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日本の家庭は「ガラパゴス」 高い育児要求に疲弊 ダイバーシティ進化論(水無田気流)

2017/3/25

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 9歳の息子が、まだ乳児だったころ。大学講義から帰宅し、ベビーベッドを見ると、息子が肌着の紐(ひも)でぐるぐる巻きになり、クモの巣にかかった昆虫のようにじたばたしていた。驚いて夫に何事かと尋ねると、肌着の紐がうまく結べなかったとのこと。たしかに、お人形遊びもしたことがない男性が、和服式で紐だらけの肌着を着せるのは難しい。結局、子どもの肌着はカナダ式のスナップ留めタイプに替えた。

 当時私たちは2人とも非常勤講師で授業曜日を分け交代で子どもを見ていた。速やかに育児を引き継ぐには、夫も私も使いやすい育児用品が必要だったが、次第にわが家の育児用品は、北欧など外国製品ばかりになってしまった。日本の育児用品は、母親が1人できめ細やかに担う育児には向くかもしれないが、残念ながらわが家にその余裕はない。

 育児を通して悟ったのは、「選べない選択肢は、選択肢ではない」ということ。共働き世帯が専業主婦世帯を427万世帯以上も上回り、今後も増加が予期される現状に鑑みれば、旧来の育児製品を「選べない」世帯もまた増加が見込まれる。

 一方、日本の女性に要求される育児や家事の水準は、今なお先進国で一番高く手間数も多い。学校や幼稚園など教育現場でも、母親がボランティアで細やかな対応を求められる傾向があり、半面父親不在である。

 日本の育児文化の特異性と異文化理解の難しさを実感したのは、息子が幼稚園のとき。同じクラスの米国人の母親が、保護者に課される講堂の掃除当番に憤慨していた。「なぜ月謝を払っているのに、清掃サービスをしなければならないのか」と言うのである。

 昨今さかんに「ダイバーシティ」が叫ばれ、多様な人材が職場で協業することが目指され、達成のためにより高度なマネジメントが要請されている。これは「足し算」の発想だ。私はこの問題の裏面として、あえて「引き算」を提言したい。それは、高すぎる日本の家事育児要求水準を引き下げ、ダウンシフトすることだ。

 これは女性就労率や管理職割合を引き上げ、男性の地域や家庭進出を促し、外国人とも協業するために、必要な条件ではないのか。職場は「グローバルスタンダード」でも、家庭や教育現場は「ガラパゴス」では矛盾が生じる。女性偏重の職場と家庭の二重負担は社会のゆがみの象徴だ。今こそ解消すべきである。

みなした・きりう 1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。

〔日本経済新聞朝刊2017年3月20日付〕

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