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「ポケモンGO」はまだ“ゲーム”じゃない

日経トレンディネット

2016/10/18

日経トレンディネット

西友で世間を騒がすキャンペーンを次々と指揮し、現在はドミノ・ピザ ジャパンのCMO(チーフマーケティングオフィサー)を務める富永朋信氏が、ヒット・ブームの理由をひも解きます。

こんにちは、ドミノ・ピザ ジャパンの富永です。

2016年7月にスマートフォン向けアプリ『ポケモンGO』が米国・オーストラリアなどに続く形で日本でもリリースされたときの熱狂は、まだ記憶に新しいところです。筆者はリリース当時、オーストラリアにいたのですが、かの地の同僚たちが口をそろえてポケモンやポケモンGOのことを尋ねてくるのに驚いたものでした。

(c)2016 Niantic, Inc. (c)2016 Pokemon. (c)1995-2016 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

開発元であるナイアンティックのウェブサイトによると、ポケモンGOは8週間で5億回ダウンロードされ、ユーザーが歩いた距離の総計は46億キロに及ぶとのことで、過去に類を見ないスピードや規模でこのゲームが普及しているのが見てとれます。ちなみに、この46億キロという数字は、地球から冥王星までの距離に相当するとのことです。

また、日本では企業が通勤途中のプレーを禁止する、タイアップした日本マクドナルドの7月の売り上げが前年同月比約26%増になるなど、ポケモンGOはいちサービスの枠を超え、大きな社会現象の様相を呈しています。

そこで本稿では、ポケモンGOがここまで爆発的に拡大した理由、マーケティング的視点から見たその意味などについて、考えてみたいと思います。

■ポケモンGOがここまで爆発的に普及した理由は?

ポケモンGOは「ゲーム」という位置づけでリリース・マーケティングされているので、まずはゲームとしての魅力・面白さがユーザーを引き付けた、というのが最もシンプルな考え方でしょう。ところが、この点で筆者は疑問があります。

そもそもゲームの魅力・面白さは何に由来しているのでしょうか。将棋、トランプ、アーケードゲームなど世にはさまざまなゲームがありますが、筆者の考えでは、その面白さの核には、

(1) 対戦相手に勝つカタルシス(将棋、多くのスポーツ、トランプゲームなど)
(2) スキルの獲得による成長実感(多くのアーケードゲームなど)
(3) 目標の達成(ソリティアなどの一人ゲームなど)

などの要素があります。さらにそこに至るまでプレーヤーを引き付けておくギミック・メカニズムとして、得点、戦略の構築と試行、定石・技術の習得などがあり、それらをプレーヤーに提供するための場面・トレーニング方法などがゲームの内外にちりばめられているわけです。

つまり、ゲームには、(1)核となる要素、(2)そこに至るまでのギミック・メカニズム、(3)それらとプレーヤーをつなげる場面・トレーニング方法などが必要であり、これらがバランスよく配置されていることが面白さの要諦なのではないかと思うのです。

この観点からポケモンGOを考えてみましょう。ポケモンGOの中で最もセンセーショナルな要素は、「ポケモンという世界を通じた現実と虚構の融合」という一点にあると思います。

これは上記3要素の中では「場面」にあたり、ポケモンGOで最もインパクトがあるのは「ギミックやメカニズム(モンスターボールなどの供給・ジムにおけるバトルなど)とプレーヤーをつなげる場面」が実装されていること、ということになります。そのインパクト・驚きがあればこそ、ユーザーはこぞって街じゅうにポケストップやジムを探し歩き、その距離総計は46億キロを超え、今も伸び続けているのです。

■「ゲーム性」よりも「ARの新鮮さ」が受けた

しかしながら、面白いゲームに具備されているべき、場面の先につながる「核となる要素」について、筆者は現状(2016年9月15日時点)の仕様では十分ではないと考えます。

まず、現状のポケモンGOには「達成すべきゴール」が見えません。暗黙的なゴールとして、国内にいるポケモンを全て捕獲することを目指してプレーしている向きはあるようですが、これを達成すべきゴールとするのは若干無理があるのではないか、と考えます。

というのも、ポケモンのコンプリートを(1)ポケモンの探索(2)その捕獲の積み重ねであると考えたときに、

・ユーザーの技量・裁量の入る余地が少なく、うまくプレーしている実感が得にくい
・それに比べて要求される忍耐が甚大
・一つひとつの捕獲に対する報酬が小さい
・そもそも「コンプリートしろ」というミッションを与えられるわけでも、達成時の報酬を提示されるわけでもない

ポケモンGOはAR(拡張現実)技術によってポケモンの世界と現実が融合するところがポイント。(c)2016 Niantic, Inc. (c)2016 Pokemon. (c)1995-2016 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

これらの要素から、一般的なユーザーがポケモンGOをプレーする理由・モチベーションを「コンプリート」と考えることは、現実離れしているような気がするからです。ですので、プレーヤーは面白さの核となる要素として、「勝利のカタルシス」や「成長実感」を求めていくことになります。

ところが、この2つのポイントについても、ジムでのバトル(での勝利)やプレーヤーのレベル向上などはゲームの中に組み込まれているものの、現実と融合した虚構世界を探して歩くという「場面」のセンセーショナルさに圧倒されていて、面白さの核としての十分なカタルシスや成長実感を提供できているとは思えません。

まとめると、ポケモンGOはそのアイデアの核である「ポケモン世界と現実の融合=ポケモンを通じたAR」に見合う面白さの核を提供できていないため、ゲームの構成要素に不足がある、つまり「現状のポケモンGOはゲームではない」と考えます。ユーザーを動かしたのはそのゲーム性ではなく、ARの新鮮さにあった、というのが私の見立てです。

■「同調効果」も爆発的普及の一因

新たなポケモンを捕獲すると図鑑に登録される。(c)2016 Niantic, Inc. (c)2016 Pokemon. (c)1995-2016 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

ポケモンGOがここまで爆発的に普及したのには、もうひとつ理由があると考えます。

みなさんは「同調現象」という言葉をご存じでしょうか。

これは、社会科学などの分野で扱われる事象の一つで、周りの人と同じ行動をしていると安心し、逆に自分が正しいと思ってもほかの人が異なる行動をしている場合には不安になるといった心理のことです。同調現象により説明される事例の一つとして、米国の著名な心理学者ミルグラムが行った面白い実験があります。

街中にサクラを立たせ、何もない空を見上げさせます。そうすると通行人にも彼らにつられ、同様に空を見上げる者が出てきます。この同調行動は、サクラが1人の場合には4%と極少数ですが、サクラを5人に増やした場合には20%に、15人に増やした場合には45%の人が立ち止まって見上げる結果となったそうです。

みなさんも実感として、街中の行列につい並んでしまうといった経験があるのではないでしょうか。

ポケモンGOにおいては、

・先行でリリースされた海外での評判などによって相当数のユーザーベースが見込めた
・その「場面」の提供方法の革新性などにより、メディアに広く露出した
・それによって同調現象が起き、ユーザーベースがさらに増え、獲得ユーザー数自体がニュースとなるレベルになった
・それが露出し、さらなる同調現象を呼んだ

といったサイクルが発生し、加速度的にユーザーベースが増大した、という次第。

まとめると、ポケモンGOがここまで爆発的にヒットしたのは、(1)ポケモンを通じたARの驚き、(2)同調現象の2つに理由がある、と筆者は考えます。

今後の展望について、9月2日に特定のポケモンをパートナーにできる「相棒ポケモン」サービスのリリースが発表されました。このサービスは、いわばゲーム内に戦友を作るギミックであり、成長実感を強化できるポテンシャルを有していると思います。これにより、ポケモンGOのゲーム性が強化され、ユーザーがポケモンGOのプレーを継続する理由が付加されるのが期待されるところです。

■ポケモンGOは“O2Oの壁”を破った

数年前にO2O(Online to Offline)という名称で、ウェブからリアル店舗に顧客を誘導するコンセプトがもてはやされました。各ユーザーに最適化したコミュニケーションができる、顧客を認知形成から購買経験まで一気に誘導できるなどの理由から脚光を浴びたこの考え方。いくつかの成功事例はありますが、マーケティングの常道として型を持つまでには至っていません。

その理由は、「顧客とオンラインになっていること」の難しさにあります。そうでなければ、顧客が企業発信のメッセージを受け取ることができず、コミュニケーションが途切れてしまい、結果としてロケーション誘導が実現しません。そのために企業は顧客のスマートフォンに自社アプリをダウンロードさせ、プッシュ通信のパーミッションを取りたがるわけです。

しかし、そのためには自社アプリ自体のマーケティングが必要になり、オフラインのメディアを大々的に使うことになったりして、一筋縄でいかないことは読者のみなさんもよくご存じの通りです。仮にオンラインの状態を作り出したとしても、定期的に顧客がロケーションを訪れる理由づくり、つまり顧客に発信するコミュニケーションやプロモーションのコンテンツを開発するのにはかなりの労力がかかり、やはり一筋縄ではいきません。

そんななか、マクドナルドはポケモンGOと提携し、自社店舗をポケストップとすることにより、うまくこのO2Oの仕組みを実現しました。

・ポケモンGOはすでに大きなユーザーベースを獲得している
・ポケモンGOユーザーは屋外でアプリを起動している強いインセンティブがある
・ポケモンGOユーザーにはポケストップに出向く強いインセンティブがある

という3つのポイントから、この提携は非常にうまく機能し、マクドナルドの業績回復にひと役買ったであろうことはすでに述べた通りです。

今後この仕組みが機能し続けるためには、いくつかの要件が必要だと思います。

(1)ポケストップ総数のコントロール

マクドナルドのような意図を持った企業が次々に出てくると、街中がポケストップだらけになり、場所としての希少性が持てなくなる。これを回避するために、地域あたりのポケストップ総数はコントロールされる必要がある

(2)ニュース性の継続

マクドナルドの企画が当たったのは、マクドナルドが一番手だったのでニュース性が高かった、という点が大きい。第二・第三のマクドナルドが成功するためには、プラットフォームとしてのポケモンGOとともに何らかのニュース・新規性を発信する必要がある

(3)ユーザーベースの維持

現在の仕様のポケモンGOではゲーム性が薄く、ユーザーを引き付け続ける力が弱いのは前述した通り。ポケストップ=ロケーションに顧客を誘導するにはゲーム性を強化してユーザーの関心を維持する必要がある

(4)デバイスとユーザーインターフェース

現在のスマートフォンのユーザーインターフェースはプレーヤーのゲーム外への注意をそぐので危険。またユーザーにとって重要なほかの機能に割り当てられるべき時間シェアを食ってしまう恐れもあり、このままでは長続きできない可能性がある

このうち(4)については、9月に入って発表された「ポケモンGOプラス」(小さなデバイスの振動機能を通知に使う補助的デバイス)やApple Watchのアプリなどが課題解決するものと期待されます。これらのデバイスにより、オンライン状態を保ったままユーザーをスマホの画面から引き離し、かつリアルタイムで通知をすることが可能になるでしょう。ポケモンGO+補助デバイスの組み合わせはO2Oを実現するプラットフォームとして、上記(1)~(3)を並行して解決することにより筋の良いものに進化していくことが期待されます。

以上、ポケモンGOの今までを、社会現象・マーケティング的な意味の両面から見てみました。ナイアンティックのウェブサイトによると、ポケモンGOはまだまだ過渡的な状況であり、今後もっと進化することが示唆されています。本稿で指摘したようなことが解決され、ユーザーにとってより楽しい場となることを願ってやみません。


富永朋信(とみなが・とものぶ)
プロフェッショナルマーケター。日本コダック(現コダック)、日本コカ・コーラ、ソラーレホテルズアンドリゾーツ、西友などでマーケティング関連の職務を歴任。日本コカ・コーラではiModeでコカ・コーラが買える自販機システム「Cmode」の立ち上げを担当。それ以来、「購買=ブランド選択+チャネル選択」という式の解を模索し続けている。

[日経トレンディネット 2016年9月29日付の記事を再構成]

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