エンタメ!

エンタな話題

五感で味わう京都・對龍山荘 名匠・植治の庭を歩く 作家・山下柚実

2017/9/23

書院「對龍台」から臨む景観。遠、中、近景が見事に溶け合う=山下柚実撮影

木をふんだんに使った新国立競技場の設計など斬新な発想で世界の建築シーンをリードする隈研吾氏は、いま「庭の時代」が到来している、という。「20世紀から21世紀へという転換の本質は、建築が終わって、庭がはじまったことである」(『熱帯建築家』)。

はたして「庭の時代」とは何を意味するのだろうか? 例えば明治に活躍した作庭の名匠・植治が手がけた京都の對龍山荘(たいりゅうさんそう)の庭を歩いた時、私たちはどんなヒントを見つけることができるだろうか? 「庭」は現代人に何を語りかけているのだろう?

◇  ◇  ◇

玄関から広間へと入った瞬間、視線が釘付(くぎづ)けになった。目の前に開けていく圧倒的な景色に視線が吸い寄せられる。

瞳が歓喜する。はるか遠くには、山々の稜線(りょうせん)。ゆるやかに続く峰と峰。その手前には、杉や松などの木々が背丈を競う。眼下には大きな池と滝、泳ぐ鯉(こい)、ほとばしる水の響き。遠、中、近景。すべてがつながりあい溶け合って飛び込んでくる。あまりに壮大な景色。これは現実なのか幻なのかと何度も目をしばたたかせた。

南禅寺界隈(かいわい)別荘群の一つ「對龍山荘庭園」の中心、書院・對龍台に私は座っている。

書院「對龍台」より比叡山や東山連峰を望む=山下柚実撮影

京都という大観光地のガイドマップにも載っていない。「京都の秘境」ともいわれる南禅寺別荘群。東山の麓にあり琵琶湖疏水(そすい)が庭の中へと引き込まれ、数寄屋建築と庭と東山の景色が一体化した特異な空間だ。

南禅寺界隈の地はそもそも琵琶湖疏水による水車動力の利用計画があり当初「工場用地」として開発される予定だった。しかし計画が実現に至らず、高級別荘地として分譲されることに。疏水から水を引き入れ庭園を作る別荘が財界人の憧れとなり、贅(ぜい)を尽くし趣向を凝らした名庭園と建物が次々に生まれた。今もなお明治期から昭和期、政財界人がこぞって建てた別荘15軒が残る。

中でも對龍山荘は、屋号「植治」こと七代目小川治兵衛の「傑作」として誉れ高い。昭和63年(1988年)に国の名勝に指定され、建物も庭も往時の姿をよく留めている。ルーツをたどると、薩摩藩出身の実業家・伊集院兼常が別荘として建てた後に呉服商・初代市田彌一郎(市田株式会社設立者)が譲り受けて増改修、植治が作庭を手がけて112年前に完成した。

對龍山荘の敷地は南北に長い。庭は池泉回遊式で疎水から何筋も水が流れ込んでいる。南側は、なだらかに傾斜する地を小川がチョロチョロと流れる、のどかな風景。その浅い流れはやがて蛇行し、茶室や露地を迂回して北側の庭へ到達し、豊富な水をたたえる大きな池へと注ぎ込んでいく。

エンタメ! 新着記事

ALL CHANNEL