いま「嘘のない番組」が好まれる(テレ東 佐久間氏)
ヒットメーカーが語る2017年(1)
テレビ、CM、映画、音楽、それぞれの業界のヒットメーカーに2017年のヒット作のトレンドを聞いた。4回に分けて掲載する。1回目はテレビ。2017年5月末から6月頭にかけてのゴールデンタイム週間視聴率で開局以来、初の「民放3位」となり、波に乗るのがテレビ東京だ。佐久間宣行氏は『ゴッドタン』(土曜25時45分)をはじめ様々な番組をプロデュースして、同局の勢いをけん引する作り手の1人だ。
◇ ◇ ◇
まずテレビ全般の話をすると、マスコミは「マスゴミ」と呼ばれることもあるそうですが、とにかく視聴者がテレビに対して不信感を抱いている。そういう時代性もあって、編集テクニックで面白くしている番組よりも「嘘のない番組」のほうが好まれる傾向があります。ものすごく時間をかけたり、偶然に出合った感動を伝える番組に対しては心を開いてくれる。
キャラクターでいうとイモトアヤコさん、ANZEN漫才のみやぞんさん、出川哲朗さんっていう『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)でおなじみのメンバーとか、テレビ朝日の「ナスD」こと友寄隆英ゼネラルプロデューサーみたいな人間味のある人物が支持されていますよね。
『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』(テレビ東京系)も、そういう流れを象徴する番組。うちの局がずっとやっている「素人ふれあいもの」と「タレントバラエティー」のハイブリッドになっていて、「タレントバラエティーでもこういう見せ方ができるんだ」と、うちのディレクターたちにとっても刺激になっています。
ただテレビ東京らしさっていうことであれば、特番の『池の水ぜんぶ抜く』のほうです。こちらも嘘がない番組ですよね。企画段階では反対意見が多かったと聞いてますが、それを跳ね返したのは伊藤隆行プロデューサーの人柄。比較的うちの局は失敗しても降格とかされないんで(笑)、そういう意味では振り切った番組が生まれやすいと思います。
演劇界の才能がドラマに進出
ドラマや映画では、演劇界で松尾スズキさんや宮藤官九郎さん以来の天才と言われていた人たちが、ここ数年で注目されるようになってきました。前川知大さんの『太陽』や『散歩する侵略者』が映画になったり、『視覚探偵 日暮旅人』(日本テレビ系)で福原充則さんが脚本に起用されたり。その下の世代もすごい才能がたくさんいるので、どんどんドラマに進出してくると思います。こないだ見た玉田企画なんか抜群に面白かった。
脚本では、バカリズムさんが引っ張りだこになってますよね。最近だと『架空OL日記』(日本テレビ系)がギャラクシー賞を取りましたけど、『番組バカリズム』(13年、NHK)や『ウレロ☆』シリーズ(11年~、テレビ東京/佐久間氏が担当)の脚本担当回の頃から評価が高かった。
海外だとアメリカのドラマが圧倒的に面白い。今見ないのは単純に損。『ゲーム・オブ・スローンズ』なんて、1話につき6億円とかかかってるんですよ!(笑)。それを300円とかでアメリカと同じタイミングで見られるんですから。
有料ドラマはどんどんダークかつ過激になってきていて、ポリコレ(※)でガチガチに固まってる地上波と両極端の方向に進んでいる。それはあんまりいいことじゃないと思うので、僕はその間のグレーな番組を作っていきたいです。
テレビ東京が出資している配信プラットフォームのPPJ(プレミアム・プラットフォーム・ジャパン)に関しては、AmazonプライムともNetflixとも共同枠で番組を作ってるので、現在あるものと違うソフトをどういう形で見せていくのか考えると難しいです。ただ非常に興味はあるので、『ゴッドタン』もそこで何か新しいことができるならやってみたい。「キス我慢選手権」の企画ならどの国でも分かりやすいですし(笑)
テレビ以外の話題でいうと、マンガは『月刊!スピリッツ』で連載中の『映像研には手を出すな!』がすごい。絵の自由さと設定の細かさがあるうえに、ちゃんとセリフで泣けるっていう。この作者は天才だなと思います。(談)
※ポリティカル・コレクトネス。政治的・社会的に公正・公平・中立的で、なおかつ差別・偏見が含まれていない言葉や用語のこと。
(ライター 遠藤敏文)
[日経エンタテインメント! 2017年10月号の記事を再構成]
10月17日(火)テレビ東京プロデューサー 佐久間宣行
10月18日(水)電通クリエイティブディレクター 篠原誠
10月19日(木)映画プロデューサー 春名慶
10月20日(金)音楽プロデューサー 蔦谷好位置
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。