MONO TRENDY

私のモノ語り

「ウォーターボーイズ」の矢口監督が猫缶を食べた理由

2017/2/10

映画「サバイバルファミリー」で主人公の鈴木一家は電気が使えなくなった東京を離れ自転車で九州を目指す。矢口監督は実際に同じコースを車で移動してみたという (c)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

電気が一切なくなってしまった日本で親子4人が生き延びる姿をときにはユーモアたっぷり、ときには感動的に描いた映画「サバイバルファミリー」。「数々のヒット映画を生んだ100均のメモ帳」では、矢口史靖監督(「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」)に映画作りに欠かせないモノをうかがいましたが、今回は映画を作りながら学んだサバイバルに必要なモノについて聞きました。“もしも”の時も役に立つ情報も満載です。

「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」「ハッピーフライト」「ロボジー」など数々のヒット作を生み出してきた矢口史靖(やぐち・しのぶ)監督

■バッテリー補充液を飲み、猫缶を食べてみた

「サバイバルファミリー」のシナリオを書くにあたり、電気やガス、サバイバルの専門家の方に取材するのと同時に、自分でもサバイバルを体験してみることにしました。主人公の鈴木家がどんな道をたどり、どんな体験をするのか、同じコースを車で移動しながら確認してみたのです。途中で映画に出てくるいろいろなモノも実際に試してみました。

映画で鈴木家は日本の南端を目指します。電気自動車ではないガソリン車も、エンジンの機構には電気を使っているので、映画の世界では使えません。そこで鈴木一家は飛行機で移動しようと、自転車で環八(環状8号線)を下り、羽田空港に向かいます。しかし飛行機も飛んでいなかったので川崎に渡って川崎インターから東名高速道路に乗って西へ走ります。高速道路に乗っても、鈴木一家の交通手段はずっと自転車です。

電気が一切使えなくなった世界で、鈴木一家は自転車で移動し続ける (c)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

「自転車で移動していたら、静岡あたりで水がなくなって、どこかで水と食料を探すだろう」と考え、見つけたホームセンターに立ち寄ってみました。当然あらゆる食べ物もミネラルウオーターも残っていないはず。そこで買ってみたのがバッテリー補充液でした。

飲めるらしいと噂で聞いていたのですが、ラベルを見ると「飲用ではありません」と書いてある(笑)。でも不純物0%の精製水だよな、この映画のような状況になったら飲むなと思って、一緒に旅をしていた3人で回し飲みしてみたんです。そうしたらおなかが痛くなることもなく無事だったので、映画に採用することにしました。もちろん、飲み物ではないと書いてありますので、推奨はしません。もし飲むなら自己責任でお願いします(笑)。

「バッテリー補充液のラベルを見ると『飲用ではありません』と書いてある。でも精製水だよな、この映画のような状況になったら飲むなと思って、一緒に旅をしていた3人で回し飲みしてみたんです」

もうひとつ試したのは猫缶です。実はツナ缶と同じ工場で作っていると聞いていたので、これも食べてみました。ちょっと生臭いですけど、全然いけましたね。僕たちが食べたマグロの猫缶は大丈夫でした。ただ、すべての猫缶を試食したわけではないので、食べるならこちらも自己責任で(笑)。

■人間には温かい食べものと火が必要だ

下見の旅では非常食と道中で手に入れたものだけを食べようというルールでした。だから缶詰のパンや水で戻せるアルファ米、お餅など、いろんな種類の非常食を持っていったんです。

最近の非常食は進化しておいしくなっていると言われています。実際、まずくはないし、エネルギーも補給できて満腹にもなるのですが、不思議なことに、3日も食べ続けると、精神的にまいってきました。理由は、よくわからないんです。3人ともどうしても耐えきれず、4日目に温かい食べ物を口にしたら、ホッとして、「なんて、幸せなんだ!」と……。冷たいものと温かい食べ物の差が、はっきりわかりましたね。そういう体験も、そのまま映画に反映しています。

温かいものを作るには火をおこせばいいんですけど、これがまた難しいんですよ。「摩擦の熱で火をおこせばいい」というイメージがあるかもしれませんが、やったことがない素人には火はおこせません。木の棒をくるくる回すくらいだったら、懐中電灯の反射鏡を取り外して、真ん中に線香を通して太陽に向けた方がいい。光が集まる一点にちょうど線香の先を当てると、あっという間に火がつきます。でもこれ、太陽がある昼間しかできないんですよ。人間が火を必要とするのはたいてい夜だったりするので、なかなか難しい。

こんなふうに取材に力を入れるのは、リアリティーを出すためでもあるんですけど、ぶっちゃけますと、僕が小心者だからです(笑)。

撮影現場で、「これ、どうしてこうなっているの?」と役者さんやスタッフに聞かれた時、「知らない」っていうのは、やっぱりちょっとイヤなんですよ。かといって平気な顔して嘘もつけない。演出として事実をデフォルメしたり別の表現にするにしても、「本当はこうだけど、あえてこうした」と説明できるようにしておかないと怖くてしょうがないんです、小心者なので(笑)。ですから、知っておいて、理解した上で描く。あるいは、理解した上で描かない。そういう選択をちゃんとできるためにも取材をしています。

「理解した上で描く、あるいは理解した上で描かない。そういう選択をできるように取材をする」

■電気がなくなったら一番先にダウンするのは僕だとわかった

「電気なんてなくなってしまえばいいのに」という軽い考えから「サバイバルファミリー」は始まりました。そこから取材を重ねて、電気がなくなった世界を描いてみてわかったのは、もし電気がなくなったら、一番先にダウンするのは自分だということです(笑)。

僕には、小日向文世さんが演じる鈴木家のダメなお父さん(主人公)と同程度の能力しかない。サバイバルの知識も技術もツールも持ってない。アウトドアも嫌いですし、普段は電動アシスト自転車に乗っている(笑)。

だから映画を見るお客さんには、鈴木家を反面教師として見てもらえればいいなと思います。「ああいう間違ったことは決してすまい」って(笑)。

もう一つ、お客さんに感じてもらえたらうれしいのは、開放感や爽快感です。電気がなくなり、いろんなものが使えなくなって、不自由だと思っていたら、逆に思わぬ自由がやってくる……。そういう側面もあると思うんです。その象徴が、東名高速を自転車で爽快に走るシーン。僕は高速道路を通るたびに、「いつかこの道を思いっきり自転車で走ってみたいな」と思っていたのですが、この映画では、そういう気持ち良さを味わってもらえるのではないかと思います。

■もし「電気製品がなくなったら」と想像してみてほしい

映画のアイデアを思いついた時点では「なくなってしまえ!」と思っていたパソコンや携帯電話といった電子機器ですが、映画を作り終えた今は、そこまでは思っていません。どうしても必要なところは使って、なくてもいいところはナシで行く。そういう選択ができるといいなと思います。でも残念ながら人間は愚かな生き物(笑)。便利だと思うものはどんどん使ってしまうでしょう。それも、しょうがないです。

でも、もし電気製品がなくなったらどうなるのか。この映画がきっかけで考えてもらえたらうれしいですね。このサイトは電気製品がたくさん載っているそうですが、それがすべて使えなくなったらどうなるか(笑)。そんな想像をしながら、ハッとしたり、ハラハラしたり、ワハハと笑ったりしながら、2時間楽しんで映画を見てもらえたらと思います。

撮影中もずっと肩にかけているカバンについては記事「数々のヒット映画を生んだ100均のメモ帳」を

◇ ◇ ◇

「数々のヒット映画を生んだ100均のメモ帳」では、矢口監督が映画作りに欠かせないという2つのモノについて語っています。そちらもお読みください。

「サバイバルファミリー」
ある日突然、東京の電気が消失。スマホも電車も使えず、食料も尽き始めた鈴木一家は、生き延びるため祖父のいる西へ九州に向かって自転車をこぎ始める。
原案・脚本・監督:矢口史靖
出演:小日向文世、深津絵里、泉澤祐希、葵わかな、ほか
2月11日(土)全国ロードショー

矢口史靖(やぐち・しのぶ)
1967年生まれ。大学時代から自主映画を撮り始め「雨女」でぴあフィルムフェスティバルのグランプリを受賞。93年、「裸足のピクニック」で劇場映画デビュー。以降、ほとんどの作品で自ら原案・脚本・監督を務めながら、ユーモアと感動にあふれた映画を発表し続けている。主な作品に、テレビドラマ化もされた「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」「ハッピーフライト」「ロボジー」「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」(原作・三浦しをん)など。「サバイバルファミリー」の原作小説が集英社から発売中。

(文 泊貴洋/写真 吉村永)

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