太陽光パネルが有害ゴミに? 2040年には廃棄量300倍
鉛などの有害物質を含んだゴミがそれとは知らずに近所に捨てられている――。総務省は9月、少しぞっとする内容の報告書を公表しました。名指しされたのは太陽光発電用のパネルです。東日本大震災以降に再生可能エネルギーを普及させた立役者ですが、何が起きているのでしょうか。
太陽光パネルは電極やシリコンを何層も強固に接着してできています。分離してリサイクルするのが難しく、20~30年の寿命を迎えると産業廃棄物の処分場に埋め立てられるのが現状です。総務省によると、パネルに含まれる鉛やセレンなどの有害物質の情報を処分場に提供していない業者は調査対象の8割に上ったそうです。
心配なのは廃棄量の多さです。震災後の政府の支援策に押されて太陽光発電の設備は過去5年で約6倍に増えました。今後は寿命となるパネルが増え、2040年の廃棄量は約80万トンと15年の300倍超になる見込みです。これは1年間に全国の処分場に埋め立てられる量の約8%に当たります。
このままだとパネルが無秩序に捨てられる恐れがあります。国は処分の指針を設けていますが、パネルには製造、発電、処分、廃棄と少なくとも4業態の業者が関わり、最近では海外メーカーのパネルも広く流通しています。有害物質に関する情報共有が滞る可能性もあり、環境省の対策委員を務めたSOMPOリスケアマネジメントの花岡健氏は「メーカーに情報提供を義務づける仕組みを強化すべきだ」と指摘しています。
廃棄コストも問題です。経済産業省は太陽光発電の事業者にパネル建設費の5%相当額を廃棄に備えて確保するよう求めています。ただしチェックする仕組みはなく、コスト負担を嫌って不法投棄に走る業者も出てきかねません。消費生活アドバイザーの辰巳菊子氏は「事業者の責任を明確にする法整備が必要だ」と話しています。
最後に期待されるのは太陽光パネルを効率的にリサイクルする技術革新です。今はリサイクル費用が高いので普及していませんが、再利用できれば廃棄量を減らせます。真に環境に優しい太陽光発電にするためにやるべきことは多くあるといえます。
花岡健・SOMPOリスケアマネジメント取締役「洪水時など感電のリスクも」
太陽光パネルは使えなくなったときにどんなリスクがあるのでしょうか。環境省の検討会で委員を務めたSOMPOリスケアマネジメントの花岡健取締役に課題と解決策を聞きました。
――太陽光パネル特有の危険とは何でしょうか。
「パネルは薄いので風で吹き飛ばされたり、雪で壊されてしまうリスクがある。洪水にも弱い。特有の問題としては感電の危険性がある。光が当たれば発電するようにできているので、保管の際には布をかぶせて光を遮らないといけない。このため災害が起きたときには優先して適正な処分をしないと、二次災害につながってしまう。実際にはこうしたリスクを認識している人は少ない」
――使い終わったパネルはどうなるのでしょう。
「法律に従って産業廃棄物として処理することになる。最終処分場に埋め立てられるわけだが、将来は膨大な量が廃棄されることになるため、処分場の容量が足りなくなる恐れがある。そこで太陽光パネルのリサイクルという選択肢があるわけだが、現状では処理コストが高い。さらに太陽光パネルは家電や車のようにリサイクル費用の負担の仕組みが確立されていない。まずは技術革新によってリサイクルにかかる費用を下げ、事業者が廃棄よりリサイクルを選ぶ流れを作ることが重要だ」
――パネルに含まれる有害物質が処分場から流出するリスクも指摘されています。
「有害物質の含有についてはパネルの製造メーカーによって差があるし、その後の情報開示など対応にも差がある。一概には言えない問題だ。ただ現在は海外メーカーによるパネルが増えているので、情報開示が滞ったりする恐れがある。廃棄の際には報告や届け出をしっかりさせ、中身をチェックしていくしかない」
――廃棄コストの積み立てを事業者に義務づけるという考え方もあるようですが。
「すでに大量のパネルが導入された後なので難しい。経済産業省は補助制度をつかって太陽光発電を始める事業者には、一定の廃棄費用の積み立てを求めている。ただ日照時間が想定より短くなったとか、計画がうまくいかなかった事業者の中には廃棄費用を確保できないケースも出てくるだろう」
(高橋元気)
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