昼寝が特技の女子高生『ひるね姫』 父と娘の絆を描く
重厚で硬派な作風で、日本アニメ界をけん引してきた神山健治監督。押井守監督の後を継いだ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズ(02年)、フジ・ノイタミナの代表作で映画もヒットした『東のエデン』(09年)といった作品を手がけてきた。その神山監督の7年ぶりとなるオリジナルアニメ映画が、女子高生の冒険譚『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』だ。春休み映画として、3月18日から公開される。
物語の舞台は、東京オリンピックが開催される2020年の夏。唯一の特技が「昼寝」というごく普通の女子高生・森川ココネは、父親の逮捕という突然の事態を前に、浮かび上がる様々な謎を解決するため岡山県倉敷市から東京まで旅に出る。その途中、彼女が子どもの頃から繰り返し見ていたとある夢が、リアルな現実と混ざり合い、ココネは"知らないワタシ"の存在を見つけ出す。
今作を「個人の思いに寄り添った作品にしたかった」という神山は、映画制作のオファーを受けた12年秋当初を振り返り、「その時期は僕自身、様々な企画に関わりながらも震災の後のエンタテインメントのあり方に悩んでいた」と話す。そんな折、日テレでジブリ作品をプロデュースしてきた奥田誠治氏(現・松竹)の「自分の娘に見せるつもりで作ったら?」との言葉が、神山を動かしたという。
「その言葉が新鮮で意識を切り替えるきっかけになりました。個人的でミニマムな動機で映画を作ってもいいのかもしれないと気づかされた。それまでの僕の作品は、頼まれもしないのに世界を救うようなヒーローばかり描いてきましたから(笑)。でも震災があったことで物語の中だけで世界を救うことへの疑問が生じた。だからこそ、今までとは違う映画を作りたかった」
ファンタジーの新機軸
それでは、物語をどのように組み立てていったのか。
「まず、父と娘の日常的な話にしようと。でも、アニメーション映画は、どこか大作主義的なところがあってファンタジーとしての飛躍がないと企画が通りにくい。じゃあ、父と娘の話でファンタジー? となったときに、ティム・バートンの『ビッグ・フィッシュ』のような、現実と夢が交錯するようなイメージが浮かんできた。その上で、自動運転とかVRといった、テック的要素も入れつつ、リアル感の伴うファンタジーが僕らしいんじゃないかなと思ったんです」
ココネには高畑充希、父親の森川モモタローには江口洋介が声をあてる。「ココネは行動力があるので、少しおっとりした高畑さんの声はミスマッチかなとも思ったんですが、かえって生身を感じられるキャラクターに。タイトルの『ひるね姫』も、高畑さんの声があったからこそ生まれた」のだとか。
また、注目の1つが、絵コンテから作画、美術に至るまで、そのほとんどがデジタルで制作された映像だ。「3DCGとの親和性も高く、絵コンテなどでトライアンドエラーを繰り返せるようになったことは大きかった」と言う。
「家族の絆を描いた物語。いわゆる魔法が登場するファンタジー作品だが、現実的なロジックの裏打ちがなされているところが新機軸」という本作。ポスト『君の名は。』と、興行がこの春最も期待を寄せるにふさわしい作品といえそうだ。
(ライター 山内涼子)
[日経エンタテインメント! 2017年3月号の記事を再構成]
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