電車やバスの車内、病院の待合室、そして自宅にいるときも。ちょっとした時間に、何となくバッグから取り出してしまうスマートフォン(スマホ)。電車の乗り換え案内や、地図の利用など、割り切って利用すればとても便利なツールなのに、気づけば1日の大半の時間を費やし、集中力や直感力も低下しているように感じませんか。スマホとの向き合い方を改めて考えてみました。
スマホを取り上げた親を子どもが刺す
東京・世田谷にある成城墨岡クリニック。土曜日の午後3時に訪れると、待合室には25人もの人がずらり。椅子に座りきれない人は通路に立ち、その横をすり抜けるように、ひとり、またひとりと患者が入ってきます。
成城墨岡クリニックではIT(情報技術)依存に対する治療を、通常の行為依存(買い物依存や物質依存など)と同様に、本人に対する認知行動療法に基づいて行っています。
「1日に平均20~30人がITに絡んだ悩みで来院します。高校2~3年の学生が多いのですが、40代の人もいます。彼らはスマホゲームやSNS(交流サイト)に依存して、夜中でも連絡をとりあうなど、とにかくスマホが手放せない。その結果不登校になって進級ができなくなったり、無断欠勤や仕事の効率が落ちるなどで上司に連れられてくるケースもあります」(成城墨岡クリニックの墨岡孝院長)
特に10代の依存患者の症状は深刻で、「自分はスマホなしでは生きられない」と自覚している人も多く、親がスマホを取り上げると大パニックになり、大暴れした子どもが刃物で親を刺すという殺人未遂事件にまで発展するケースも実際に起きているそうです。
墨岡院長は30年以上前に、コンピューター労働従事者の調査をし、職場のメンタルヘルス対策に関わりました。当時に比べて、現代のスマホ依存症は「社会的影響が大きく、重症」と話す一方、「スマホそのものは悪いものではない。技術革新は時代の流れ。ただ、入り方が悪かった」と分析します。
「日本はガラケー(従来型の携帯電話)の時代が長く、海外に比べてスマホが入ってくるのが少し遅めでした。ところが、いったんスマホが普及しはじめると一気に広がりました。その過程で、海外での『手に持てるコンピューターの進化形』という認識よりも、『生活に密着したおもちゃ』のように捉えてしまった。だからツールとしてスマートに使うというより、依存するようになってしまったと考えています」
一方、これまでに120カ国を訪問し、世界の「歩きスマホ事情」を調査している筑波大学医学医療系の徳田克己教授によれば「スマホに依存する生活というのは、実はどの国もさほど変わらない」そうです。
「山手線に乗ると向かいの列に座る人が全員スマホをいじっていた、という光景は今では珍しくなくなりましたが、これは韓国や中国でも同じです。ただ、子どもがスマホを使うことに対して『それはいけないことだ』と強く思っている人が、日本人は多い傾向にあります」。スマホ依存に過敏になってスマホそのものを否定するのではなく、適切な使い方を教えていくのが親や教育者の役目だと、徳田教授は指摘します。