母親と会いたくありません
脚本家、大石静さん
物心ついたころから母親が苦手です。今は結婚して子どもがいるので監視下からは離れていますが、お世話になったおじの法事に行かなくていいなどと、私の思いを踏みにじるようなことをたびたび言ってきます。娘は「おばあちゃんに会いたい」などと言いますが、極力会いたくありません。どう付き合っていけばいいでしょうか?(東京都、40代、女性)
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むずかしい質問です。
お子さんの頃から一体何があったのか。あなたがどのようにお母さんに支配され、苦しんで来られたのか。細かい事情がわからないのですが、これだけはわかります。
あなたはもう40代です。
40年以上も人生を生き、伴侶を選択して結婚し、新しい家族を作って、お嬢さんを育てている大人です。
そのあなたが、法事に行く、行かないなどということをいちいち実家のお母さんに指示されるのは、まったくおかしなことです。堂々と自分の意志を貫かれたらよいと思います。
今のあなたは、「親孝行」を美徳とする世間の常識に縛られていませんか。でも世間の常識とは、時に人を不幸にするものなのですよ。当たり前の価値観に支配されていると、自分自身を守れない場合もあるのです。
「どう付き合っていけばいいでしょうか?」と質問にありますが、親子でありながら、「極力会いたくない」ほど拒絶している人との関係は、この先、付き合い方を変えて好転するとは思えません。恐らく60代後半か70代であろうお母さんの人格は、この先も絶対に変わらないでしょうし。
それならば、あなたは勇気を持ち、自分の口から「私のことはほっといて」「もう連絡して来ないで」「もう私はいないと思って」と言ったらどうでしょうか。
お母さんは驚くでしょうし、傷つくでしょう。あなたもストレスだったとはいえ、長年の母娘関係を断ち切れば、喪失感を覚えるかもしれません。でもきっと楽になるはずです。
親不孝という世間のそしりなぞはねのける勇気を持って、喪失感も受け止める強さを持って、お母さんから解放されてください。実の母を失っても、あなたには精神の自由を手に入れてほしいと、私は思います。
お嬢さんの「おばあちゃんに会いたい」という気持ちは、あなたとご主人の愛情があれば、大きな欠落にはならないはずです。
そしてどうか、否定するお母さんのような母親に、あなたはならないでくださいね。
[NIKKEIプラス1 2017年8月26日付]
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