日経トレンディ

それよりも、さらにゆっくりとしたペースの「スロージョギング」を提唱する、福岡大学スポーツ科学部教授の田中宏暁氏は「付いた脂肪を落とすには、速く走る必要はない」と言い切る。付いた脂肪がエネルギー源になるためには、細胞内のエネルギー生産工場であるミトコンドリアで酸素と同時に脂肪が消費されることが必要。運動の強度を上げると呼吸が苦しくなり、糖を優先的に消費。むしろ、脂肪は消費されなくなってしまうのだ。

このとき、筋内には乳酸が発生している。田中氏は「乳酸がたまらないギリギリのペースで走れば、糖は必要以上には消費されない。乳酸がたまらない程度の状態(乳酸閾値)で運動すると、ミトコンドリアを増加させるタンパクの遺伝子が発現することもわかっている。走り続けるうちに持久力が付き、脂肪を消費しやすい体に変わっていく」と言う。また、持久力に優れる遅筋だけを使うことが、疲れず長く走れる要因の一つになっている。

脂肪を落とし筋肉も付く

福岡大学スポーツ科学部教授の田中宏暁氏

田中氏の提唱するスロージョギングは、この乳酸閾値近辺の、笑顔をキープできる「にこにこペース」で走るというものだ。これは、LSDはおろか、歩くよりむしろ遅いくらいのペースだが、「スロージョギングは歩くより多くの筋肉を使うので、エネルギーを多く消費できるうえ、筋肉を鍛えることもできる」(田中氏)。

3カ月のダイエットをスロージョギング、食事制限だけでそれぞれ行った実験の結果では、体脂肪はどちらも減るものの、筋肉量は食事制限だけだと減るのに対して、スロージョギングなら増加することがわかった。低強度の運動でも全身の筋肉を使うため、筋肉量の増加も期待できる。

脳機能にも好影響がある。「ランニングによって、脳細胞を作り出す引き金となる物質が分泌されることがわかった」(田中氏)。これにより海馬の脳細胞が増えれば、記憶力など認知機能が高まることも期待される。

最新の研究によって、田中氏が新たに推奨しているのが「スロージョギング&ターン」だ。スロージョギングで2~5m間隔を往復するというもの。ターンを加えることで、長い距離を真っすぐ走るよりも、エネルギー消費が1.7倍になるという。目安は30~60分で「1日のうち何度かに分割してもいい」(田中氏)。隙間時間に、ちょっとしたスペースで手軽にできる。

(日経トレンディ編集部)

[日経トレンディ2017年7月号の記事を再構成]