日経Gooday

話を進める前に、まず断っておきたいことがあります。「繋がりが大切」という研究があるからといって、僕は「健康のために」繋がりましょう、とお勧めすることはあまりしたくありません。健康は大切ですが、健康づくりが人生の目的みたいに考えない方がいいと思いますので。

「健康のために」繋がりましょう、とはお勧めしたくありません。健康は大切ですが、健康づくりが人生の目的のようには考えない方がいいと思います。(写真 秋元忍)

一人ひとりが意識して「繋がりづくり」を進めなさい、というのでは、医療費を上げないように健康でいなさい、というような自己責任論的な話と同じになってしまいます。僕たち社会疫学者のメッセージは、主に、どういった社会や職場が望ましいのかを考えて、政策を作ったり、環境をデザインする立場にある人たちへのものです。

そのことを踏まえていただいたうえで、興味深い研究結果を伝えます。一例として、スポーツが挙げられます。運動疫学という分野は、どんな運動に健康効果があるのか、どれくらいの運動量が適切かといったことを研究する学問です。運動疫学の専門家である東京医科大学の金森悟さんが、興味深い研究をしました。

スポーツをやる時、スポーツの会に属している人とそうでない人がいますよね。そこで、(1)スポーツの会に入ってしっかり運動をしている人、(2)スポーツの会に入らないで独り黙々と運動している人、(3)スポーツの会に入っているけど、あまり運動しない人、(4)何もしていない人――という4タイプの高齢者の集団を追跡調査したのです[注2]

一番元気だったのは、(1)の、スポーツの会に入ってしっかり運動をしている人でした。そして一番不健康だったのは、(4)の何もしていない人。興味深いのはここからです。(2)のスポーツの会に入らないで独りで運動している人と、(3)のスポーツの会に入っているけどあまり運動しない人、どちらが健康で長生きしていると思いますか?

[注2] Satoru Kanamori et al. Participation in Sports Organizations and the Prevention of Functional Disability in Older Japanese: The AGES Cohort Study. PLoS One. 2012;7:e51061.

――やはり、しっかり運動をしている(2)の人たちでしょうか。

いいえ。実は(3)なのです。一つの研究だけで結論を出すことはできませんので、解釈には十分注意が必要ですが、スポーツの会には、運動を増やすという役割以外にも、人と繋がる機会になるという役割によって健康に良い影響をもたらす可能性があることを示す面白い研究です。もちろん、適度な運動が長生きにつながることは多くの研究が示していますので運動自体も大切な要素です。しかし、コミュニティーに属して、人と出会って繋がりが生まれ、楽しみや役割が生じる。そういったことが、やりがいや生きがいに繋がっていって、元気で生活できるということも考えられます。

個人的な感想ですが、独りで黙々と運動する人は、おそらくは他の目的があり、その手段として運動を続けているのではないかと思います。例えば、家族と過ごすために健康でいたいとか、半年後にマラソン大会に出場したいとか、仕事を精力的にこなすためにストレスを発散したり基礎体力をつけたいとか。そういった理由があるから運動をしているのであって、日々黙々と運動することが目的化している人は、あまりいないのではないでしょうか。

一方、人と繋がることや社会の役に立つことは、それ自体が目的となったり、生きがいになり得ると思います。

◇        ◇        ◇

健康のために運動をすることはとても大切なことだが、コミュニティーを持つことの方が健康に大きな影響を及ぼすかもしれない、とは実に驚きだ。ただ、この「人との繋がり」をつくる力には、男女の間で違いがあるという。次回は、ストレスにおける男女差について語っていただこう。

近藤尚己(こんどう・なおき)さん
社会疫学者、医師、医学博士 東京大学大学院医学系研究科准教授。東京都町田市生まれ。2000年、山梨医科大学医学部医学科を卒業。その後、ハーバード大学公衆衛生大学院での客員研究員、山梨大学大学院医学工学総合研究部社会医学講座講師などを経て、2012年より現職。専門分野は、社会疫学、公衆衛生学、健康格差対策、健康に影響を与える社会的な要因の研究。

(聞き手:ライター 森脇早絵)

[日経Gooday 2017年2月21日付記事を再構成]

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