スマートスピーカー戦国時代 勝負を分ける仲間づくり
西田宗千佳のデジタル未来図
Amazonがスマートスピーカー「Echo」シリーズを日本でも発売した。日本では2017年10月からLINEとGoogleがスマートスピーカー市場に参入しており、Amazonは出遅れた格好だが、世界的には圧倒的なシェアを持つ企業だけに「本命があとからやってきた」という言い方もできる。
主要プラットフォーマーがそろったことで、市場の興味は「どのスマートスピーカーが売れるのか」という話になるだろう。だが、筆者は、最終的な勝負はそこにはない、と考えている。そして、海外で「Amazonがこのジャンルで有利」と伝えられる理由も、単にスマートスピーカーとしてのシェアの大きさだけにあるわけではない。
では、注目すべき点はどこにあるのか? それは「パートナー戦略」だ。
海外から1年遅れ、理由は日本語対応に
この年末、スマートスピーカーは注目の製品になっている。LINE、Google、Amazonの3社がそれぞれ製品を出しており、価格面でもかなり積極的な展開をしている。スピーカーが小さな廉価モデルであれば5000円から6000円で、大きめのスピーカーを持つ主力製品でも、実売価格1万~1万5000円程度で手に入る。新しいジャンルのガジェットとしては、なかなかお買い得だ。
日本は、スマートスピーカー市場としては後発である。理由はもちろん、日本語への対応に時間がかかったからだ。Amazonは音声アシスタント機能「Alexa」の日本語対応の改善に「1年以上の時間をかけた」(米Amazon.com Alexa担当上級副社長のトム・テイラー氏)という。
日本での発売が遅れたことは残念だが、その分、海外とは異なる市場環境になった点もある。それは、「Alexa互換」や「Googleアシスタント互換[注1]」のサードパーティ製スマートスピーカーが、立ち上げの時期から存在することだ。
[注1]GoogleアシスタントはGoogle Homeが使用している音声アシスタント機能のこと
Amazonの「Alexa」互換の製品としては、オンキヨーが17年11月下旬に「P3」を発売し、ハーマンインターナショナルは「ハーマンカードン」ブランドの「Allure」を年内に出す。一方、「Googleアシスタント」を使ったスマートスピーカーではオンキヨーが11月下旬に「G3」を発売。12月中には、ソニーが「LF-S50G」を、ハーマンインターナショナルは「JBL」ブランドで、「LINK 10」および「同20」を発売する。
スマートスピーカーの音声アシスタントは、機能のほとんどをクラウドで実現している。AmazonもGoogleも、AlexaやGoogleアシスタントを組み込んだ機器を他社が作れる環境を整備しており、世界的にこうした「互換製品」が本格的に出てくるのが2017年後半だった。日本はスマートスピーカーそのものの市場投入が遅れた結果、より多彩な製品が市場にそろった形でビジネスがスタートすることになった。
「互換製品」の差異化点は音質
現状、AmazonやGoogleが作るスマートスピーカーと、音声アシスタント技術を使って他社が作るスマートスピーカーとでは、基本的な機能に差はない。
一方で、「互換製品」というと安い、というイメージを持ちそうだが、むしろ現状はまったく逆であり、各プラットフォーマーが作るスマートスピーカーより、「互換製品」の方が価格は高い。互換スピーカーを作っているのはオーディオメーカーが多く、「より音質の良い製品」であることを差異化点に置いているからだ。
スマートスピーカーの用途の中でもSpotifyやGoogle Play Music、Amazon Prime Musicなどの音楽ストリーミング・サービスは人気があり、ある程度しっかりした音を求めるなら、やはりオーディオメーカー製の方が有利ではある。とはいえ、2万円台の製品なので、音質は「価格なり」ではある。
実のところ、低価格な「Amazon Echo Dot」(5980円)、「Google Home Mini」(6480円)にも、スピーカーを外付けできる。すでに良いスピーカーを持っているなら、そういう選択肢もある。
現状、サードパーティ製品で先行するのはオーディオメーカーだが、価格差や機能を考えると、オーディオメーカーに大きな市場がある、と断言できる状況にはない。むしろ彼らの出番は、スマートスピーカーが世に広まり、「差別化されたものを求める」人が増えてから……ということになるのかもしれない。
スピーカー以外に広がる
一方でAmazonは、パートナー戦略について、少し違う見方を持っている。
Amazonのテイラー氏は次のように説明する。「多数の企業から登場するAlexa対応機器はバラエティーに富んでいる。スマートスピーカーもあるが、色々な家電に組み込まれていく。コーヒーメーカーからエアコン、冷蔵庫に電子レンジ、さらには自動車へと……。Echoとは別に、そうした形で広がっていく」
機器を音声アシスタントに対応させるのは、けっして難しい話ではない。ハードウエアの能力としてはスマートフォン(スマホ)のように高度なものは必要なく、「ラズベリーパイ」のような安価なワンボードマイコンでも実現できる。開発に必要な情報は、すべてAmazonが公開しており、それに従って開発すれば、簡単に「Echoと同じように音声で命令できる家電」が作れる。
Alexa対応機器には、このような「Alexa搭載機器」のほか、Echoなどと連携して動く機器もある。実際にはこちらの方が数はずっと多い。2017年1月、ラスベガスで開かれた家電展示会「CES」には、700を超えるAlexa対応機器が展示されていたが、その大半は連携して動く機器だった。こういった機器やWebサービスなどとAlexaを連携するツールを「スキル」といい、日本語版にもすでに250を超えるスキルが登場している。
米国ではAlexa搭載機器も広がりを見せており、ナビゲーション機能を搭載した車載用Alexa互換製品、「Garmin Speak」などが現れた。LGエレクトロニクスは、冷蔵庫をAlexaに対応させている。
Googleは、パートナーづくりでAmazonに先行されているが、新たな策としてテレビ向けのOSである「Android TV」にGoogleアシスタントの機能を盛り込む。Android TVを搭載したテレビやセットトップボックスがGoogle Homeと同じように音声で操作可能になる。日本ではまだ対応が進んでいないが、Android TVをOSに採用しているソニーは、欧米向けの2017年の製品で、Googleアシスタントを使うためのアップデートを行った。
音声アシスタントはまだ発展途上で、使い勝手もまだまだ良くない。しかし、多数の家電に組み込まれ、日常的に使う人が増えれば増えるほど、サンプルが多くなり、認識も分析も賢さを増す。
AmazonやGoogleが見据えているのはそうした時代であり、だからこそ積極的にプラットフォームを広げようとしているのである。サードパーティなくして音声アシスタントの成功はない。日本で独自にスマートスピーカーを始めたLINEはまだその途上にあり、勝負の舞台に上がれていない。
フリージャーナリスト。1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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