ストレスのもとからは、逃げるが勝ち人気トレーナー・中野ジェームズ修一さんのカラダメンテ術(4)

卓球の福原愛選手やバドミントンの藤井瑞希選手、箱根駅伝3連覇を果たした青山学院大学陸上部など、一流アスリートたちをサポートする名トレーナーのストレス回避術とは?
卓球の福原愛選手やバドミントンの藤井瑞希選手、箱根駅伝3連覇を果たした青山学院大学陸上部など、一流アスリートたちをサポートする名トレーナーのストレス回避術とは?
日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

仕事や日常生活の質を上げるには健康な体でいることが大切だ。それを実現するために自らが実践している方法を、体づくりのプロであるフィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんに聞くシリーズの最終回。中野さんは、体力面だけでなく、メンタル面やフィットネスの指導もできる日本では数少ないトレーナーだ。今回は、選手たちの試合前のストレスやプレッシャーを緩和するために日ごろ行っている指導をもとに、「ストレス回避術」について語ってもらった。

ストレスをためないようにするには、ストレッサー(ストレスを与える何らかの刺激のこと)の根源となっていることを「回避」することが重要です。

自分がやりたいこと、やらなければならないことを端からすべてやってしまうと、ストレッサーが過剰になって、いずれは体を壊してしまいます。いったん壊れた体を元に戻すには、大変な時間と労力が必要になります。だからこそ、どの時期にストレッサーを回避するかというタイミングを見極めることが大切になるのです。

どの時期にストレスを回避するかを見極める

私の場合、選手たちが練習している現場で指導することがよくありますが、そのうちのどれに同席し、どれを休むか見極めるのが重要ということです。もちろん、できることならすべてに顔を出したいというのが私の気持ちです。しかし、それをやると長い目で見て支障を来すと判断した場合、ときには何かをあきらめる必要もあるのです。

例えば、Aというチームの練習と、その翌日にあるB選手の練習に、少し頑張れば行ける状態だったとします。ところが、翌々日からは海外遠征に帯同するため2週間休みが取れない。そのうえ、帰国後すぐにも予定が入っているとなると、無理をすることで先々の仕事が回せなくなる可能性が出てきてしまいます。もしかしたら、私自身、疲労で体調を崩してしまうことだってあるかもしれない……。

そう考えると、例えば「B選手は大事な試合に向けての重要な局面までは来ていない時期なので、今回は私自身は行かずにスタッフに任せる」といったことがストレッサーの回避になります。もちろん、それを実行するには各方面にいろいろと連絡をする必要がありますし、勇気も必要です。気も使うし、練習に立ち合えないフラストレーションもたまるのですが、ある程度はそうして意識して回避していかないと、最終的にすべての仕事を台無しにする可能性もあるのです。

ビジネスマンの方でも、仕事で大きなプロジェクトを任されたとしたら、そのすべてを一人で回すことはできないですよね。私たちも同じで、私が行けない場合は、スタッフに担当してもらって選手やチームの状態を把握したり、指導をしたりしています。

スタッフを信頼して仕事を任せ、ストレッサーを回避

「回避というとネガティブな印象があるけれど、スタッフを育てると思えば……」

最高技術責任者である私が現場に行くことを勇気を持って回避することは、周りのスタッフを信頼することにもなりますし、彼らのチャンスにもなります。私が行くと、どうしても私に頼ってしまう部分が出てきますが、自分一人で行くことで「任されているんだ」という自覚もできてきます。それがトレーナーとしての成長につながるとも思っています。

会社のビジネスもそうだと思いますが、スタッフや同僚を信頼して仕事を任せる、分担するということが、社員の方々の自立にもつながっていくと思います。回避という言葉はネガティブに捉えられがちですが、ポジティブな方向でストレッサーを避けていくと考えればいいでしょう。

もちろん、最初は自分が行かなければサボっていると思われるんじゃないかなという怖さはありました(笑)。でも、勇気を持って回避し、スタッフを信頼して仕事を任せるようになってから、私自身の体も気持ちも楽になりましたし、スケジュール管理や会社全体としての仕事の進み具合もうまくいくようになりました。

「回避」という言葉はネガティブに捉えられがちですが、ポジティブに考えて回避することが、実践のカギといえるでしょう。

仕事と関係のない本を読むのもストレス回避の一つ

もう一つ、私がストレス回避のためにやっているのが、大好きな本を読むことです。本は作者と何時間も向かい合える場、だから好きなんです。例えば沢木耕太郎さんの本を読んでいると、こういう場では沢木さんはこう考えるんだなど、彼の頭の中がわかってくるような気がする。それが新しい発想のきっかけになり、ストレス解消にもなります。

実は、2000年前後、私がすごくストレスをため込んでいた時期は本の読み方が、今とは全く違っていました。当時は、「どうせなら自分の仕事に役立つものを」と思い、トレーニングや健康に関する専門書ばかり読んでいたんです。こうした本を読むと、その時はなるほどと思うことがあります。でも、振り返ってみると、その頃が一番体調が良くありませんでした。趣味であるはずが、仕事の延長になっていたんですね。

そんなとき精神科のお医者さんと出会って、「中野さん、ストレスをため込み過ぎですから、趣味を見つけましょう」と言われました。それで仕事に関する本をプライベートな時間に読むことをやめて、沢木耕太郎さんや村上春樹さんの本を読み始めたら、すごく楽しくなってきて、体調も良くなりました。

今は大体3冊を同時進行で読んでいます。朝はこれを読んで、昼間の移動時間にはこっちの本、仕事関係はこの時間にと、気分によって読み分けているんです。朝早く起きて、カフェで新聞を読むのも好きですね。

ビジネスマンの方々も、一日中仕事のことが頭から離れない人も多いようですが、何か一つ、その思考から「回避」できることを見つけると、ストレスに悩まされることがなくなると思います。

(ライター 松尾直俊/カメラマン 室川イサオ)

■この人に聞きました
中野ジェームズ修一(なかの ジェームズ しゅういち)さん
 フィジカルトレーナー/米国スポーツ医学会認定運動生理学士。1971年生まれ。日本では数少ない肉体面と精神面の両方を指導できるトレーナー。卓球の福原愛選手など日本のトップアスリートだけでなく、高齢の方の運動指導も行う「パーソナルトレーナー」として活躍。日本各地での講演も精力的に行っている。近著に「青トレ 青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ」(徳間書店)、「世界一やせる走り方」(サンマーク出版)など多数。

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