
トランプ米大統領が5日から7日までの日程で、就任後初めて日本を訪れる。イタリアの有名ブランド、ブリオーニのスーツを愛用し、自らの名前を冠したブランドを持つというトランプ氏。元モデルのメラニア夫人、長女のイバンカさんもブランドを運営するなど、ファッション業界との縁(えにし)は深い。来日の機会にその装いについて専門家に聞いた。
服飾史家で明治大学特任教授の中野香織さんは「若いころから現在にいたるまで、俺様スタイルを貫いていますね」と分析。「スーツが大きめ。ネクタイはベルトよりも下に垂れ下がっているし、上着のボタンも留めず、明らかに装いのルールを外している」と指摘する。
トランプ氏はペンシルベニア大学ウォートン校出身のアイビーリーガー。加えて、ファッションに詳しい夫人や長女も助言できるはずなのに、そんなスタイルを貫く理由について、中野さんは「わざとではないか」と見る。
■ルール無視の装い、支持者受け狙う?
「エリート層ではなく、自らの支持層である大衆に受けることを狙っているのではないか」というのだ。「スーツはいいものをチョイスしているのに着方がおかしい。世間のルールは無視してかまわないという『俺様流』を貫き通すつもりなのだろう」と中野さんは語る。
中野さんによると、実は米国の歴代大統領もいろいろと装いの慣例を変えてきたのだという。
近いところでいえば、オバマ前大統領。初当選した2009年の就任式後の舞踏会で、タキシードに白いボウタイを合わせた。ドレスコードでは、タキシードに合わせるのは黒いボウタイ。ホワイトタイといえば燕尾服(えんびふく)になる。しかし、オバマ氏は4年後の2期目の就任祝賀舞踏会でも同じスタイルを選んだ。
中野さんは「ドレスコードは英国発祥。だから『私は米国の大統領であって、英国が決めたルールに従う必要はない』という、確信的なものだったのだろう」と解説する。
ほかにも、アイゼンハワーは当時、正装に欠かせなかったシルクハットをかぶらずに、レーガンはディレクターズスーツで就任式に臨んだという。大統領の装いにはさまざまな意味が込められているようだ。
■カフスにこだわり?
松屋銀座の宮崎俊一・特別専門職シニアバイヤーも「点数をつけるとすると100点満点で40点」とトランプ氏に手厳しい。しかし、「体形や髪形に不思議と似合っている。中途半端におしゃれにすればかえっておかしくなる」とも付け加える。
「スーツは8000ドル(約94万円)前後の非常にいいもの」とみる。ただ、「おそらく既製服かパターンオーダー。さっと店舗に行ってさっと買ってきた、という印象を受ける」という。
宮崎氏が注目するのはシャツの袖口だ。折り返してカフリンクス(カフスボタン)で留める「ダブルカフス」をトランプ氏は好むという。「カフリンクスは非常に上等なもので、おそらくスーツよりもかなり高価。演説で手を振り上げたときなど、キラリと光りトランプ氏をより強く印象付けている」という。
■スーツは高級生地「スーパー200」?
一方、高級スーツ店「銀座英国屋」を運営する英国屋(東京・中央)の小谷邦夫副社長は「体格の大きい人はどうしても大きめのスーツになる」とトランプ氏を擁護する。「政治家や実業家は自分を立派にみせようとする意識がはたらく」と話す。
スーツについては「上着の両裾が後ろに逃げているように見える」と指摘する。「ボタンを留めるためには寄せなければならず、それがおっくうになっているのではないか」と、『トランプスタイル』の理由を分析する。「ボタンの位置を上部に仕立てれば、もっとすっきりした印象になるはず」という。
小谷氏が注目するのはスーツの生地だ。「おそらく『スーパー200』(原毛の太さが13.5マイクロ=マイクロは100万分の1=メートルの生地)だろう。イタリア産や英国産の高級服地で、スーツに艶や色の深みを生んでいる」とみる。
2017年2月、米ワシントンで初の首脳会談後、記者会に臨んだ安倍首相とトランプ大統領=首相官邸ホームページから■ネクタイにメッセージ込める?
トランプ氏のトレードマークといえば鮮やかな赤のネクタイ。しかし色彩心理の専門家である佑貴つばさ氏は「相手や場所に応じてネクタイを変えている」と指摘する。就任式のように国民に力強く語りかけたい時は「情熱、エネルギー、リーダーシップ」を表現する無地の赤、主要国首脳会議(サミット)などでは「冷静、知性、信頼」を訴える無地の青を選ぶことが多いという。赤も青も星条旗を連想させる効果がある。
トップ同士の会談ではさらに戦略的になる。佑貴氏がその代表例とするのが独メルケル首相との初会談だ。トランプ氏は「紺に細い白のレジメンタル」という地味なネクタイを着用していた。「紺は厳格さとともに抑制の印象を与える」と佑貴氏。北大西洋条約機構(NATO)の負担金や難民対策でメルケル氏とは意見の違いが目立っていた時期だ。「私はあなたと会って今、ハッピーな気分というわけではありませんよ」と暗黙裏に示したわけだ。実際トランプ大統領はメディアが求めた握手シーンの撮影を無視した。
半面、2月の安倍晋三首相との会談では赤地に白いドットのネクタイだった。「日の丸を連想させることで日本を象徴したのだろう」と佑貴氏はみる。一方の安倍首相はゴールドに近い無地の黄色。富や成功、権威を象徴するゴールドはトランプ大統領が好む色だというから、敬意を表したのかもしれない。
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