ダイエット系炭酸飲料 飲み過ぎで脳卒中や認知症に?
サッカリン、アセスルファムK、アスパルテームといった人工甘味料を添加した炭酸飲料(ダイエットコーラなど)を毎日のように摂取していると、それらを全く飲まない人に比べ、脳卒中と認知症のリスクが2倍から3倍に高まることが、米国の疫学研究で示されました。人工甘味料を使わない加糖飲料の摂取頻度と脳卒中や認知症の間には関係は認められませんでした。
人工甘味料と脳卒中・認知症にはどのような関係が?
この研究は、「フラミンガム研究」と呼ばれる疫学研究で、主に循環器疾患の発症要因を調べるために、米国マサチューセッツ州のフラミンガムという町に住む人々を長期にわたって追跡しています。
今回、米ボストン大学医学部のMatthew P. Pase氏らは、この研究データを用いて、人工甘味料に焦点を絞った分析を行いました。参加者のうち、45歳を超える2888人(平均年齢62歳、45%が男性)を脳卒中に関する分析の対象とし、60歳を超える1484人(平均年齢69歳、46%が男性)を認知症に関する分析の対象にしました。すでに脳卒中を経験していた人や、他の神経系疾患の患者、認知症または軽度認知障害と診断されていた人などは除外しました。
摂取頻度を検討した飲料は、以下の3つのカテゴリです。
1 すべての加糖飲料(コーラ、ジュース、果汁入り飲料など)
2 人工甘味料を含まない加糖炭酸飲料(コーラなど)
3 人工甘味料を含む炭酸飲料(ダイエットコーラなど)
1991~95年、95~98年、98~2001年の3回分の「過去12カ月間の食物の摂取状況」の調査から、これらの飲料の摂取頻度を一人一人について推定しました。98~2001年の調査の結果を「最近の摂取頻度」とし、3回の調査の平均をおおよそ7年にわたる「長期的な摂取頻度」としました。
98~2001年の調査以降10年間の脳卒中または認知症の発症を調べたところ、97人が脳卒中(うち82人は虚血性脳卒中[注1])、81人が認知症(うち63人がアルツハイマー病)を発症していました。
人工甘味料入り炭酸飲料を飲む人の脳卒中のリスクは2倍
分析の結果、年齢、性別、摂取熱量(カロリー)、食事の質(健康に良いとされる食事をとっているかどうか)、身体活動量、喫煙習慣などを考慮しても、人工甘味料を添加した炭酸飲料は脳卒中と認知症のリスク上昇に関係していました。
人工甘味料入り炭酸飲料を飲む人の脳卒中のリスクは、「最近の摂取頻度」が週に1~6回のグループで、全く飲まないグループの2.09倍、1日1回以上のグループでは1.95倍でした。脳卒中のうち虚血性脳卒中に限定して分析すると、週に1~6回のグループのリスクは2.47倍、1日1回以上のグループでは2.27倍になっていました。
[注1] 虚血性脳卒中:脳の血管が詰まるタイプの脳卒中で、脳梗塞とほぼ同義。脳の血管が破れるタイプの脳卒中は出血性脳卒中と呼ばれ、脳出血とくも膜下出血に分かれる。
一方、「長期的な摂取頻度」では、虚血性脳卒中についてのみ、リスク上昇が見られました。人工甘味料入りの炭酸飲料を全く飲まないグループに比べ、週に1~6回飲むグループの虚血性脳卒中のリスクは2.62倍、1日に1回以上では2.96倍になっていました。
1日1回以上飲む人では認知症リスクも上昇
認知症との関係では、人工甘味料入り炭酸飲料を1日に1回以上飲む人々において、明らかなリスク上昇が認められました。「最近の摂取頻度」が1日1回以上のグループでは、全く飲まないグループと比べ、認知症のリスクは、2.20倍で、このうちアルツハイマー病のリスクは2.53倍でした。「長期的な摂取頻度」が1日1回以上のグループでは、認知症のリスクは2.47倍、アルツハイマー病のリスクは2.89倍でした。
一方、すべての加糖飲料や、人工甘味料を含まない加糖炭酸飲料の摂取は、脳卒中、認知症のリスクに影響を及ぼしていませんでした。
人工甘味料の摂取と認知症の間をつなぐのは糖尿病?
この研究が行われた時点で、米国内で主に使用されていた人工甘味料は、サッカリン、アセスルファムK、アスパルテームでした。また、今回の研究は、砂糖または人工甘味料を添加したコーヒーや紅茶の摂取量は考慮していません。
著者らによると、人工甘味料入りの飲料を毎日摂取すると認知症やアルツハイマー病のリスクが上昇する可能性を示した研究は、これが初めてです。ただし、残念ながら、人工甘味料入り炭酸飲料の摂取がこれらのリスクの上昇をもたらす理由については、理解は進んでいません。
著者らは、人工甘味料の摂取と認知症の間をつなぐのは糖尿病かもしれないと考えて、その可能性について検討しました。糖尿病は認知症の危険因子であり、糖尿病患者は、より健康に良いのではないかと考えて、加糖飲料よりカロリーの低い人工甘味料入りの飲料を選ぶ傾向が強いからです。
そこで、糖尿病ではない人々に限定して同様の分析を行いましたが、人工甘味料の摂取と、認知症、アルツハイマー病のリスクの間には、上記と同様の関係が認められました。したがって、糖尿病以外の要因がリスク上昇に関係していると考えられました。
また、脳卒中の強力な危険因子である高血圧が、人工甘味料入り飲料の摂取と脳卒中発症に関係している可能性も考え、高血圧患者を除外して分析したところ、人工甘味料との関係は弱まったものの、引き続き虚血性脳卒中のリスク上昇が認められました。
先進国では、人工甘味料を添加した飲料の消費が増加していることから、なぜリスク上昇が起こるのかを明らかにする研究が必要だ、と著者らは述べています。
論文は、2017年4月20日付の「Stroke」誌電子版に掲載されています[注2]。
[注2] Pase MP, et al. Stroke. 2017;48:00-00. DOI: 10.1161/STROKEAHA.116.016027.
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday 2017年6月23日付記事を再構成]
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