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東大首席の乙女心 ヒラリー敗北に結婚観も大揺れ 元財務官僚の山口真由さん

2016/11/23

 米大統領選でドナルド・トランプ氏がヒラリー・クリントン氏を破り、リベラル派の牙城といわれたハーバード大学の学生にも衝撃が広がった。他にもショックを受けたという日本人女性がいる。東京大学法学部を首席で卒業後、財務官僚、弁護士を経て、8月までハーバード大学ロースクール(法科大学院)に留学していた山口真由さんだ。スーパーキャリア女性の結婚観も狂わす出来事だった。

■ヒラリー氏はリベラル夫婦の象徴

 「ハーバードの学生は8割方がリベラル派、ヒラリー氏の支持者だったので私も驚きました。ヒラリー氏と夫のビル氏の2人は米国の『リベラル夫婦』の象徴。憧れた時期もありましたが、この選挙で限界も感じました」。山口さんは神妙な面持ちでこう話す。

 時には1日19時間半も勉強し、東大在学中に難関の司法試験を突破、官僚から弁護士になった山口さんだが、「ガリ勉」に人生をささげてきたわけではない。キャリアを追求しながら、常に思い悩んできたのが「結婚」という二文字だ。

 実は山口さんが初めて男性と交際したのは東大受験を控えた高校3年生のときだった。相手は同じ筑波大学付属高校から私立大学へ進んだ1つ上の先輩。自分は将来ちゃんとした仕事につきたいと話すと、「僕はいいけど、母はどう思うかな」と語った。その瞬間、熱は冷めた。受験勉強も重なり、関係は遠ざかった。

■日本には「スイッチ男子」が多い

元財務官僚の山口真由さん

 勉強や仕事の合間を縫いながら、その後も何度かの恋愛と、時には失恋も経験した。札幌市にある実家の両親は「早く結婚してほしい」という。もちろん山口さんも結婚願望はある。弁護士になり、ある程度自由な時間が持てたころ、1人の金融マンと恋に落ちた。仕事ができ、職場ではダイバーシティー(多様性)を肯定する男性だが、ふと結婚の話題になると「夫婦別姓はダメだ」と完全否定、議論の余地はなかった。

 山口さんは「日本には『スイッチ男子』が増えているのでは。会社では男女同権といいながら、家庭に戻ると、家事をやるのは女性の仕事という男性が少なくない」と感じた。一昔前まで日本は、「会社も家庭もコンサバ(保守的)だったが、今は会社ではリベラルだが、家庭ではコンサバ。一方、米国では会社も家庭もリベラルな男性が多いのでは」と考えた。その後、山口さんはハーバードに留学し、ちょっと驚きの光景を目にした。

 5月のハーバード大の卒業式。来賓の有名映画監督スティーブン・スピルバーグ氏の演説に観衆が酔いしれているとき、1人の赤ん坊が泣き叫んだ。しかし、母親の女性はそれを無視、必死になって世話しているのは父親の男性1人。山口さんは「これが米国のリベラル夫婦か」と半分あっけにとられた。

■ハーバードはリベラルカップルだらけ

 ハーバードのカップルは四六時中議論ばかりしている。両者は何事も対等な立場で、理性的に協議して合意、物事を決める。スピルバーグ氏の演説中の世話は父親の役目と決めれば、どんなに赤ん坊が母親を求めても母親は何もしない。これがリベラル夫婦だ。

 ハーバードの友人に「あなたも、こっちの男性とつきあえば」と勧められた。リベラル夫婦こそが理想像かなと思ったが、何となく違和感も覚えた。公私いずれの場でも、いつも理性的に協議して物事を決めるのはさすがに疲れる気がする。

 わだかまりを感じたまま、米国から帰国して飛び込んできたのが、米大統領選のニュースだった。リベラル派が推し進めてきたグローバル化の潮流のなか、結果として米国民が選んだのが保守派のトランプ氏。ローカルの逆襲だった。

 「信じられない」と思いながら、合点がいく面もいくつか浮かんだ。「ビル・クリントン氏が大統領在任中に不倫が発覚した際、ヒラリー氏は理性的に話し合い、離婚はとどまったとみられていたが、米国の市民は『何か無理しているのでは』『おかしい、うそをついているのではないか』と感じたのではないでしょうか。結果、ヒラリー氏を信用できず、このような選挙結果になったと、そう説明する米関係者も少なくありません」という。リベラル夫婦の限界を痛感した。

■東大女子はもてない?

山口さんは「キャリア女性のロールモデルって何なんだろう」と悩む。

 日本のリベラル派の弁護士が実際に結婚相手として選ぶのは「家庭的な専業主婦」が少なくない。ある5人のエリート金融マンに、「東大首席の女性と、高学歴ではないが、かわいい女性のどちらが結婚相手にいいか」と問うと、全員が後者と答えたという話を山口さんは友人から聞かされた。別に山口さんを意図した話題ではない。やはりショックだったが、これが現実なのかと思った。

 山口さんが結婚相手として求める男性は「高学歴のエリートなんかではなく、仕事もちゃんとして、家事にも参加してくれる普通の人」だ。「それは私のわがままなのだろうか。結局、自分も都合のいい男性を求めているだけだろうか」と自問自答する。

 知り合いのキャリア女性の中には結婚してうまくいっていないケースも少なくない。離婚したり、結局、キャリアを捨て家庭に入ったり。知人からは「男性に対してもっと柔軟に、したたかに考えれば」とも助言されるが、「それは不誠実なので」という。

 「キャリア女性のロールモデルって何なんだろう。自分は結婚を選択すべきなのだろうかと、今、本当に迷っている」と悩む。山口さんは法律の世界で今後もバリバリ仕事をしたいと考える「法曹女子」。キャリアに真剣の向き合う女性ほど、結婚は大きなテーマなのだろう。

山口真由氏(やまぐち・まゆ)
1983年札幌市生まれ。筑波大学付属高校進学を機に単身上京。2002年東京大学入学。3年生で司法試験合格。06年法学部首席卒業、財務省入省、08年退官。09年から15年まで弁護士として大手法律事務所に勤務。15年米ハーバード大学ロースクール入学、16年修了。著書に『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある』(扶桑社)など。

(代慶達也)

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