秋きらめくステンドグラス 移ろう表情も魅力の10選
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日差し和らぐ秋は、色や光が優しく映える。
日本に根付いたガラスの芸術をランキングした。
ステンドグラスの技術は、宇野沢辰雄、小川三知という幕末生まれの2人の技師によって日本に導入された。宇野沢は国会議事堂の建設に備えてドイツに渡り、日本画を学んだ小川は米国で技術を習得した。「欧米2つのルートで明治の日本に伝わり、洋館や実業家の邸宅に盛んに取り入れられた」(田辺千代さん)
その素地には、日本家屋で親しまれてきた障子の伝統があるという。文明開化とともに紙に替わってガラスが使われるように。「陰影を楽しむ感受性を土台に、外来技術が日本に根付き、ガラスの芸術が花咲いた」(田辺さん)
ランキングに入った作品も、2人の先人の技術を伝えるものが多い。鳩山会館、国立科学博物館などは小川。国会議事堂、万平ホテル、横浜市開港記念会館は宇野沢の流れをくむ作品だ。見比べると、デザインや色使いにそれぞれの個性が表れている。
季節や時刻によっても、ガラスの色合いや輝きは変わる。鳩山会館の長田正太郎支配人は「夕日を浴びたステンドグラスが最も美しい」と話す。刻一刻と変化する表情も楽しさの一つだ。
最高峰の質と量(東京都千代田区)
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国政の中心である国会議事堂は、ステンドグラスの質と量でも群を抜く存在だ。国の威信をかけ1936年に完成した建物にはドイツで学んだ技師、宇野沢辰雄らが制作した国内最大級の作品が並ぶ。「圧巻は中央広間の東西南北に入れられた半楕円形の作品」(田辺千代さん)。幅6メートル、高さ2メートルで、技術レベルも高い。
与野党攻防の本会議場(写真は参議院)には、天井からガラス越しの淡い光が差し込む。堂内の随所で「戦前のステンドグラス全盛期の作品」(松本一郎さん)を楽しめる。本会議開催中などを除き一般見学を受け付けている。
(1)地下鉄国会議事堂前駅・永田町駅から徒歩3分(2)03・5521・7445(参議院警務部参観係)(3)無料
ハトや花 部屋ごとに(東京都文京区)
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関東大震災の翌年、後に内閣総理大臣を務めた鳩山一郎が東京都内の高台に建てた洋館。音羽御殿とも呼ばれた建物は、日本を代表するステンドグラス作家、小川三知の作品で飾られている。1996年から一般公開が始まり、気軽に鑑賞できるようになった。
階段の踊り場に面した作品は、五重塔と空飛ぶハトをデザインした作品。階段を上がるのに合わせて光と色が変化する。玄関や応接室にも「花や塔、紋章をデザインした作品があり、部屋ごとに違った雰囲気を醸し出している」(田辺さん)。特に鳩山家の象徴であるハトなど「小鳥が描かれた意匠が多い」(吉田淳一さん)。
(1)地下鉄江戸川橋駅から7分(2)03・5976・2800(3)大人600円
今昔の風景描く(長野県軽井沢町)
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軽井沢を代表するホテルの前身は江戸後期、中山道の宿場に開業した旅籠(はたご)「亀屋」。階段室は青海波の海を亀が泳ぐ絵柄のステンドグラスで飾られ、老舗の歴史を今に伝えている。
ダイニングルームの壁を覆う2面の横長ステンドグラスは大作。信州の山が連なり、浅間山が噴煙を上げる背景のデザインは軽井沢にちなんだもの。その前を江戸時代の駕籠(かご)が行き交い、左面ではゴルフ客を乗せた自動車が描かれる。「今と昔の軽井沢の風景や旅の様子がよく表れている」(藤森照信さん)。
(1)JR軽井沢駅からバス・タクシー(2)0267・42・1234(3)無料
明るく雄大 探す楽しみ(東京都台東区)
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本館中央ホールで天井を仰ぐと、天窓に丸いステンドグラスが輝いている。東西南北の吹き抜け、階段室、踊り場にも唐草模様や鳳凰(ほうおう)などのシルエットが隠れている。「科学博物館にふさわしい明るさと雄大さ。作品を探すのも楽しみ」(仰木ひろみさん)。「見応えあるサイズなのに作業が細かい」(酒井昭宏さん)。
(1)JR上野駅から徒歩5分(2)03・5777・8600(3)620円(常設展)
建物がまるで玉手箱(東京都北区)
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実業家、渋沢栄一の邸宅があった飛鳥山に残る大正の建物。青淵文庫に入ると、外光が差し込むステンドグラスが目に飛び込む。渋沢家の家紋や唐草、竜などをあしらった作品は「ガラスの使い方がうまく、落ち着いて調和がとれている」(越前谷典生さん)。「ステンドグラスが主張しすぎず、建物が玉手箱のよう」(仰木さん)。
(1)JR王子駅から徒歩5分(2)03・3910・0005(渋沢史料館)(3)300円
大正ロマンの香り漂う(名古屋市)
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日本初の女優といわれる川上貞奴が大正時代に住んだ家を復元した。ステンドグラスは図案家、杉浦非水のデザインで「大正ロマンの香り漂う作品」(越前谷さん)。「グラフィックデザイナーの先駆けでもある杉浦作品として価値が高い」(松本さん)。「貞奴のイメージと重なり、ステンドグラスの色気も十分」(伊郷吉信さん)。
(1)地下鉄高岳駅から徒歩10分(2).052・936・3836(3)200円
100周年 港町のシンボル(横浜市)
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1917年、開港50周年の記念事業として寄付金で建てた横浜のシンボル。「ジャックの塔」で知られるれんが造りの塔と本館は今年、100周年を迎えた。帆船の図柄は幕末にペリーが乗船したポーハタン号。「貴賓室には市章を中心に鳳凰が飛び、左右に箱根越えを楽しむ外国人の図と呉越同舟が見られる」(増田彰久さん)。
(1)JR関内駅から徒歩10分(2)045・224・8181(横浜市中区役所)(3)無料
美しさに息のむ三連窓(北九州市)
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明治の実業家、松本健次郎が1912年に建てた自宅兼迎賓館。アールヌーヴォー様式の洋館と書院造りの日本館があり、三連窓のステンドグラスが見事だ。「青空と白雲、実るぶどうに小鳥が飛ぶ。光を透過したガラスの美しさに息をのむ」(田辺さん)。「小川三知最古の作で、図柄も色もすばらしい」(藤森さん)。春と秋に一般公開(事前申込制)。
(1)JR戸畑駅からバス(2)093・871・1031(3)無料
日本最古の色ガラス(長崎市)
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長崎を代表する教会は、現存する国内最古のキリスト教建築物であり、国宝でもある。正面祭壇奥にある「十字架のキリスト」は、原爆で破壊され戦後修復された。「側面の色ガラスが日本初上陸したステンドグラス」(増田さん)で、「日本のステンドグラスのスタート点を今に伝えている」(藤森さん)。
(1)JR長崎駅から市電(2)095・823・2628(3)600円
コンサートと鑑賞も(大阪市)
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大阪・中之島に威風堂々と立つ赤れんがの洋館。貴賓室だった3階の特別室には半円大窓と天窓にステンドグラスがはまる。建物の中からは「ステンドグラスに縁取られて街が絵のように見える」(藤森さん)。しばしばコンサートが開かれ、「至福の時をすごせる」(吉田さん)。ガイドツアー(事前申込制)を毎週開催。
(1)地下鉄淀屋橋駅から徒歩5分(2)06・6208・2002(3)500円(ツアー)
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ランキングの見方 数字は、選者の評価を合計した総得点。名称、所在地。(1)交通手段(2)問い合わせ先電話番号(3)通常期の入場料など。写真は1位葛西宇一郎、2位遠藤宏、3位吉川秀樹、5位田辺省二、7、9、10位増田彰久撮影。4位は国立科学博物館、6位は文化のみち二葉館提供。
調査の方法 原則として一般公開している施設の中から、歴史的な価値があり技術も優れた25カ所を事前に選出。その中から選者10人にベスト10を選んでもらい、合計して点数化した。選者は以下の通り(敬称略、五十音順)。
伊郷吉信(伝統技法研究会)▽越前谷典生(キュウコンステンドグラス)▽仰木ひろみ(谷根千工房編集者)▽酒井昭宏(JTB九州本社)▽田辺千代(ステンドグラス研究家)▽藤森照信(建築史家)▽増田彰久(写真家)▽松本一郎(松本ステンドグラス製作所)▽三宅治良(日本ステンドグラス連盟)▽吉田淳一(大阪産業大学教授)
[NIKKEIプラス1 2017年9月30日付]
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