こんな「秘境」に外国人が続々! 次の人気スポットは
インバウンドサイト発 日本発見旅
日本人でも簡単には行けないアクセスしづらい場所に、外国人観光客が大勢訪れているという話をよく耳にします。「秘境」というと言い過ぎかもしれませんが、そのイメージに近い村や山里には、外国人を引き付ける何かがあるようです。
それはデータにも表れています。日本経済新聞社の「インバウンド統計リポート」(2017年8月23日公開、データは日本政府観光局「訪日外客数」)によれば、17年4~6月期における都道府県別の外国人観光客数で、前年同期と比べて伸び率が最も高かったのは徳島県(314.3%)。続いて熊本県(301.6%)、大分県(144.6%)、滋賀県(80.6%)、宮崎県(62.6%)となっています。
熊本県と大分県は2016年に震災があったために観光客数が減り、その反動で伸びたと考えられますが、1位の徳島県は、この1年間だけでなく過去5年以上にわたって増え続けています。
徳島県内で特に外国人観光客が多く訪れているのが、祖谷(いや)渓谷です。ちなみに祖谷は、白川郷(岐阜県)、椎葉村(宮崎県)と並んで「日本三大秘境」の一つに数えられている場所(諸説あり)。やはり秘境は魅力があるようです。
夫のシャウエッカーによると、一部の外国人(もちろん全員ではありません)はそういう場所が大好きで、滞在中に絶対行きたいと思って計画を立てているのだそうです。人里離れた場所は、外の世界とは疎遠になっているがために都市化されることなく、昔ながらの建物や自然がたくさん残されています。人々の暮らしぶりも同様です。
日本の原風景ともいえる山里の景色は、日本人ではなくてもどこか懐かしさを感じるようです。そんな景観を求める外国ツーリストたちは、アクセスの不便さをものともせず、むしろそれも楽しみながら、秘境に足を向けます。
深い自然と山里の暮らしが魅力の祖谷
外国人観光客が急増している祖谷。平家落人伝説が残るこの谷で、彼らが訪れるスポットは、ダイナミックな絶景が眺められる大歩危(おおぼけ)峡、山の急斜面に広がる「落合集落」、ケーブルで谷底に下りてゆく「祖谷温泉」の露天風呂など。シラクチカズラという植物のつるで作られた「かずら橋」は、いかにも秘境という雰囲気のつり橋で外国人にも大人気です。
祖谷を有名にした要因の一つとして、米国人の東洋文化研究者、アレックス・カー氏の古民家ステイプロジェクトが挙げられます。1970年代に祖谷を旅して魅了され、築300年のかやぶき屋根の古民家「篪庵(ちいおり)」を自ら購入して居住。現在では9棟の古民家を宿泊施設に改修した「桃源郷祖谷の山里」プロジェクトが進んでいます。秘境・祖谷に滞在し、生活設備はすべて整った古民家を1棟貸し切りで宿泊するスタイルは、海外の人たちにも人気です。
もう一つ、地元の方たちの努力も欠かせない要因であったと思います。外国向けの観光プロモーションを行い、積極的に観光客誘致を仕掛けるとともに、外国語の勉強など地元側の受け入れ態勢も整えました。また、人々が不便さを乗り越えて工夫してきた山里の生活を経験する様々な「体験プラン」も成功しているようです。
ジャパンガイドでは、スタッフのレイナが2015年に取材で訪れ「48 hours in Tokushima」という記事でリポートしています。彼女は吉野川の観光遊覧船に乗って大歩危峡の景観に恋をし(fell in love with the view)、落合集落を訪れた後、かずら橋を渡ってギシギシ音がしたり揺れたりするたびに恐怖と興奮を同時に味わった(scary and exciting)と楽しそうに振り返っています。夜は古民家「篪庵」に宿泊して、濃密で貴重な48時間を過ごしました。
ところで、海外の人たちはどのように日本の秘境についての情報を得ているのでしょうか。
やはりインターネットが最大の情報源であることは間違いありません。まずどんな魅力的な秘境があるのかをネットで知り、次にさらに詳しい情報を探し始めます。この時点でジャパンガイドはよく活用されているようです。秘境とは行きづらさの代名詞でもありますから、アクセスに関しては特に詳しく説明しています。
インターネット以外では、海外で発行されている旅行ガイドブックやテレビ番組などの影響も大きいようです。香港では地元メディアで祖谷が紹介され、それで大ブームになったという話も伝わっています。
これから注目されそうな秘境は?
これから外国人が増えそうな場所、または既に外国人観光客が訪れていて評価も高い秘境には、どんなところがあるでしょうか。シャウエッカーにいくつか挙げてもらいました。
「下北半島」(青森県)
下北半島の広さには、私も驚かされました。日本人なら誰もが描けそうな、あの印象的なマサカリの形。その最北端にある、マグロで有名な大間町まで行くのに、東北新幹線の八戸駅からレンタカーで4時間近くかかります。海の景色と山の景色の両方を楽しめ、途中にある恐山もスピリチュアルスポットとして外国人に人気があります。
「青荷温泉」(青森県)
南八甲田連峰に位置するランプの宿。本当にランプしかない一軒宿の温泉です。青荷温泉にぜひ行きたいという外国人から、ジャパンガイドのクエスチョン・フォーラムに宿に関する質問があり、体験者のユーザーが答えてくれたのは「電気はありません」「テレビ、コンセント等はありません」「携帯電話は圏外でインターネット接続もありません」「充電できないので予備のバッテリーを忘れずに!」など。なかなか体験できない生活なので、関心は高いようです。
「奥鬼怒温泉郷~湯西川温泉」(栃木県)
奥鬼怒温泉郷には4軒の秘湯がありますが、一般車両が通行できないので、宿の送迎車を利用するか徒歩で行くしかありません。祖谷と同じく、このあたりには平家落人伝説が残されています。湯西川温泉では、現在でもこいのぼりを揚げない習慣があるとか……。源氏方に気付かれないように、ひっそりと生きてきた人々の生活の名残なのです。東京から近いようで意外に行きづらいこの地域は、秘湯好きな外国人にも人気です。
「青ケ島」(東京都)
八丈島から船で南へ約2時間30分、れっきとした東京都です。アニメ映画「君の名は。」に登場する、糸守町の山のモデルではないかと話題になっている島で、英語のメディアにも取り上げられていました。
「君の名は。」は海外でも公開されました。日本のファン同様、「聖地巡礼」をする外国人観光客も増えています。絶海の孤島のような青ケ島ですが、熱心な人はここまで足を延ばすかも?
ジャパンガイド取締役。群馬県生まれ。海外旅行情報誌の編集者を経て、フリーの旅行ライターとなり、取材などで訪れた国は約30カ国。1994年バンクーバーに留学。クラスメートとしてスイス人のステファン・シャウエッカーと出会い、98年に結婚。2003年、二人で日本に移住。夫の個人事業だった、日本を紹介する英語のウェブサイト「japan-guide.com」を07年にジャパンガイド株式会社として法人化。All About国際結婚ガイド、夫の著書「外国人が選んだ日本百景」(講談社+α新書)「外国人だけが知っている美しい日本」(大和書房)などの編集にも協力。
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