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やり過ぎ厳禁! 「適度な運動量」ってどれくらい? 運動し過ぎは男性ホルモン減らし、死亡率も上昇

日経Gooday

2016/9/26

日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

暑かった夏もようやく終わり、「スポーツの秋」がやって来た。マラソンも依然として人気があるし、一念発起してスポーツクラブに通い始めた人もいるかもしれない。

適度な運動は体にいい。実際、「運動で寿命が延びる」ことは医学的にも確認されている。台湾の国家衛生研究院が41万6175人を平均8年間追跡した調査によると、「毎日15分、中程度の運動(ウォーキングなど)をする人」の死亡率は「まったく運動しない人」より14%低く、平均寿命が約3年長い。さらに1日90分までは、1日の運動時間が15分増えるごとに死亡率が4%ずつ下がっていく(Lancet. 2011 Oct 1;378(9798):1244-53)。

ただし、注意してほしいのは「適度な運動」ということ。運動はやればやるほど体にいいわけではない。この調査でも運動する時間が1日90分を超えた場合、死亡率は変わらなくなった。それどころか、運動のやりすぎは健康を損ねることさえある。

よく知られているのは筋力トレーニングのオーバーワークだろう。筋肉に負荷をかけると、いったん筋肉の細胞が壊れ、回復するときに以前より細胞が増えることで筋肉が太くなっていく。ところが毎日激しい筋トレを続けると、細胞の回復が破壊に追いつかない。その結果、逆に筋肉が細くなってしまうのだ。

■激しい運動で心臓病のリスクが高くなる

「100万人以上の女性を対象にした大規模な調査からも、運動のやりすぎはマイナスになることが分かっています」。そう話すのは、ドクターランナー(事故にそなえて選手と一緒に走る医師)として多くの市民マラソン大会やトライアスロン大会に出場している、よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニック(神奈川県横須賀市)の奥井識仁院長だ。

この調査では約110万人の女性について日々の運動量と健康状況を9年間調べたところ、4万9113人が心臓病を、1万7822人が脳血管疾患を発症した。これらの病気と運動量の関係を調べたところ、台湾の研究と同じく、あるレベルまでは運動量が多くなるほど発症のリスクが低くなっていったが、ウォーキングやサイクリングなどの運動を「毎日欠かさず行う人」は、逆に心臓病や脳血管疾患のリスクが高くなってしまったという(Circulation. 2015 Feb 24;131(8):721-9)。

はたして“適度な運動量”というのはどれくらいなのだろうか?

市民マラソンの世界では、「1ヵ月に走る距離は200キロメートル以内に」と言われている。統計上、1ヵ月に200キロ以上走るとケガの発生率がグッと高まるそうなのだ。

■男性ホルモンの低下は命にかかわる

市民ランナーを診察することが多かった奥井院長は、熱心に練習するランナーにLOH(late-onset hypogonadism)症候群とよく似た症状が見られることに気付いた。

日本語では「加齢男性性腺機能低下症候群」。主に睾丸で分泌されるテストステロン(主要な男性ホルモン)が低下することで、頭痛や不眠、筋肉の減少、骨がもろくなるなど、様々な不調が表れる病気だ。精神面にも大きく影響しており、意欲が衰え、気持ちが沈みがちになってしまう。脳血管疾患、心筋梗塞、がんなど、命にかかわる病気のリスクも高くなるというから、決してバカにできない(Circulation. 2007 Dec 4;116(23);2694-701)。

テストステロンは適度な運動をすると分泌量が増えるのだが、フルマラソンのような激しい運動をした直後にはガクンと減ることが確認されている。

もしかして、ハードな練習によってテストステロンの分泌が低下するのではないか? そう考えた奥井院長は、45~55歳の男性市民ランナー43人について、1ヵ月間の走行距離と血中で遊離しているテストステロンの濃度(遊離テストステロン値)を調べてみた。その結果、「走る距離が100キロくらいまではテストステロンの分泌が増えますが、120キロ辺りから減り始め、200キロを超えると大きく減っていたんです」

■月200キロ以上走る人はトラブルを起こしやすい

月200キロということは、毎日約7キロ走っている計算になる。一般のビジネスパーソンにはリアリティのない数字だと思うが、まめに大会に出ている市民ランナーにとってはそうでもないらしい。実際、奥井院長の調査でも半数以上がそれだけ走っていたという。つい、頑張りすぎてしまう人が少なくないのだ。

この調査では同時に「医療機関の受診日数」も調べたが、200km以上走った人たちは明らかに受診日数が多く、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)や不整脈など循環器系の異常が認められた人も4名いたという。

「中高年の市民ランナーには大会中に突然死する人が多い。テストステロン値が低いと、循環器系疾患による死亡率が高まることが分かっています。ケガをする人が増えるのも、テストステロン値が低くなることと無関係とは思えません」(奥井院長)

血中の遊離テストステロン値が1ミリリットル当たり8.5ピコグラム(1兆分の1グラム)未満になると、LOH症候群と診断される。奥井さんの調査によると、200キロ以上走っていた人たちの遊離テストステロン値は平均3.4ピコグラムで、明らかにLOH症候群ということになる。マラソン大会に出ている場合ではない!

■男性ホルモンが減ってしまうメカニズムは?

では、なぜ適度に走るとテストステロン値が増え、走り過ぎると逆に減ってしまうのか? まだはっきりと証明されたわけではないが、奥井院長は「テストステロンが筋肉で消費されるからではないか」と推測している。

「運動で筋肉が刺激されると大量のテストステロンが分泌され、筋肉に運ばれます。筋肉細胞の男性ホルモン受容体にテストステロンがくっつくと、細胞分裂を促進して筋肉を増やす。この体の働きによって筋肉で使われたテストステロンは消えてなくなる、と考えれば走り過ぎで減ることが納得できます」(奥井院長)

適度な運動によってテストステロンの分泌が高まるが、消費が多すぎると供給が追いつかなくなって減ってしまう。筋トレのオーバーワークの現象にも通じるものがあり、分かりやすい仮説と思える。

なお、筋肉が増えるとテストステロンの分泌量も高くなる。トータルの筋肉量を増やすには、大きな筋肉が多い下半身を鍛える方が効率的。つまり、ジョギングや早歩き(ウォーキング)はテストステロンを増やす効果も大きい運動なのだ。

先の調査を見ると、運動によってテストステロンが増えていくのは月120キロ程度までだった。これを根拠として、「ジョギングや早歩きをする場合、1ヵ月に120キロ程度の運動量がベスト」と奥井院長はアドバイスする。くれぐれもムキにならず、“ほどほどの運動”を習慣にして、男らしい心身をキープしよう!

奥井識仁(おくい ひさひと) よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニック院長。1965年生まれ。東京大学大学院医学研究課程修了。米ハーバード大学臨床医師留学を経て、帝京大学医学部泌尿器科講師、獨協医科大学越谷病院講師などを歴任。2009年から現職。医療法人ウローギネ・ネット理事長。著書に『Dr.奥井式 原始人ダイエット』『人生を変える15分早歩き』(ともにベースボール・マガジン社)など。

(伊藤和弘=フリーランスライター)

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