安い速いスイフトスポーツ 200万円切り実現の秘密
2017年9月に発売されたスズキの新型「スイフトスポーツ」。印象的な外観、凝った内装、「これホントにスイフトなの?」と思った走りを実現しながら、6MTモデルが183万6000円、6ATモデルが190万6200円と200万円を切る価格を実現している。小沢コージ氏が実際の走りを確認した上で、スズキらしい「安さの秘密」を探っていく。
相変わらず安くて速くてウマい!
再び帰ってきました。ニッポンの走り好きお父さんの友、スズキ「スイフトスポーツ」! コンパクトハッチ「スイフト」の俊足ハイパワーバージョンで、振り返れば初代スイフトから用意されており、今回で実に4代目。
その昔、矢沢永吉のCMで「ブレてないな俺!」と振り返って自画自賛するシーンがありましたが、それと全く同じというか。スイスポことスイフトスポーツもかなりブレてません。
というのもこのクルマは、ホンダ「シビック タイプR」や三菱「ランサーエボリューション」のごとく、走りの硬派さや本格さを競うタイプではなく、入りやすさであり買いやすさがキモ。ぶっちゃけ常に安くて手軽なんです。
初代の車両本体価格はMT車で156万4500円、2代目&3代目は168万円。装備充実、さらに速くて安全になった新型でも183万円です。シビック・タイプRが今や400万円を超え、手軽なホンダ「フィットRS」でさえ200万円超える時代、この価格はまさしく奇跡! ホントにブレてないなぁ。
とはいえ気になる部分もあります。それは今回の4代目がいろいろ凝り過ぎにも見えること。なにしろスイスポ初の3ナンバーワイドボディーをまとい、初のターボエンジン、初のトルクコンバーター式ATまでチョイス可能。どれもぶっちゃけお金が掛かりそうな部分ばかりで、「これでどうやって200万円以下をキープできたんだ?」という出来栄え。そのうえオプションでも最新先進安全技術である「デュアルセンサーブレーキサポート(DSBS)」が付けられるようになったわけで、「うれしいけどホントに大丈夫なの?」的な心配も。はたしてスイフトは今後も本当の意味でのお父さんの味方であり続けられるのか?
これで200万円以下ってどういうこと?
まずビックリしたのは外観。フランクフルトショー2017で発表されたときにも思いましたが、欧州市場向けでは初採用となる鮮烈なチャンピオンイエローのボディーカラーもさることながら、明らかにノーマル「スイフト」よりカッコいい。エクステリアの造形が明らかに攻めてるんです。抑揚がより増してかなりセクシー!
「ええ? これって一部ちょっとエアロパーツをイジったレベルなの?」と思いきや、聞いてビックリ。スイフトスポーツはなんとノーマルと比べ、鉄板はボンネットやルーフ回りのみを残して前後フェンダーからドアパネル、リアコンビランプに至るまで完全新作! ズバリ外観はほぼ別物なんです。これで価格200万円以下キープって一体どういうこと?
インテリアも凝ってます。インパネはさすがにノーマルと同じですが、助手席前を一気通貫する部分やドアハンドル、シフト回りに赤い専用樹脂パネルを採用。6MTの本革シフトカバーには赤いステッチも入ってるし、それはATシフトでも同様。ステアリングは小径の専用本革巻きタイプです。
決定的に違うのがバケットシートで、この手のクルマによく付いているレカロシートとも違う、スイフトサイズに最適化された専用タイプ。長距離は試せていませんが、座り心地が良く、サポート性もいい。明らかに作りに気合が入ってます。
ホントにこれスイフトなの!?
なによりもビックリしたのは走り。エンジンはSUVの「エスクード」用の直噴1.4Lターボをスイフトスポーツ用にチューニングし直したもの。最高出力が先代の136psから140psに上がっているだけでなく、最大トルクも210Nmから230Nmに上昇。そのために燃料噴射用のジェットにK14C型ブースター式を採用したとのこと。
肝心の走りですが、もう発進からしてビックリするほど速くて、最初は「ホントにこれスイフトなの?」と思っちゃったほど。
というのも今回はスイフトシリーズ全体の軽量化が効いていて、強化ボディーでも6MTで970kg、6ATでも990kgと1トン切り。結果、ほかのスポーツモデルと比べて格別パワフルではない140psエンジンでもものすごく速い。低速から高速までどこで踏んでもグワッと立ち上がります。
実際、3速か4速に入れて、時速40kmを超えればもうギアチェンジの必要ナシと感じるほどフレキシブル。MTでもかなりズボラ運転を楽しめるわけです。ギアチェンジそのものも非常に軽く、スムーズに決まるし、6ATモデルでは、CVTにあった間延びするフィーリングはなく、ますますどちらを選んでも良くなりました。
それより意外だったのが、足の硬さで今までのスイスポは、ダンパー&スプリングとも専用でそれなりに締め上げられつつも快適さ重視だったのがこれまでになく硬め。
今回ハイパワー化したのと同時に軽量化で乗り心地が硬く感じられるようになったためで、新型は今まで以上に攻めた乗り心地になってます。乗り心地の角は丸められ、荒れてない路面では問題ないですが、大きめの段差を越えたときには結構ガツンとショックが入ります。ここは好みが分かれるかも。
同時に今回はスイフト全体がそうですが、明らかに先進安全性能もアップしていて8万6400円のオプションでDSBSを装着可。 車線逸脱抑制機能、誤発進抑制機能(6AT)、車線逸脱警報機能、ふらつき警報機能、先行車発進お知らせ機能、アダプティブクルーズコントロールとひととおり付いてます。 ひとまず安心といったところでしょう。
なぜ200万円切りが可能になったのか?
オプションの先進安全はともかく、今までスイフトスポーツにはなかった直噴ターボエンジンに、かったるいCVTではなく6速ATに、専用ボディーまで備えてなぜスイフトらしい200万円切りの良心的価格設定ができたのかって、そこには秘密があります。
エンジンやギアボックスがほぼ既存の「エスクード」用ベースでいけたのはもちろん、ボディーは実は欧州用スイフトとほとんど同じ。日本ではスポーツ専用といいつつ本当に専用デザインなのはグリルぐらいで、後は事実上の欧州仕様。
ウラを返すと今回から全世界のスイフトスポーツの生産を、日本の浜松工場に集約したからできた芸当なわけです。
お金を特別にかけたようで実はそうでもないってところが、なんとも倹約家のスズキらしいヤリ口(笑)。うまくやってます。
とはいえ小沢的にスイフトスポーツは尊敬に値するクルマです。スポーツカーでちゃんとビジネスをする、ちゃんと利益を出すって本当に難しいんです。ぶっちゃけうまくやってるのは一部高級なフェラーリやランボルギーニ、ポルシェなどを除けばマツダ「ロードスター」ぐらいのもの。
それはスポーツカーが本質的には娯楽用だからで、なかでも利益の薄い大衆スポーツをずっと作り続け、モデルを絶やさないのは至難の業。それだけ需要が安定しないし、絶対的な必需品ではないからです。そこでスイフトスポーツのように初代から12年も続けて販売し続けているのはすごい。スズキの努力の賜(たまもの)です。
ましてや今回は適度な実用性を保ちつつ、明らかにスポーツ度を増してます。確かにリアシートもトランクもさして広くはありませんが、この安全とエコの時代に、安くてよりおいしい大衆スポーツを生み出すこと自体がエライ! 今年出たクルマの中でも出色の出来と言っていいのかもしれません。
小沢的にはスイフトスポーツが、マツダ・ロードスターのように長く世界のクルマ好きに愛されるモデルになってほしい。唯一残念なのがスポーツカー大国、北米で売られてないことですが、ここはなんとも。かなり強引ですが、新時代のトヨタグループの力で北米マツダでも売って欲しいくらいですが、それはまあ妄想として、とにかく長く愛されるものになっていただきたいものです。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
[日経トレンディネット 2017年10月4日付の記事を再構成]
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