ガテン女子向けタオル 男じゃ分からない生地に魅力
前回の記事「ハローキティの工具袋 ガテン女子の招き猫となるか」で取り上げたガテン女子向けの工具袋は、袋にあしらったハローキティ柄と、体に負担の少ない軽さがポイントだった。ガテン女子にフィーチャーした新商品は、これ以外にも続々と登場している。
今回は、現場で作業する女性向けに開発されたタオルに注目したい。発売元の重光商事は、企画段階で聞き取り調査を行い、現場で汗を拭う女性ならではのニーズに着想を得たという。「これまでに例がない斬新な形状」と担当者が自負するタオルだ。ガテン女子向けのタオルって、一般のタオルと何が違うのか?
女性作業員の「汗の拭き方」がヒントに
ガテン女子向けの「現場タオル」を開発した重光商事は、企画と卸売りを営む石川県金沢市のタオル問屋だ。業務用やノベルティー用を主力に約600種類の商品をラインアップし、国内におけるタオルの年間消費量10万トンのうち約4000トンを販売する。それだけ多くの商品を扱いながら、「女性向けに開発したタオルは唯一これだけ」というからレアな位置付けではある。
というのも、「女性向けのタオル」というコンセプトは、現場での聞き取りから期せずして生まれた。ホームセンターへの販路拡大を狙い、職人ユーザーが多いワーク系業界向けの画期的な新商品を作ろうと、建設会社や住宅メーカーでヒヤリングを行い、同席した女性作業員のこんな言葉がきっかけになったのだという。
「作業現場で汗を拭くときは、ハンカチを出して押し拭きをするんです」
この「汗の拭き方」を大方の女性が聞いても驚きはない。ああ、そうね、と思う。だが、男性の担当者は「そりゃ面倒だな……」と感じたそうだ。「オトコの職人は、滴り落ちる汗を作業服の袖や襟でガシガシ拭きますが、女の人は日焼け止めやお化粧を塗っているから、押すように拭くらしいんですよ。汗を拭くたびに、いちいちハンカチをポケットから取り出すのは不便だと感じました」。こう話す営業部の紺谷晋さんは、近ごろ「ドボジョ」(土木女子)が話題になるなど、ガテン女子への関心が高まりつつある現状も知った。そして、同社のホームセンター担当者らは「汗をかいて頑張る女性のニーズに応えるタオル」の開発を思いつく。
そこから開発が始まった。女性のクレーン操作技術者、施工技術者、現場監督らとヒアリングを重ねると、大まかな要望は3つ。「薄くて軽い」「柔らかくて肌触りが良い」「水分をしっかり吸収する」、これらの機能を現場タオルに盛り込むことにした。
ここまでは普通のタオルと何ら変わらない。違うのはその構造である。
パイル地とガーゼ地の配置が「逆」
現場タオルの構造の図解がこちらだ。
製品化された現場タオルと、実際に着用した感じはこうだ。
みなさん、お気づきだろうか? 現場タオルの最大の特徴は、タオルの両端がフワフワのパイル地で、中央部が薄いガーゼ地になっていること。よくある「粗品タオル」とは逆の設計なのである。
粗品タオルとは、銀行や商店、旅館などでもらうことの多いアレだ。タオルの両端がガーゼ地になっていて、そこに商店名などが印刷されている。タオルの一部をガーゼ地にする理由は、一説には「広告を入れるため」ともいわれるが、もともとは違うようだ。「生産者の話によると、タオルは重量を基準に販売するので、サイズと重量が同じなら薄い平地(ガーゼ地)の部分を多く入れたほうがパイル地の厚みを増すことができる。なるべく少ない重量でフワフワ感を出すための工夫だそうです」(紺谷氏)とのこと。
ともあれ、現場タオルではパイル地とガーゼ地の配置を、いわゆる粗品タオルとは逆にしたのはなぜか。それこそが、女性作業員の使い勝手を追求した結果である。
タオルを首に掛けたとき手元に近くなる両端部分に、押し拭きに便利なフワフワのパイル地部分を持ってくる。これなら、ハンカチをいちいちポケットから取り出さなくてもサッと汗を拭える。そして、首回りにはガーゼ地を配して汗を吸わせやすくし、蒸発時の気化熱で涼しく感じさせるのだ。
現場で分厚いタオルを首に巻いていると、首回りに熱がこもって暑いらしい。ワーク系の職人の間で、今でも日本手ぬぐいの需要が多いのは、手ぬぐいの肌当たりがサラッとして涼しいからだと聞く。女性向けの現場タオルにも同様の効果を持たせたわけだ。
パイル地とガーゼ地で1枚のタオルを構成する構造は、ありふれた粗品タオルにも見られるように、特段変わったものではない。ただし、その配置を既存の習慣とは逆にしたタオルの形状は、「おそらくほかに例がない」と同社は自負する。しかも、タオルは首に軽く結んだ状態でも下を向く作業などで落ちやすいそうだが、この現場タオルは「先端部分が太いので解けにくい」(紺谷氏)というメリットもあるのだ。
タオルでも「ダサピンク」は即座に却下された
こうした商品の形状は開発の早い段階でそのアイデアが生まれたが、色はすんなりとは決まらなかったという。「女性が使うから、なんとなく明るいピンクだと思い込んでサンプルを作ったところ、女性の作業員から『ピンクはいらない』とバッサリ却下されました(笑)。『現場でピンクを使うなんてあり得ない!』と。現場はまだまだ男社会。心理的に男性メンバーと同化したい、目立ちたくないという思惑が働くのだろうと感じましたね」(紺谷氏)
この事例は、一般に上層部の中年男性に見られがちな現象として、ネットで「ダサピンク現象」と呼ばれている。以前、大手カバンメーカーに取材した「ビジネスバッグもジェンダーフリー 女性目線で開発」でも触れたように、「女子はピンクが好き」という決めつけが残念な商品を生み出すことを指す。
何もピンクのタオルがダサいのではない。使い手の趣味嗜好やTPOを鑑みず、「女性ならピンクだろう」と安直に決めつける思い込みがダサい、ということだ。
女性作業員の意見を参考に、発売当初はアイボリーとキャメルの2色でスタートした現場タオルは、この5月にピンク、マスタード、白、ブルーの4色を追加した。ホームセンターの売り場担当者から「華やかなカラーも欲しい」との要望があり、幅広いユーザーに向けて色を増やしたのだという。
ホームセンター内で重光商事がタオルを販売するのは、「ワーク系」と「園芸」のコーナーだ。ワーク系は、作業服や地下足袋などが並ぶ売り場で、ガテン女子もそうした現場アイテムを身に着ける男性の職人さんと違和感のない姿で仕事をする。
一方、ピンクの現場タオルは、家庭でガーデニングを楽しむような主婦層に向けた商品とのこと。「よく見るとちょっと変わっていて合理的な設計だわね」と、園芸コーナーでオシャレなタオルとして注目され始めている。
(ライター 赤星千春)
[日経トレンディネット 2017年6月16日付の記事を再構成]
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