アート&レビュー

舞台・演劇

長澤まさみに天性の輝き 舞台『キャバレー』の面白さ

2017/1/21

長澤まさみ主演のミュージカル「キャバレー」が話題になっている。長澤まさみのセクシーな脚線美に目が吸い寄せられたファンも多いそうだが、舞台の内容、できばえはどのようなものか。演劇・舞台に通い詰めてウン十年、すれっからしのシアターゴアー(S)とミュージカルに目がない女性(Mちゃん)の対談に耳を傾けてみよう。

M 最近のミュージカル、切符がなかなか買えない。これも当日券に並ばなきゃならなかったわ。

S セクシーなポスターがきいたかな。なんといっても、長澤まさみで売ってる「キャバレー」だから。すけすけのドレスもあるし、キレイでかわいいねえ。

M これだからオヤジはイヤ。歌姫役の長澤まさみはきれいなだけじゃないよ。思った以上に歌がうまいし、声も太くて強い。

S キスシーンも結構あって、いろいろなポーズを楽しませる趣向だったね。正面を向きすぎなのは玉にきずだけど。演出の松尾スズキは長澤まさみの魅力については最大限引き出していた。

M 一面的な見方ね。長澤まさみは男にだらしない役でも、天真爛漫(てんしんらんまん)。明るく生きていく力が時代の不条理を際立たせる。暗い気分からポジティブな気持ちへと向かう歌いぶりはよかった。

S ナチスが台頭するベルリンの退廃的ムードが魅力のミュージカル。歌姫とアメリカからきた小説家志望の男との恋愛が主筋。独身女性の家主と果物を売るユダヤ人男性との結婚話も加わって、苦い愛に戦争前夜の世相を映し出す作意だけれど、全体主義への恐怖がもっと強く出ないと本来の「キャバレー」にならないんじゃないかなあ。そこが弱いと長澤まさみばかりに目がいってしまう。

M どこを見てるのやら。場末のキャバレーの雰囲気はちゃんと出てたじゃない。逆光線もうまくつかって、幻想的なショーの空気をつくっていた。演出した松尾スズキにはきっとテレがあるのよ。日本人がガイジンを演じて、大見えきってナチスのシーンを描くことに。

S 確かにハーケンクロイツの大きな旗はたらすけど、群衆シーンでは小旗になるし、肝心なところでギャグを入れてしまう。

M 若い観客の中にはハーケンクロイツに反応できない人もいるから。舞台が重く沈まないように、ナチスのユダヤ人迫害もさりげなく描いてた。外国のミュージカルを日本人が演じると、どうしてもウソくさくなる。ユダヤ人迫害そのものを描くのではなくて、今の日本にあるいじめや差別の感覚を名作から引き出そうとしたんじゃないかしら。わかるような気がする。今の日本、怖いことをさりげなくするんだもの。

S お得意の下ネタもテレかくしというわけ? 松尾スズキはいじめや差別を危ない喜劇に仕立ててきた人だけに、自分を正統の位置に立たせられない、そういうこと? ただ、それでは薄っぺらになるだけじゃないかなあ。

M それは、うがった見方ね。ブロードウェーの名匠ハロルド・プリンスが製作・演出して、ジョン・カンダー作曲、フレッド・エブ作詞で仕上げた名作ミュージカル。作品に敬意を表し、細かいギャグでぎりぎり自分のテイストを出しているんだと見るべきよ。

S いっそウェルメイドに徹すればいいのに。

M ウェルメイドになっていたと思うわ。この舞台でも会話が歌に発展していく流れがとてもスムーズ。舞台上の楽団とのコラボレーションは見事だった。ミュージカルの呼吸をよくつかんでいる。

S スムーズなのはいいけれど、場面転換がはっきりしなくなって、キャバレーとアパートの転換の境目がよくわからなくなる。白塗りの石丸幹二がベルリンの夜の精のような不思議な役を演じて、どこにでも忍び寄ってくるのは不自然じゃないかい。

M あれは宝塚の「エリザベート」に出てくるトートと思えばいい。死のイメージが人間の姿になって、見える人にしか見えない。それと同じよ。石丸幹二は四季時代の誠実な演技に膨らみが出て、コメディーの味も出せるようになった。面白い役者になってきたわ。

S この松尾スズキ版「キャバレー」、10年前の初演では賛否が分かれた。それと比べれば、見違えるほど良くなったのは確か。役者が成長してるからだろうね。女家主を演じた秋山菜津子は井上ひさしの「きらめく星座」で歌唱力は証明ずみ、今やシリアス劇もナンセンス喜劇もできる切り札的存在になったね。

M 最近、大活躍の小池徹平が歌姫の恋人役にまわって、ナイーブな持ち味を出してた。初演以来の個性派たち、平岩紙、村杉蝉之介、小松和重もうまくなった。

S なんだか長澤まさみがお姉さん的だから、小池徹平とイーブンの関係に見えないのが惜しいね。今回はまわりの役者たちに助けられていたけれど、これから舞台経験を積んで大人の演技を磨いてほしい。でも、大器だ。

M 歌姫がステージに現れる瞬間のはっとさせる輝きは天性のもの。サビをきかせる演技もできるようになってほしいわね。

S 松尾スズキはアイドルを輝かせることに隠微な熱情を持ってるんだろう。鬱屈したファンのまなざしで、女神のようなアイドルを見すえているのかも。

M あーあ、すれっからしは裏ばかり見るのね。

(編集委員 内田洋一)

パルコ制作。1月22日まで、東京・EXシアター六本木。1月26~29日、横浜・KAAT神奈川芸術劇場。2月3~5日、大阪・フェスティバルホール。2月10~12日、仙台サンプラザホール。2月17~19日、刈谷市総合文化センター。2月24~26日、福岡サンパレスホール。

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