火事に巻き込まれても弁償なし 賃貸も必須の火災保険
「火災保険はよく分からないし、私には関係ない」なんて思っていませんか? 生命保険に比べると興味も関心も低い火災保険ですが、健康保険の保障がある入院や遺族年金の保障がある死亡と違い、火事には国のサポートはありません。あなたは、ちゃんと加入していますか?
「弁償して!」と言えない法律
あなたが、他人に自分の物を壊されたら、当たり前のように、壊した人に「弁償してください」と言うことでしょう。その反対に、あなたが人の物を壊したときは、壊した物を弁償する「賠償責任」を負うのが当たり前です。
でも、この当たり前が当たり前でなくなるのが、「火事」が起こったときです。
日本には「失火の責任に関する法律」があり、「軽過失で火事を起こしてしまった場合は、賠償責任を負わなくていい」ことになっています。
日本は木造家屋が多く、隣の家と密接しているため、互いに、自分の家だけを直せばよいようにしています。
つまり、もしもあなたが不注意で火事を起こし、お隣の家を全焼させてしまった場合でも、お隣の家を弁償しなくていい代わりに、もしもお隣が火元で自分の家が全焼したとしても、お隣さんに「弁償して!」とは言えず、自分で自分の家を建て直さなければならないのです。
持ち家の火災保険はどう備える?
持ち家の場合は、家を買うときに同時に火災保険に加入するため、建物は保険が適用されるケースが多いのです。でも、建物だけでなく、家の中にある家具や電化製品、食器、洋服などの「家財」の保険はどのようになっていますか?
火災保険は、建物と家財が別々に補償されるため、もしかしたら、火災保険に加入しているのは建物だけかもしれません。家が全焼したときには、建物も家財もなくなってしまいますから、それを分かった上で加入する・しないを決断しましょう。
ご相談にいらっしゃる方でよくあるのは、火災保険に加入していれば、建物も家財もすべて火災保険が補償してくれるという思い込みです。自分の保険証券を確認しておいてくださいね。
賃貸の火災保険はどう備える?
賃貸では、契約を結ぶ際に、2年間の火災保険契約をすることが一般的です。ただし、更新時期に火災保険料がもったいないという理由で、更新せずに無保険になっている人がいますから、賃貸の場合は、無保険にならないように注意しましょう。
賃貸の場合も、建物と家財は別々に加入しますが、建物は大家さんが加入します。でも、部屋を借りて使っているのはあなたですから、もし火事に遭ったとしても、大家さんには借りたときと同じ部屋の状態に戻して、部屋を返す義務があります。
これは、自分が火事の火元のときも、お隣さんが火元で自分の借りている部屋が燃えてしまっても同じです。そこで、大家さんに借りた部屋をちゃんと元通りにするための保険が「借家人賠償責任保険特約」です。この特約に加入することで、もしものときに備えることができるのです。
ただし、借家人賠償責任保険特約は、単独では加入できません。部屋の中にある家財を補償する保険に入り、この契約に借家人賠償責任保険の特約を付けることで、もしものときに、自分の家財と大家さんへの弁償とを、両方をカバーするようになっているのです。
もしものときに住む所がなくなったうえに、自費で大家さんに借りた部屋を弁償することがないように、必ず火災保険には加入しておきましょう。
火災保険っていくら入ったらいいの?
火災保険を検討するポイントは3つです。
(1)保険金額は適正ですか?
火災保険は、火災保険の保険金額を上限として、実際の損害額が支払われます。
1000万円の家に2000万円分の保険を掛けていたとしても、1000万円分の保険金しか受け取れないため、多く掛けた保険金部分はムダになります(生命保険の場合は、たくさん保険を掛けていても、掛けた分だけお金を受け取ることができます)。
また、節約のつもりで1000万円の家に500万円の保険しか掛けない場合は、実際の損害よりも少ない保険金しか出ない場合もあります。
つまり、火災保険はもう一度同じ家を建てるために必要な金額を、適切に見積もることが大切なのです。
建物が木造かマンション構造か、家の広さはどれぐらいか、等によって適正な保険金額は変わるため、保険会社に見積もってもらいましょう。
(2)「新価」で加入していますか?
建物や家財の価値は、時間の経過とともに下がります。これを「時価」といいますが、もしも家が全焼したとしても、時価では古い建物ほど十分な保険金を受け取ることができません。そこで、もう一度同じものを建てたり、買ったりするために必要な金額を保険金で準備することが必要なのです。
保険証券を見て、「新価」や「再調達価格」、「価額協定保険特約」などの言葉が書いてあるかどうか確認しましょう。最近の契約は新価が基本ですが、例えば「35年間一括で保険に入っています」というような、かなり昔に加入した保険については時価のこともあるので注意しましょう。
(3)長期割引を活用していますか?
火災保険料は毎月支払うこともできますが、1年分の保険料をまとめて支払うほうがトータルでは安くつきます。10年分を一括で支払う契約にすると、さらに安くなるので、家計も助かります。途中で引っ越しする場合は、残り期間の保険料は返ってくるので安心ですよ。
もしも火事が起こり、自分が住む家や借りた部屋を元に戻そうと思ったら、数百万円から数千万円のお金が必要になります。そんなときの備えが火災保険ですから、火災保険料を節約したつもりで、もしものときに自分が大きな債務を背負うことがないように、必要な補償と保険金額をしっかりと確認してくださいね。
Cras代表取締役。FPオフィス will代表。大阪在住のファイナンシャルプランナー。中学・高校の保健室の先生から、結婚、退職、住宅購入、加入保険会社の破たんを経て転身。働く女性や子育て世帯が、お金の安心と可能性を実感できる「知れば得トク、知らなきゃソンするお金の知恵」を伝える。講演やテレビでも活躍。新著に『本気で家計を変えたいあなたへ〈第2版〉 書き込む"お金のワークブック"』(日本経済新聞出版社)。
[nikkei WOMAN Online 2017年2017年3月13日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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