100円ペンが一瞬で高級品に ぺんてると伊東屋コラボ
2016年9月12日、銀座の老舗文具店、伊東屋がプロデュースし、2016年に創業70周年を迎えたぺんてるが製作を担当した、伊東屋オリジナル商品「ITOYA110 ペンジャケットシリーズ」が発表された。製品は9月13日より銀座・伊東屋「G.Itoya」で先行販売され、順次、全国の伊東屋店舗で発売される。現在のところ、G.Itoya以外では伊東屋オンラインストアで購入可能だ。
ITOYA110 ペンジャケットシリーズは、その製品名の通り、ペン用のジャケット、つまりペンに着せる"上着"だ。ぺんてるのロングセラーである「ぺんてるサインペン」「ボールぺんてる」「プラマン」の3製品をリフィル代わりにして使用する。
例えば、ボールぺんてるに装着すると、真ちゅう製の太い軸を持つ高級感のある水性ボールペンに変身するわけだ。軸の色は白と赤と青、そしてマットな黒の4色。別売のリングを使うことで、同じ軸にぺんてるサインペン、ボールぺんてる、プラマンのどれでも装着できるようになっている。
3種類のペンに対応する工夫とは?
ペンジャケット発売の背景には、このところの高級筆記具の売れ行きの良さがある。伊東屋では、個人用筆記具と呼ぶ、金属軸などを使ったやや高額の筆記具は、年々売り上げを伸ばしているのだという。特に、伊東屋がパイロットと組んだ、フリクションボールの高級軸のモデル「ITOYA110 イレーサブルボールペン」が想像以上に売れたという実績も、今回の企画を後押ししたようだ。付加価値の高い筆記具へのユーザーの関心の高さを実感していたわけだ。
この製品を企画した、伊東屋研究所兼伊東屋企画開発本部の橋本陽夫氏は、もともと、ぺんてるのロングセラーであるぺんてるサインペン、ボールぺんてる、プラマンのファン。それぞれが他に類を見ない独特の書き味を持つこれらの製品に、新しいジャケットを着せることで、筆跡はそのままに、"美しいフォルムと質感"を実現したかったという。また、ロングセラーであり、世界中に多くのファンがいる製品そのものをリフィルにすることで、どこででもリフィルが手に入る筆記具にしたかったのだそうだ。
もともと、ぺんてるの水性ペン3つを、オフィス仕様にするジャケットを作りたいという橋本氏のアイデアから始まったプロジェクトだが、実際にぺんてるが製作にかかると、さまざまな問題が浮上したという。
「まず『3種類、どれを入れても同じ長さになる』というアイデアは早い時点で諦めました」と、ぺんてる商品開発本部ペン開発グループの鈴木慎也氏。最も長いプラマンと、最も短いサインペンを、尻軸のスプリングだけで調整するのは物理的に不可能だったそうだ。また、プラマンの別バージョンでもあるトラディオだと軸が太すぎたという。
そこで、長さが違う中間リングを作り、各ペンの長さに合わせたジャケットに仕上げることになった。そのため、プラマン用のペンジャケットを買ったとしても、別途リングを購入することで、ボールサインやボールぺんてるを入れて使うことが可能。3 in 1の製品にできた。
といっても、それも簡単だったわけではない。それぞれのペン先には、外の空気を取り入れる仕組みが付いている。エアタイトというこの仕組みで、インクがうまくペン先に供給されるのだが、ペン先を覆う部分を安易に作ると、このエアタイトが確保されない。同時に、キャップを閉めた際の密閉性も確保しなければならない。
「何といっても昔の製品ですから、3DCADのデータなんかないんですよ。ですから、正確な寸法を取るところから始めて、計算を重ねて、ペン先をしっかりとホールドし、エアタイトも確保できるように設計しました」と鈴木氏が開発当初を振り返る。
「それでも、古くからやっている製品に新しい展開があるというのは楽しいことです」と鈴木氏。「何よりもまず、ぺんてるさんに聞いたのは、『この3製品は生産中止にならないですよね』ということでした」と橋本氏。このペンジャケットによって、ぺんてるのロングセラー製品に新しい価値を持たせられたらと思っていたという。
いつものペンがずっしりと重くなって使いやすくなった
年賀状シーズンに圧倒的に売れるというプラマンは、言わば万年筆の敷居を下げる製品。それを、万年筆が使われている現場でも使える筆記具にしてしまう。作家などがサイン会で使うサインペンが、作家の手元でより映える筆記具へと変身する。プラスチックのペン先で独自の柔らかい筆致が魅力のボールぺんてるを、握りやすい太い軸で扱えるようになる、といった、従来のユーザーへのプラスアルファとして、ぺんてる製品を見直してもらえる製品になっているのだが、伊東屋としてはそれだけではないという。むしろ、それらの筆記具を知らなかったユーザーに、新しい高級筆記具として使ってもらいたいそうだ。
「普通、筆記具は量産のコストを考えて作られるので、ウエートバランスなどを細かく調整することが難しいのです。ただ、伊東屋オリジナルでやれば、そんなに大量に売らなくてもいいですから、大量生産ではないモノ作りの方法で納得が行く品質のものが作れると思う」と橋本氏は語る。鈴木氏も「発売日から逆算してスケジュールが決まっていく、そういう作り方ではないやり方でモノ作りができるのは楽しかったですね」と話す。
"こだわりの"というと工芸品になるし、"売り上げのため"というと量産品になる。その中間の良質な工業製品として作られたのが、このペンジャケットシリーズなのだ。
(文・写真 納富廉邦)
[日経トレンディネット 2016年10月5日付の記事を再構成]
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