11月は「過労死等防止啓発月間」。2017年は過労による突然死や自殺の報道が相次ぎ話題になった。過重労働(長時間労働)は心身にどのような影響を及ぼし、どのような状態になると過労死のリスクが高まるのか。危険を察知したとき、本人や家族、職場の人間はどう対処すべきか。過労死の予防を目的に、過労死の実態や要因などについて調査研究を進めている労働安全衛生総合研究所 過労死等調査研究センター統括研究員の吉川徹さんにお話を伺った。
「過労死」は2つのケースに分けられる
――まず「過労死」の定義についてお教えください。どのような病気や状況で亡くなるとそう呼ばれるのでしょうか。
一般的には「過労死」と呼ばれていますが、法律上は現在の労災(労働災害)認定基準に当てはまるケースが「過労死等」とされています。この経緯について簡単にお話ししておきたいと思います。
かつて1980年代から90年代にかけては、過重労働により、脳卒中などの脳血管疾患や、心筋梗塞などの心臓疾患で死亡するケースにいわゆる「過労死」の名称が用いられ、社会的な注目が集まりました。2000年代には過労死された方の遺族や遺族を支援する弁護士などが中心となり、過労死防止基本法制定実行委員会(通称:「ストップ!過労死」実行委員会)を結成。国会や地方議会に働きかけ、2014年11月に「過労死等防止対策推進法」が施行されました。この第2条では、「過労死等」が以下のように定義されています。
・業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
・業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
・死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害
つまり、この法律では、死亡には至らない脳血管疾患、心臓疾患、精神障害も対象とするため、過労死ではなく「過労死等」とされたのです。私が所属する労働安全衛生総合研究所では、かねて過重労働による健康障害についての調査研究が行われてきましたが、法律の施行により新たに「過労死等調査研究センター」が設置され、過労死等を対象にした本格的な調査研究を始めました。
――なるほど。では、過労死は、脳血管疾患または心臓疾患による、いわゆる突然死と、精神障害による自死(自殺)の2つのケースに分けられるのですね。現状では、どちらのほうが多いのでしょう。
過労死等の全体の割合でいうと、脳・心臓疾患が4割、精神障害・自殺が6割となっています。
脳・心臓疾患、精神障害・自殺の労災補償請求件数と支給決定(認定)件数の推移を見ると、脳・心臓疾患のほうは2002年から請求件数は800件前後、支給決定件数は300件前後で推移しており、ほぼ横ばい。精神障害・自殺のほうは1998年を境に、請求件数・支給決定件数ともに右肩上がりで増加傾向が見られます。
脳・心臓疾患が男性に圧倒的に多いのはなぜ
――では今回は、脳・心臓疾患について詳しくお伺いしたいと思います。脳・心臓疾患は労災補償の請求件数も支給決定件数もほぼ横ばいということですが、その中で見られる傾向はありますか。
過去5年間に労災認定されたデータでは、脳・心臓疾患は年代別では40代、50代に多く見られます。性別では男性が96%・女性が4%と、圧倒的に男性が多くなっています。また、脳・心臓疾患で死亡するケースは全体の約4割で、死亡の場合も男性が97%を占めています。
――脳・心臓疾患が男性に圧倒的に多いのはなぜでしょう。