不景気の影響で、ボールペンなどの文房具を会社から支給されなくなったビジネスマンは、自ら使う筆記具を調達する必要に迫られた。そこにスイスイ書ける筆記具が登場したのだから、それはブームにもなる。それまで、自分が普段使っているボールペンのメーカーさえ意識していなかった人々が、「ジェットストリーム」「フリクションボール」と名指しで買うようになったのだ。

写真上:2006年に発売された「JETSTREAM」。映画監督の西川美和さんも愛用していると連載「私のモノ語り」で語っていた 写真下:「消せるボールペン」として愛用者の多いフリクションボールは2007年に発売された

ボールペン・ブームで高い筆記具が苦境に

実は、このボールペン・ブームが万年筆以外の高価格帯の筆記具をさらに苦境に追い込んだ。200円で買える消耗品が、その書き味において、数千円のボールペンを大幅に上回るのだ。そうなると高級筆記具は買いにくい。フィッシャーの「スペースペン」のように、上向きでも水の中でも無重力でも書けるという特殊性があるならともかく、ブランドイメージが高いメーカーでさえ、チップ(ペン先)やインクの性能においては、200円のボールペンに一歩も二歩も譲るのだから。

この時点で日本のメーカーは、スラスラ書ける低粘度油性インクを高級筆記具にも搭載すればよかったのだが、それには問題があった。高級ボールペンは、高級なゆえに、インクを金属製のリフィル(カートリッジ)に入れている。そのため、低粘度油性インクを用いた高級筆記具を作るには、金属製リフィルを新たに用意する必要があったのだ。

ペン先も低粘度油性インクに対応するものを開発しなければならない。あまり知られていないことだが、ボールペンはかなりデリケートな製品で、例えば、同じインクを使っていても、ボール径を0.7mmから0.5mmにするだけでも、インクから作る必要があるのだ。当然、インクが変わればペン先の仕様も変わる。細字タイプ、太字タイプを出すだけでも、そう簡単なことではない。

余談だが、日本ではキャップ式よりノック式ボールペンが圧倒的に売れる。このキャップ式をノック式にする事なんて、さらに大変なのだ。インクは一から作り直しだし、構造も新しく作らなければならない。「フリクションボール」がノック式を出すまで時間がかかったのも当たり前のことなのだ。

書きやすくて見栄えもするボールペンが人気に

ともあれ、ここにきて、ようやく各筆記具メーカーは自社の高価格帯のボールペンを高品質インクに対応させてきた。そのタイミングで、10年前、普段使うボールペンの書き味に意識的になったユーザーが、今度は、人前で使って恥ずかしくないボールペンを求め始めた。

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ゲルインクの高級ボールペンも登場
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