来日目的は「花」 東南アジア観光客憧れの名所はここ
インバウンドサイト発 日本発見旅

英語圏から日本を訪れる外国人のほとんどがチェックする、日本観光の情報サイト「japan-guide.com」。夫のステファン・シャウエッカーさんと共にジャパンガイドを育ててきたシャウエッカー光代さんが語る日本再発見の日々です。春、全国で花の観光地が次々にシーズンを迎えます。近年は日本の花が世界的に注目され、花を見るために来日する人が増加中とか。人気スポットを教えてもらいました。
東南アジアから「花を見るため」の来日が増加
外国人観光客にも日本の「お花見」はすっかりポピュラーになりましたが、桜だけではありません。外国人から人気を博している「花の観光地」が日本各地にたくさんあります。
国別に見ますと、欧米からは花を見るために日本に来る人は少なく、唯一の例外が桜なのです。一方、東南アジアの人々は、自国にはない花に興味を持ち、花を見ることを第一目的として日本に来る人が意外に多くなっています。
ジャパンガイドの独自調査によると、欧米諸国からの観光客で「花」を旅行の主目的としている人は1~4%ですが、東南アジア諸国からの観光客ではほぼ10%を超えており、タイからの旅行者に至っては16%と、「食」に次いで第2位の来日目的になっています。もちろん欧米の人もお花は大好きだと思いますが、日本に来る主目的ではないということですね。
「花」に注目が集まるようになった要因の一つに、ソーシャルメディアの影響が挙げられます。旅行者が旅先でアップしたお花畑や公園の写真が拡散し、爆発的な人気となった観光スポットも少なくありません。そこに行きたい、同じ景色を見たいという思いが、旅行の動機につながっているのです。
具体的にどんな場所を訪れているのか、春から夏にかけて次々に見ごろを迎える、外国人に人気の花スポットを紹介します。
芝桜――富士山との写真で大人気!
桜が終わってしまった後、ちょっぴり寂しくなった心を彩ってくれるように咲き始めるのが芝桜です。日本のあちこちで見られますが、外国人観光客の間で最も有名なのは、富士本栖湖リゾートで行われる「富士芝桜まつり」の光景でしょう。雄大な富士山の眺めと、その手前に広がる80万株の鮮やかな芝桜とのコンビネーションは圧巻です。
外国人観光客はもともと富士山が大好きですから、芝桜と両方見られることで大人気となりました。今年10回目を迎える「富士芝桜まつり」は開催期間が長いので、ゴールデンウイーク(GW)を過ぎてもまだまだ楽しめます[富士芝桜まつり……2017年4月15日(土)~5月28日(日)]。
ほかに、埼玉県秩父市の羊山公園「芝桜の丘」も有名です[芝桜まつり……2017年4月14日(金)~5月7日(日)]。
チューリップ――種類の多さに圧倒される
チューリップといえば富山県。一大産地として古くから有名でした。球根の出荷量が日本一で、富山県の県花はチューリップです。
中でも砺波(となみ)市はチューリップ栽培の中心地で、毎年4月下旬からGWにかけて「となみチューリップフェア」が行なわれています。このイベントが外国人観光客に大人気。こんなにたくさんの色や形があったのか!と驚かされるほど、この会場では国内最多の700品種・約300万本ものチューリップを見ることができます。北陸新幹線のおかげで、東京から行くのもラクになりました。2017年は球根栽培が始まってちょうど100年となる記念の年で、「未来へと彩りつなぐ100年の花」がテーマになっています。

スイスでも人気の花で、夫のシャウエッカーによると、中学校の生物の授業ではチューリップを分解・観察するのだそうですが、凝り性の彼は1輪だけでは物足りず、自宅の庭のチューリップを何本も同様に観察していたとか。だから「よく知っている」と自負していたにもかかわらず、となみチューリップフェアでは想像をはるかに超える規模のチューリップを見て、たいへん驚いたそう。「興味がある人は絶対に行ったほうがいい」とは彼の弁です[となみチューリップフェア……2017年4月21日(金)~5月5日(金)]。
もう一つの有名な場所は、長崎県のハウステンボス。こちらでは九州最大の200品種・100万本超のチューリップが見られます[チューリップ祭……2017年2月9日(木)~4月17日(月)]。
ネモフィラ――最も美しいブルーの絶景
ここ数年で急に外国人観光客の注目を集めるようになった花。瑠璃唐草(るりからくさ)という和名がありますが、「ネモフィラ」のほうがすっかり有名になりました。

人気の火付け役は、茨城県の国営ひたち海浜公園にある、みはらしの丘の写真でしょう。小高い丘一面を覆う450万本ものブルーの花々は、私が今まで見たことのない景色でした。青い色の花がこれほど多く群生している光景は珍しいかもしれません。
ここでは、青空と青い海とネモフィラの3つのブルーが見られるといわれています。みはらしの丘に立ち、ブルーの世界に囲まれる感覚を味わうのもいいですね。
開花時期は4月中旬から5月上旬。イベントも開催されます[ネモフィラハーモニー……2017年4月22日(土)~5月14日(日)]。
福岡県の国営海の中道海浜公園でも、同じ時期に約150万本のネモフィラが開花。チューリップなど春の花が咲きそろう「フラワーピクニック」(~5月7日)も開催中です。
藤――世界を驚かせた奇跡の花
藤の花は、棚から下がるというユニークな形、淡い紫やピンクなどのやさしい色合い、そして香りもいいのが特徴です。
2014年、米国のテレビ局CNNが選出した「世界の夢の旅行先10カ所」に、日本で唯一「あしかがフラワーパーク」(栃木県)が選ばれ、大藤の画像が紹介されました。樹齢140年以上(当時)とは信じがたいほど美しく咲き誇る大木の藤は、「奇跡の花」と世界から称賛を浴びたのです。

大藤の藤棚は1000平方メートルもの広さがありますが、それがたった1本の幹から広がっているのは驚きです。一つ一つの花が大きく力強く、下から見ると藤色のシャワーが降ってくるようで、誰もが感動する光景。夜のライトアップも幻想的です。
園内ではほかに、うす紅藤や、白藤と「きばな藤」のトンネルなども見られます。
この「きばな藤」にはカナダに住んでいた頃の思い出があります。日本のガイドブックの仕事でバンクーバーの植物園に行ったとき、初めてこの花の存在を知り、藤色の藤しか見たことがなかった私は大いに興味を持ちました。実は藤ではなくマメ科の植物で、正式な和名はキングサリ(英語でGolden Chain)。バンクーバーでは庭木としてもよく見られる花だったのです。以来、きばな藤を見るとバンクーバーを思い出します。あしかがフラワーパークでは、各色の花を見比べてみるのもいいですね[ふじのはな物語 大藤まつり2017……2017年4月15日(土)~5月21日(日)]。
東京では、亀戸天神社が江戸時代から続く藤の名所として有名です。
アジサイ――梅雨の季節の清涼剤
関東地方では6~7月に開花。春が終わり、新緑の季節も過ぎて、梅雨を迎える頃に咲く花です。ジメジメとうっとうしい時期に、清涼感を与えてくれる色合いがいいですね。アジサイの名所は多く、東京近郊では鎌倉、箱根、伊豆などが有名です。
夫はアジサイがいちばん好きな花だそうで、個人的にはアジサイ寺として知られる鎌倉の明月院が最も好きな場所だとか。ここのアジサイはほとんどが明月院ブルーと呼ばれる青色で、そのシンプルさが気に入っているのだそうです。シーズン中はたいへん混雑することで有名ですが、平日の開門前に行って並ぶか閉門間際に行くとひどい混雑は避けられるようです。

箱根登山鉄道も有名です。沿線では車窓からずっとアジサイが見られますが、標高によって咲く時期がずれていくため、長い期間楽しめるのが特徴。夜のライトアップもあります。
ラベンダー――北海道の景色とともに楽しむ
日本では北海道の富良野が最も有名な栽培地。見ごろのピークは7月ですが、6月から9月にかけては、札幌―富良野間を結ぶ特急フラノラベンダーエクスプレスや、旭川―富良野間をゆっくり走る富良野・美瑛ノロッコ号が運行されています。

ラベンダー観光の中心は中富良野にあるファーム富田。一面に広がるラベンダー畑では、鮮やかな色とともに風に乗って漂う香りも楽しめます。遠くに見える富良野盆地の風景、さらに背後には十勝岳連峰が眺められ、雄大な北の大地を感じる場所です。そんなところも外国人観光客には人気のようです。
さらにお隣の美瑛では様々な色の花が植えられたカラフルなお花畑の景色が眺められ、ラベンダーと両方楽しめるルートとしておすすめです。

ジャパンガイド(株)取締役。群馬県生まれ。海外旅行情報誌の編集者を経て、フリーの旅行ライターとなり、取材などで訪れた国は約30カ国。1994年バンクーバーに留学。クラスメートとしてスイス人のステファン・シャウエッカーと出会い、98年に結婚。2003年、2人で日本に移住。夫の個人事業だった、 日本を紹介する英語のウェブサイト「japan-guide.com」を07年にジャパンガイド株式会社として法人化。All About国際結婚ガイド、夫の著書『外国人が選んだ日本百景』(講談社+α新書)『外国人だけが知っている美しい日本』(大和書房)などの編集にも協力。
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