このように、フェローに対して厳しい指導を行う藍沢と、手取り足取り丁寧に優しい指導を行う白石との間では、しばしば指導方法で対立する場面も出てきます。

しかし、白石は次第に「なんだかんだ、藍沢先生のほうが指導医に向いてるのかもね。何かあったら、俺がなんとかしてやるから。あなたのやり方には、ハッとさせられるわ」と語り、藍沢の決断力あふれる指導方法に尊敬の念を抱きます。

一方、藍沢も根底ではリーダーとしての白石に厚い信頼を寄せています。それは、最終話の地下鉄開通前の線路内で発生した崩落事故の場面で明かされます。

自分の指示のせいで藤川が被害にあってしまったことを悔い、司令塔の役目を別の人間に任せて現場に向かおうとする白石に対し、藍沢は「医者が二次災害にあっちゃいけない。これ以上被害を出さないために、情報をすべて集約して医療スタッフ、警察、消防に指示を出せ。この混乱だ。誰にでもできることじゃない。お前だから信じて任せられるんだ。指示を出すという形で、俺たちを守ってくれ」と、説得します。

私なりの救命をつくるしかない

さらにこの相反する2人のリーダーは、最終話のクライマックスで本当の気持ちを通わせ合います。

臨床医としてトロント大に行くことを決めた藍沢は白石に、「9年前、ここに来た理由は難しい症例が集まるからだった。あの頃の俺は自分のために医者をやってた。今は、誰かのために医者になりたいと思う。俺はそれを、お前たちから教わった。俺は出会いに恵まれた。お前との出会いも含めて。どうだ? 黒田先生の救命は超えられそうか」と尋ねます。

それに対し白石は「あー、たぶん無理ね。絶対無理。でも、落ち込まないことにした。どうせ無理だから。他の誰かのように仕事をしようと思っても。(中略)私は私なりの救命をつくってくしかないんだってわかった。強いリーダーシップもない、すぐへこむ。いつも迷ってばかり。そんなリーダーがつくる救命。それをやってくしかないって思った」と答えます。

その答えを聞いた藍沢が「そうか、なるべく早く見せてくれ」とエールを送り、それに白石が笑顔で応えるシーンは、おのおののプロ意識に裏打ちされたリーダー像と、互いに信頼し合う関係性が描かれ、多くの視聴者の反響を呼びました。

メンバー全員それぞれが成長

医師としての経験が10年を超えたとはいえ、組織のリーダーとしてはまだまだ未熟な2人。それでも藍沢は他の人の価値観を受け入れることで人間的に成長し、白石はフェローと一緒に悩みつつ、リーダーとしての自分を見いだしていきます。シリーズを通しての成長を感じたシーンでもありました。

藍沢と白石だけではありません。主要メンバーも、それぞれキャラクターの違うリーダー像やサブリーダー像として描かれています。

熱い使命感のもとにプロフェッショナルに仕事をこなす緋山の場合は、その真摯で熱意あふれる姿勢を近くで見てきた1人のフェローに、フライトドクターを一途に目指す決意を抱かせます。

常にチーム全体の雰囲気を意識し、ムードムーカーとしての役割を担う藤川は、患者に寄り添う優しさを持ちながら、いざというときには頼りになるサブリーダー的な存在です。

また、フライトナースのエースとして活躍する冴島は、一瞬ドクターが戸惑ってしまう場面などで、即座に的確なサポートをする実力と包容力を持っており、リーダーの参謀としての有能さは別格でした。

『コード・ブルー』は医療現場が舞台であり、医療ドラマとしての重厚さが支持されているドラマではありますが、このドラマの中で描かれている様々なリーダー像は、どのような業界や職種であっても共通する「組織におけるリーダーとしての在り方」を示してくれたような気がします。

自分が目指したいリーダー、もしくは自分がついていきたいリーダーはどのタイプなのか……? 自分をそんな視点でドラマの人物に置き換えてみると、何か違ったものが見えてくるかもしれません。

そんな視点からも楽しめた奥行きのあるドラマだったように思います。

ドラマが好評だったことを受け、18年には映画化されることも決まりました。映画ではフライトドクターとしてさらに厳しい試練が課され、医療シーンもより厚みを増すことでしょう。メンバー5人のさらに成長したリーダー像も楽しみ。今から公開が待ち遠しいです。

鈴木ともみ
 経済キャスター、ファイナンシャル・プランナー。日本記者クラブ会員。多様性キャリア研究所副所長。TV、ラジオ、各種シンポジウムへの出演の他、雑誌やWeb(ニュースサイト)にてコラムを連載。主な著書に『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。株式市況番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重TV・ストックボイス)キャスターとしても活動中。

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