嫌な出来事を延々とリピートすると心の傷が悪化する
ガイ・ウィンチさんは、現在、ニューヨークのマンハッタンで開業し、20年以上にわたって心理療法を実践する心理学者だ。
彼は著書「NYの人気セラピストが教える 自分で心を手当てする方法(原題:EMOTIONAL FIRST AID)」の中で、「私たちは、体の不調はうまく手当てができるのに、どうして心の不調になるとお手上げになってしまうのか」と問いかける。そしてその答えは「私たちは心の手当てを学んでこなかったからだ」と言う。
著書では、合計7つの「心の傷」を取り上げ、それぞれの傷の症状、特徴、そしてすぐに実践できる気持ちの切り替え方などの「手当ての方法」を解説している。
〈ガイさんが著書で取り上げている7つの心の傷〉
1「自分を受け入れてもらえなかったとき」――失恋、いじめ、拒絶体験
2「誰ともつながっていないと感じるとき」――孤独
3「大切なものを失ったとき」――喪失、トラウマ
4「自分が許せなくなったとき」――罪悪感
5「悩みが頭から離れないとき」――とらわれ、抑うつ的反芻(はんすう)
6「何もうまくいかないとき」――失敗、挫折
7「自分が嫌いになったとき」――自信のなさ、自己肯定感の低下
――ここからは、心の傷の症状と手当ての方法について、さらに具体的に伺いたいと思います。風邪をこじらせるように、心の傷のダメージをこじらせる原因として、「悩みが頭から離れないとき」で解説されていた「思考のループ」は、とてもありがちなケースだと感じました。嫌な出来事や悩み事があると、意識していないのに何度も繰り返し思い出してしまうことがあります。もう思い出さないようにしよう、と思えば思うほど、こだわる自分が嫌になったりします。

「その通りです。もっとも厄介で、そして多くの人が陥りがちなのが、この思考のループです。心理学用語では『反芻』(英語でruminate)といいます。
反芻とは、直訳すれば、何度もかみ続けること。上司に怒鳴られた、誰かに嫌みを言われた、そういった場面を、何かをかみ続けるように、頭の中で繰り返してしまうのです。ときには、数週間にもわたって思い返すことがあります。思い返すことで新たな考えが得られればよいのですが、たいていは嫌な気持ちを追体験し、ますます頭から離れなくなります」
――反芻は、心の傷の治りを悪くしそうですね。
「嫌な出来事を思い出すたび、かさぶたを無理やり剥がしているようなものですから、当然、傷はどんどん悪化します。困ったことに、楽しかった場面が頭の中で勝手にリピートされることはまれ。上司に叱られた経験が頭から離れないことはあっても、褒められた経験が頭から離れないことはまずないでしょう(笑)。
ともかく、簡単にクセになり、しかもその代償が大きいのが反芻です。反芻は、最近の研究によって『心身にさまざまな害をもたらす』ことが明らかになっています。
うつ病、アルコール依存症、摂食障害の危険が増し、精神的、肉体的なストレス反応が増加することによって心血管疾患リスクが高まることも分かっているのです」
「話すこと」は必ずしも安全な“手当て”ではない
――嫌な出来事を何度もリフレインする「反芻」は、突然死にもつながるのですね。そこまで厄介な心の傷だと分かっているのに、どうして私たちは何も対処できていないのでしょうか。心理学では、なにか解明されているのでしょうか。
「実は、解決の方法はなかなか解明されてこなかったのです。なぜなら、根本的なアプローチが間違っていたからです」
――えっ、どういうことですか?