朝ドラに新風『ひよっこ』 名もなき人たちの群像劇
1960年代、集団就職で奥茨城から東京にやって来たみね子(有村架純)の成長をつづるNHKの連続テレビ小説『ひよっこ』。朝ドラの定番と言える「ヒロインが夢や目標に向かう話」とは少し違い、みね子を中心とした群像劇が展開する。これまでの朝ドラとは違うアプローチで臨んだ本作の狙いを制作者に聞いた。
物語は中盤を迎え、東京に根を下ろしつつあるみね子の新たな展開を描く。みね子は、最初は墨田区のラジオ工場で働いていたが、不況で倒産。失意の中、東京で親代わりの鈴子(宮本信子)のレストラン「すずふり亭」でホール係として働くことになる。
「開始当初は故郷で家族の絆を、その後の工場編では懸命に働くみね子を描いてきました。今後は上京から1年半ほどたったみね子に恋が訪れ、新たな登場人物もたくさん登場します」と制作統括の菓子浩氏は話す。
「今回は高度成長期を支えた名もなき人たちの物語。懸命に生きる姿を通し、『これは私の物語だ』と感じてほしい。視聴者の手紙も、自らを投影して作品に入り込んでくれている方が多いです」(菓子氏、以下同)
みね子が父に宛てた手紙という形で流れるナレーションでは、日々の営みを大切に暮らす人々への思いが語られている。
「工場が閉鎖された時の、みね子たち女子工員全員が寮の食堂でカレーライスを食べる場面のナレーションが、この作品のすべてを語っています。『私のことや、寮で同室だったメンバーの話ばかりになってしまったけれど、工場にいるみんなに物語があって、それが東京という場所だと思います』――(脚本の)岡田(惠和)さんがこの作品で伝えたかったのはそういうことなのだと」
もし、みね子が生きていたら現在70代前半。当時のことを覚えている人は多い。準備段階でインタビューを重ね、物語の世界観を構築した。
「ディレクターたちが当時の農家の暮らしを知る地元の方々や、集団就職で上京して工場で働いていた皆さんに話を聞きました。都内にある老舗洋食屋にも何軒か伺いました。『ドキュメント72時間』(NHKのドキュメンタリー番組)のように、店の1日の流れを見せていただき、演出の参考にしています」
ドラマでは「すずふり亭」従業員や、みね子が暮らすアパート「あかね荘」住人たちの人生模様や、工場仲間のその後も描かれる。突然消息を絶ったみね子の父・実(沢村一樹)の行方など、気になることは多い。「何が起きたのかは、そろそろはっきりします。みね子は様々なことに対し、成長したからこその決断をします。特に恋愛話は後半まで取っておいたので、たっぷり描きます」
みね子は東京で自分の居場所をどう見つけるのだろうか。隣人目線でその奮闘を見守りたい。
(「日経エンタテインメント!」8月号の記事を再構成。敬称略。文/田中あおい)
[日経MJ2017年7月21日付]
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