気の利いたことが言えません
著述家、湯山玲子
会話の中で、気の利いたことが言えません。あとから「あの時ああ言えば良かった」と反省してばかりです。会話をしながらも、この返しで正しいのか、間違えたか、と正解を求めてしまって疲れます。どうしたら会話を楽しみながら、うまくコミュニケーションがとれるでしょうか?(福島県、30代、女性)
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私はこの数年、テレビのコメンテーターという新しい仕事にチャレンジしていますが、この仕事は、質問者の「気の利いたことが言えない」という心証と大いに重なるなあ、と思い至りました。
このお仕事、事前に「こんなことを言えばウケる(気の利いたことが言える)」と準備していたことが、司会者の話の振り方でかみ合わない回答になったり、何の気なしに言ったことが大ウケで爆笑を招いたりの試行錯誤が日常茶飯事で、相談者氏と同様「あの時ああ言えば良かった」という反省ばっかり。
そんな中で体得したコツは「心をオープンにすること」。それを実行すると、自然と自分の存在が「場」の空気にシンクロし始めます。話に参加している全員の中でエネルギーが回っていくという感じでしょうか。
たとえば気の利いた発言を周到に準備したとしても、人の話を聞いていないなど心を閉ざして壁をつくっていては、その人に会話のパスは回りません。回ったとしても、準備していた「気の利いた言葉」は、他人との間に置いている自分の壁を越えなければならないので、相手の心を動かすようなパワーは失われているのです。
そして「自分の返しが正解だったかどうかが気になる」という相談者氏の心証も、またひとつの壁。なぜならば、その壁は「自分の言葉を、さすがの発言だと褒めてくれる返し」以外の相手の自由な反応をはじき返すので、会話がうまく回っていかず、相談者氏を孤立させてしまう結果にもなりかねない。
一度、会話の場で完全に聞き役に徹してみてはいかがでしょう。心をオープンにして人の言葉に聞き耳を立てて、言葉を発しなくても「場」の無視できない一員と化す、という境地を味わうのです。
ちなみに私はコレをネイティブスピーカーばかりの外国語会話の「場」で実行します。会話の中で自然と心の中にたまってきた「言いたいこと」がついに自分の口から出たときの、言葉の威力はすでに実証済み。会話を楽しみたい、という相談者氏は、まずは会話の場を「すごい聞き役」としてエネルギーの交換を楽しむ感覚を手に入れていただきたいと思います。
[NIKKEIプラス1 2017年7月29日付]
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