「いい脂肪」なら、かなりの量を食べても太らない!
『シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』の著者に聞く(3)

ローファットはむしろ体にマイナスに働く

デイヴ・アスプリーさんが薦めるシリコンバレー式「完全無欠ダイエット」の基本メニューとなる「完全無欠コーヒー」は、コーヒーにバターやMCTオイル(ココナッツから抽出した中鎖脂肪酸オイル)という「脂肪」をたっぷり加えるもの。「朝からそんなに脂肪をとって、太らないの?」と不思議に感じる読者も多いかもしれない。
デイヴさんは「完全無欠ダイエット」において、「良質な脂質をとる」ことを極めて重要なこととして位置づけている。著書の中でも、「『脂肪を食べると太る』という考えは、一種の神話に過ぎない。正しい種類の脂肪はヘルシーで、生命維持に不可欠。正しい脂肪は、クリーンに燃焼し、栄養たっぷりで満足をもたらすエネルギー源で、体も脳も最大限に機能させてくれる」と説明している。
そこで今回は、「脂肪」について詳しく聞いていこう。
――脂肪はハイカロリーなので、あまりとらない方がいいという認識の人が多いと思います。実際、油ギトギトの料理や、高脂肪のケーキなどは典型的な悪者となっています。その一方で魚の油に多いDHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)のように、積極的にとるべき油もあります。最近の「ローカーボ(低糖質)」の流れの中で認識も変わりつつあるように思いますが、多くの人にとって、脂質はまだ「悪者」のイメージが強いと思います。私たちは、これから脂質とどう付き合っていけばいいのでしょうか。
デイヴさん 脂肪について考えるには、歴史的背景も知っていただきたいと思います。1950年代にアンセル・キーズという科学者が「飽和脂肪酸は心臓病の原因になる」と主張し、栄養業界を揺るがしました。それを受け、アメリカで低脂肪(ローファット)ダイエットの大流行が起こり、いまだに「ローファット」のブームは続いています。
食品メーカーは競うように低脂肪食品を作りました。加工食品から脂質を除去するときには、何かに置き換えなくてはなりません。そこで、過剰な糖分やコーンシロップが加えられたのです。
当然、こういった食品を摂取し続ければ悪影響が出ることは避けられません。糖質を多く含有する低脂肪食品をとるとインスリンが分泌され、細胞に吸収したての糖を使わせるため血糖値が下がります。すると脳は、肉体の生存に必要な燃料が切れそうだと考え、結果として「甘いものが食べたい」という衝動を高めることになります。"太る悪循環"へと導くのです。
一方の脂肪は、グラム当たりのエネルギー量が他の栄養素より多いので、必要とする場所までエネルギーを届けるのに最も効率的で、糖やタンパク質と比べてインスリン値に与える影響も少ないのです。
ローファットを実践するも、肥満は改善されず
――デイヴさんご自身、かつては「ローファットダイエット」を行ったことがあるそうですね。ところが、「実践したけれど、肥満は改善しなかった」と。

デイヴさん そうなのです。私はシリコンバレー保健研究所の所長などの立場で、アンチエイジングの分野を10年間研究したことがあります。
医療従事者、研究者など専門家から話を聞き資料を読み、自らをモルモットにして実験を繰り返しました。ところが、世の中で"良い"と言われていても、かえって太ってしまう方法はいくつかありました。
その代表が、ローファットダイエットでした。ローファットダイエットは、男性の場合、代表的な男性ホルモンであるテストステロンを低下させ、女性は気分の浮き沈みを起こさせます。いずれも、ビジネスはもちろん日常生活にも悪影響をもたらします。
ローファットブームの影響で、脂肪は肥満や病気の原因になるということで、多くの人が脂肪を食べるのを恐れるようになりました。しかし、私は「脂肪を食べると太る」という考えは一種の神話に過ぎないと考えます。
カロリーのほぼ7割を脂肪からとる
――デイヴさんはローファットの逆、つまり「カロリーのほぼ7割を完全無欠な脂肪であるMCTオイル、良質のバター、クリルオイル(オメガ3脂肪酸)などでとる」という方法も実践されました。

デイヴさん 無茶であることを覚悟で、多くの脂肪でカロリーをとった場合、どれほど急速に太るのかを自らの体で確かめたかったのです。従来ダイエットについて教えられてきたことが真実であるなら、1日あたり3500キロカロリーを余分にとるごとに0.5キロ太る計算になります。運動をやめ、睡眠時間を太る原因とされる5時間未満にし、毎日、エネルギー(カロリー)のほぼ7割を脂肪からとりました。
ところが僕の体はがぜん燃えだし、頭は冴え、たっぷり眠る必要もなく、腹はぺたんこになり、なんと腹筋が割れました。実際に増えた体重は、ほんの数キロの筋肉だけだったのです。正しい種類の脂肪は生命維持に不可欠です。クリーンに燃焼し、栄養も満足も与えてくれ、体も脳も最大限に機能させてくれる。脂肪は健康な細胞膜の成分であり、ホルモンの材料にもなります。受精能力、体温調節などのためにも必要なものです。
シリコンバレー式「完全無欠ダイエット」では、1日のカロリーの50~70%を正しい種類の脂肪でとるように勧めています。正しい種類の脂肪なら、かなりの量を食べても太らないのです。人間の細胞、臓器、脳はどれも脂肪で構成されていて、最適な働きをするには良質な脂肪が必要なのです。
具体的にどんな脂肪をとればいいかについては、著書を読んでいただきたいのですが、完全無欠ダイエットで推奨している脂肪には、例えば、青魚に含まれるオメガ3脂肪酸やココナッツオイルに含まれる中鎖脂肪酸、アボカドに含まれるアボカドオイルなどがあります。食材そのものをとってもいいでしょう。
食事の影響は80%、運動は20%
――今のデイヴさんは、体重140kg時代の写真と比べると、格段にスマートになり、筋肉もかなりついているように見えます。どんな運動をされているのですか?

デイヴさん かつては1回90分、週6日の運動をしていましたが、ぜい肉は望むようには落ちませんでした。現在は、1週間に15分間だけ、エクササイズを行っています。その15分間の中で、ウエイトはかなり重たいもの、1.5分~2分で反復して上げられなくなる程度の重さにしています。スクワットやプッシュアップなどの筋トレも行います。
また、30秒走って90秒休み、もう一度走って休む、という繰り返しを15分繰り返すという「高強度インターバルトレーニング(HIITのこと。HIITについては「忙しい人向け 短時間の集中運動HIITトレーニング」もご覧ください)」も行っています。この運動のメリットは、体のパフォーマンスを強化し、若さを保つアンチエイジングホルモンであるヒト成長ホルモンがたっぷり生成されるようになることです。心肺機能も高まります。
――かなりきつそうな運動ですが、週1回でいいのですね。
デイヴさん 僕のクライアントである、アグレッシブな企業幹部たちは、多くの時間をトレーニングに費やし、トレーニング過剰で回復不足になっているという共通点があります。
ストレスの多い仕事をしているのに、"めいっぱい"運動してはダメです。副腎皮質から出て血糖値を上げるコルチゾール値が跳ね上がり、体重は増加し、筋肉は失われます。最小限の努力と最小限の時間で、効果的な運動をするのが賢いやり方です。運動時間はもっと短くできるのです。全身を調整するホルモンや腸内細菌が体型を決めるのです。
ダイエットに対する効果は、食事の影響の方が圧倒的に大きく、目安としては、食事が80%で、運動は20%ほどだと考えています。
日本にはスーパーフードがたくさんある
――著書では、実に様々な食材を紹介しています。これだけでも最先端の"食の百科事典"ですが、このほかに日本人にお薦めの食材がありましたら教えていただけますか。
デイヴさん 日本には私たちも積極的に食べたいスーパーフードがたくさんあります。例えば、海藻は、これからアメリカ人がもっと食べなければならない代表的な食材です。

日本の食材や料理もよく食べますよ。わが家には日本のメーカーの餅つき器があります。つきたてのお餅をいただくのは大好きです。お餅の生地にMCTオイルを混ぜ込み、丸めて焼き、バターをかけたり、肉や魚を包んだりして食べています。
お寿司も大好物です。お寿司にもMCTオイルを少し垂らしていただいています。日本の方なら「お寿司にオイル?」と思われるかもしれませんが、素材の味がひきたって満足感も得られます。一度試してみてください。オメガ3脂肪酸をたっぷり含むイクラもおいしいですね。子どもも毎週食べています。
◇ ◇ ◇
忙しい毎日の中で、良いものだけをとる食生活はなかなか実践が難しいもの。シリコンバレー式ダイエットのポイントは、「0か100か」の極端な方法ではなく、「良いものを少しでも多く」「悪いものを少しでも少なく」とることだとデイヴさんは話す。食べ物を選ぶとき、この考えを意識するだけで、健康のベクトルは変わってくるはずだ。人はそれぞれ異なる体を持っているから、ある食べものを食べたときの反応も人それぞれ。まずは「完全無欠コーヒー」(第2回をご覧ください)から試してみて、体調の変化を観察してみてはどうだろうか。
「私の目指すゴールは、ほどほどの健康を目指すことではなく、完璧で最高の状態でパフォーマンスを上げながら長く生きること」と話すデイヴさん。彼が多くの情報をサイトで無料公開するのは、体調を崩し、脳が思うように働かず、うんざりしていた期間から解放された今、「自分がしてきた苦労を他の誰にもしてほしくない」からだという。正しい情報を多くの人と共有するべく研究を続けるデイヴさんは、続編の出版も検討しているという。
(ライター 柳本操、インタビュー写真 菊池くらげ)
Bulletproof創業者/CEO。1970年生まれ。IT起業家、マーケター、投資家。自分の心身を劇的に改造した"バイオハッカー"としても知られる。ウォートン・スクールでMBA取得。eコマース(電子商取引)を史上初めて行うなどシリコンバレーで成功するが、肥満と体調不良に悩まされる。そこで私財30万ドルをつぎ込み、世界の膨大な研究成果を自らの体で試し、その集大成として『THE BULLETPROOF DIET(邦題:シリコンバレー式 自分を変える最強の食事)』を出版。
[日経Gooday 2016年12月9日付記事を再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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