自分だけのスキル高めて 自らキャリア形成、国際常識
ダイバーシティ進化論(村上由美子)
3年前に現職に就く前は20年近くほぼ海外で金融の仕事をしていた。日本では珍しい職歴のようだが、ウォール街から政府機関や国際機関に転身する同僚が多くいたため、違和感はなかった。民間と公的機関の違いはあるが、国際経済・金融のプロとして貢献できる部分には一定の共通項があり、そのスキルを生かせる舞台はキャリアの進展と共に変化すると考えている。
人生初の就職先は国際連合。キャリアは自力で切り開くという試練を経験した。契約交渉からポスト探し、昇進まで、人事部が動いてくれることは期待できない。成果を出し、それをアピールし、次のステップを見いだしていくプロセスは、正直苦痛だった。
しかし国際社会では、キャリアを個人が自律的に形成するのが常識だ。十数年勤務したゴールドマン・サックス(GS)にはビジネススクール卒業直後に入社し、ロンドン勤務となった。3年後、米国に転勤したのは定期的な異動ではなく、キャリアアップのため自分でニューヨーク本社にアピールした結果だった。振り返れば、キャリアに対する自己責任の洗礼を最初の職場で経験したことは、後の人生に大きく役立った。
海外のプロフェッショナル・ファームの多くは、アップ・オア・アウト、つまり昇進できなければ退社するという慣行を持つ。GSも部署によってはその傾向が強かった。しかし退社する場合でも、同業他社、あるいは全くの異分野で活躍の場を見つけ、キャリアアップする人が大勢いた。労働市場の流動性が高いからだ。
私自身も絶えず自分の市場価値を意識してきた。会社の看板でしか付加価値を創出できないなら、プロとしての実力は低いとみなされる。会社側も市場価値の高い社員には、やりがいのある仕事を与える。そうしないと優秀な人材を引き留めておけない。
もうすぐ入社の時期だが、これから社会人になる人には自律したキャリア形成を考えてほしい。終身雇用や年功序列などの、日本特有の雇用慣行は確実に変化しつつある。テクノロジー革命により働き方も変化している。すでに働いている人たちにも立ち止まって考えてほしい。
自分ならではの希少価値は何か。組織の中でも外でも通用するスキルをどう磨いていくか。これからのキャリアのロードマップを自分で描き、実現していく覚悟を持って桜の季節を迎えよう。
〔日本経済新聞朝刊2017年3月6日付〕
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