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難聴リスク、若者の耳に迫る 大音量ライブやイヤホン 音量に注意、体調を整える

2017/4/5 日本経済新聞 夕刊

自身も音響外傷の経験がある小倉弘之さん(栃木県足利市)

 若い世代で難聴になる危険性が高まっている。かつてより、音楽ライブに積極的に足を運ぶ人が増え、イヤホンで必要以上の音量で音楽を聴くケースが目立つようになったからだ。世界保健機関(WHO)も世界で11億人が難聴になる可能性があると警告する。若者の音との付き合い方に何が起きているのか。

 ◇   ◇

 「右耳の音の響きがひどくなり、電話の話し声を聞くのがつらい」。都内に住む加藤さくらさん(24)は6年前、大音量にさらされることで難聴や耳鳴りが生じる「音響外傷」を患った。医師に診断された後から、手帳にその日の症状を書き記している。「その後の経過を知りたかったから」と理由を話す。

 愛知県内の大学に通っていた当時、加藤さんは友人とよくライブハウスに行った。目当てのバンドは最後。5、6組の演奏を聴くうち1時間ほどして耳に違和感が。「耳鳴りがひどく気持ち悪かった」と振り返る。それでも、最後まで我慢した。

 3時間でライブは終わったが、違和感は残ったまま。それまでもライブ終了後に耳がこもったり、音が小さく聞こえたりすることはあったが、その日は違った。「音が大きく聞こえ、不快感でたまらなかった」

 翌朝、まだ耳はおかしかった。「ライブ 耳鳴り」とネットで検索すると、音響外傷の症状が当てはまっていた。朝一番に耳鼻科へ駆け込んだ。加藤さんは現在も症状に苦しむ。「耳鳴りもあるが、聴覚過敏がひどい。目覚まし時計の音にも耐えられない」という。

 昭和大学の小林一女教授は、そもそも「音響外傷による耳鳴りや、音を大きく感じる聴覚過敏は、すぐ消えることがほとんど」と指摘する。だが、最近は加藤さんのように、若者を中心に症状がすぐに消えないケースが目立ち始めている。

 理由の一つは、音楽ライブに通う若者が増えているためだ。ぴあ総研によると、音楽ライブは2015年、5万6042回で、5年前と比べ約7千回増。ライブへ行く人も4486万人と2千万人近く増えた。青山学院大学の重野純教授は「普段の生活における個人間のつながりだけでなく、音楽という共通項を軸にした連帯感を味わいたい若者が増えた結果ではないか」と分析する。日ごろは、ツイッターなど対面しない形の交流サイト(SNS)に慣れ親しんでいる分、時には、同じ場所に集まって顔を合わせるライブなどが新鮮な交流手段として受けているようだ。

 もう一つの理由が、街中や電車内などで、イヤホンを利用する人が増えたことだ。笠井耳鼻咽喉科クリニック(東京・目黒)の笠井創院長は「イヤホンによって音響外傷になり、病院へ来る人もいる」と話す。

 これまでも、音楽鑑賞の目的以外に、電車内での騒音や街の雑踏などの音を消すために利用することはよくみられた。だが、最近では「人と関わりたくない時に使う」(重野教授)ケースも目立つようになった。イヤホンで音楽を聴くことによって、周囲と距離を置き、話しかけてほしくないというアピールにもつなげているという。「ちょうどマスクが風邪を引いた時だけでなく、表情を見せたくない時に使われるようになったのと同じ」(重野教授)で、内向き傾向になりがちな若者が少なくないことが背景にあるようだ。

 「音響外傷にならないためには、予防が欠かせない」。小倉耳鼻咽喉科医院(栃木県足利市)の小倉弘之院長はこう話す。小倉院長は趣味のバンド活動でボーカルとギターを務めているが、自身も音響外傷を患った経験がある。

 スタジオで練習をしていると、いつもは30分ほどで消える耳鳴りがずっと続くようになり、「医者の不養生を痛感した」。それからは音量に気を配り、スタジオの大きさに合わせ調整した。こまめに休憩を取ることも欠かさない。また、音響外傷は体調も影響するという。「疲労や寝不足、アルコールをとった状態では耳へのダメージが大きい。体調を整えるのも予防策のひとつ」と指摘する。

 昭和大学の小林教授は「電車でイヤホンを使う際は、車内アナウンスが聞こえないほど音量を大きくするのは危険」と指摘する。「周りの音が大きくなれば音量も上げる。これを繰り返すと、音量の大きさに気付くことすらできない。周囲に合わせるなど、一定のラインを設けたい」と注意する。

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■WHO、音楽プレーヤー「1時間以内」を

1日当たりの許容時間
00dBドライヤー15分
95dBバイク47分
85dB自動車8時間
80dB目覚まし時計25時間

(世界保健機関(WHO)の資料をもとに作成)

 11億人の若者が将来、難聴になる危険がある――。WHOは15年、世界の中所得国以上で暮らす12~35歳のうち、およそ11億人が難聴になる危険があると発表した。ライブや携帯音楽プレーヤーの増加、クラブなどの施設で大音量で音楽に接する機会が増えていることを理由に挙げる。

 WHOは同年齢の半分近くが、携帯音楽プレーヤーやスマートフォンで日ごろから大音量で音楽を聞いていると指摘。ライブなどのイベントで耳の健康を害するほどの音量にさらされている若者も4割いるという。

 対策としてWHOは、音楽プレーヤーの使用を1日1時間以内にすることや、騒音が激しいところでは耳栓を使うことなどをすすめる。また、ドライヤーやバイク、自動車などの騒音を例に、1日に聞いてもいい許容基準を示し、注意を促している。

(田村匠)

[日本経済新聞夕刊2017年4月5日付]

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