ほかの人にも知ってほしい商品に関する情報をだれもが発信できる現在、これこそが最大の武器になる可能性も高い。

 「2017年ヒット商品ベスト30」で2位に輝いた「明治 ザ・チョコレート」に、情緒的価値を味方につけた機能性食品のヒットの勝ち筋が見える。

「明治 ザ・チョコレート」

 通常の板チョコより高価格でありながら1年弱で3000万枚を出荷した「明治 ザ・チョコレート」のカカオ含有率は多くが50%と台といわゆるダークチョコレートゾーンにあり、中には70%とハイカカオのカテゴリーに入る商品もある。つまり、一般的なチョコレートよりカカオが多い商品になっている。

 カカオを使用する食品の代表にはチョコレート以外にココアがあるが、ココアでは1本10g中に30mgのカカオフラバノール(カカオのポリフェノール)を含む森永製菓の「カカオフラバノールスティック」が「血圧が高めの方の健康な血圧をサポートする」機能性表示食品として、2015年に消費者庁に受理されている。また、カカオフラバノールがインフルエンザ予防や整腸などに役立つという研究報告もある。

 ある程度情報リテラシーが高い消費者にとっては、糖質量を抑え(甘みを抑え)、カカオ量を増やしたチョコレートやココアは、「健康や美容に役立つ食品」と理解されていると考えていいだろう。

 しかし、「明治 ザ・チョコレート」は、パッケージにカカオ含有率を記しているだけで、特に効果をにおわせる表現や訴求は一切行っていない。

 消費者の心をつかんだのは、「産地ごとの味やフレーバーを生かしたカカオ豆を使用していること」と「シンプルなクラフト紙の箱にカラフルでスタイリッシュな模様のカカオ豆を配したデザイン」だ。

 この2つの情緒的価値が、消費者に個々のストーリーを描かせた。

 ことに女性の心を引いたのがパッケージ。箱を切り取ってノートや携帯電話を飾るといったインスタ映えする行動を促した。実際、膨大な投稿がSNSに登場し、このチョコレートをめぐるスト―リ―は急速に豊饒(ほうじょう)さと多様性を深めていった。

 そもそもこの商品は、2014年に発売し売れ行きを伸ばせなかった商品のリニューアル版だという。前回不首尾に終わったストーリーラインを周到に練ったのが今回の商品、ということだろう。

 このように、いくら機能性が高くても、それを求める消費者の生活意識や心情の芯をとらえることができなければヒットは生まれない。そのためには機能性というシーズを生み出す場所から、商品が市場に登場するときのストーリーを描き始める必要がある。

西沢邦浩
 日経BP総研マーケティング戦略研究所主席研究員。小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。
マーケティング戦略研究所

日経BP総研マーケティング戦略研究所(http://bpmsi.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

MONO TRENDY新着記事

ALL CHANNEL