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「1000の未来予測」から見えること 盛之助社長の川口 盛之助氏 日経BP未来研究所アドバイザー(後編)

2016/9/4

川口氏

特定分野の専門家による英知を結集しても、確からしい未来予測はできない。かといって、専門家集団にジェネラリストを加えただけでも優れた予測チームにはならないだろう。大切なのは、協業の一体感を醸成することだからだ。では、どうするか。2025年までに起きる劇的な変化と未来像をまとめたリポート『メガトレンド2016-2025[全産業編]』(日経BP社)の筆者である川口盛之助氏は、ある手法を思い付いた。

◇   ◇   ◇

前回、未来を予測するうえで重要なのは、専門家によるスペシャリスト的視点だけでなく、ジェネラリスト的視点も備えるべきことを指摘させていただいた。さまざまな領域を視野に収め、そこで起こりつつあるさまざまな変化の「意味」を理解し、何がどのようなメカニズムでどの領域に影響を与えていくか、その結果として何が生まれるかを見通す目を持つことが、未来予測にとって極めて重要だと考えるからである。

では、専門家集団にジェネラリストを加えさえすれば、たちまちいい予測チームができるのか。答えは否だろう。なすべきは分業ではなく協業で、その協業においていかに一体感を高めるかである。ジェネラリストが最低限の専門知識を習得しておくべきなのはもちろんだが、各分野のスペシャリストもあまねく、広い視点で捉えたトレンドについて理解を深め、全員がチームとしての「共通認識」を持っていなければならない。

筆者が著した『メガトレンド』は、この「ジェネラリスト」の視点を提供し、未来予測に関わるチームに「共通認識」を提供することを目的としたものである。ここに示しているのは、各分野におけるトレンドの羅列ではない。領域横断的な視点で抽出した「未来像を決定づけるメガトレンド」である。

この執筆に当たって悩んだのが、先に挙げた一体感の問題である。口でいうのは簡単だが、本当に一体感のあるチームが作れ、そこで理想的に作業を進めることが可能か。それを自らに問うてみたが、どうも「できる」という確信が持てない。

そこで最終的には、それを究極的に実現する方法として「全部1人でやる」ことを決断した。特定の技術や業界に対する思い入れを排除し、「さまざまな分野の動向を調査し、課題と打ち手の関係を整理、人に伝えられるように要約、図式化する」という一連の作業を1人の人間の一つの頭脳内で完結させようとしたのである。

ありとあらゆる未来予測を集め年表に

理屈から言えば、理想的な方法である。だが、それには致命的な欠陥があった。作業量が膨大になり過ぎることだ。

既に該当分野の専門知識をふんだんに持つスタッフが集まって、それぞれ得意な部分を分担すれば、作業はきわめて効率的に進む。それをせず、さまざまな領域の専門知識を一から頭脳に注入し、さらには最近の動きをトレースしていく作業は、まさに地獄だった。 しかもそれは準備運動にすぎない。それらの情報を横断的に見渡すことでメガトレンドという現象を発見し、その本質を理解することこそが目的なのであるから。

実際、すさまじい量の作業と時間をこのリポート作成のために費やした。構想を練り始めたのは2012年のことである。

まずは筆者と日経BP社のスタッフとの間で、未来像描写の作業に対する思考プロセスや押さえるべき要所、具体論としての未来イメージの共有などについて何カ月もかけて議論を重ねた。実際の情報収集、分析の作業に着手できたのは2013年に入ってからである。

そこからほぼ1年間の作業を経て『メガトレンド2014-2023』を完成させた。その執筆過程で、新たに気付くことが多くあった。それを盛り込みたいとの思いから、丸1年を費やして『メガトレンド2015-2024』、さらに1年以上をかけて『メガトレンド2016-2025[全産業編]』を執筆した。

結局、ここまでたどり着くまでに、足掛け5年を要したことになる。

その長い作業を通じて、筆者は一つの「未来予測手法」を編み出せたと信じている。もちろんこれが普遍的かつ最良の手法というわけではないだろう。しかし、現時点において5年先、10年先といった近未来の姿を垣間見る方法としては、かなり有効なものになっているはずだ。

その手順は、未来予測にかかわる主要な著作物、リポート、論文などの文献類を読み込む作業から始まる。筆者の場合、100以上の文献類を読み込み、そこで語られるユニークな示唆を洗い出して整理し、約1000項目のロングリストへと翻訳した。

次に、これら項目のグルーピングを繰り返し、独自の視点を盛り込みつつ最終的には9分類50項目のショートリストへと絞り込んだ。この50の項目については、関連するビジネスの広がりについて網羅的に調べ、関連する「課題」とその「打ち手」の関係性をイシューツリー構造にまとめた。

図1:筆者による未来予測のプロセス (出所:『メガトレンド2016-2025[全産業編]』

並行して、注目すべきビジネス上の動きについては、関連する市場データ、国内外におけるユニークな事例などについても情報を集めた(図1)。

こうして抽出した50項目=メガトレンドは、私たちの思惑や願いとは無関係に、世の中全体に加わる圧力である。私たち、そして企業や自治体などあらゆる組織は、メガトレンドがもたらす変化に対し、これから知恵と工夫を凝らして手を打っていく必要に迫られることになるのだ。

呼応する社会課題と科学技術

時系列的かつ具体的な予測の起点としたのは、独自に作成した「未来年表」である(図2)。ネットを活用して検索すると、未来予測のみならず、既定の施策やプロジェクトなど、未来の動向を左右するさまざまな情報を入手することができる。

それらの中から特に「20XX年に何が起きる」といった、時期が明確に示された事項を集め、それら時系列で並べることによって分野ごと(テクノロジー、経済、政治、軍事など)の未来ロードマップを帰納的に作り上げたのだ。

図2:20XX年、テクノロジー関連の未来ロードマップ (出所:『メガトレンド2016-2025[全産業編]』

それらの情報の出所は、企業のプレスリリースや政府・官公庁の計画書、著名人(政治家から科学者まで)のステートメントなどである。さまざまな媒体に記事などのコンテンツとして掲載されているもので、文部科学省などが公表する未来予測関連の報告書や、新聞、ビジネス専門誌による未来予測に関する特集記事などを含む。これらの、時期を明確にした「未来に関する情報」約1万6000件を収集し、その中から特に重要と思われる約1000件の情報を選び出した。

こうして得られた「1000の未来予測」をいくつかのカテゴリに分類して時系列に並べ、さらに主観的判断によって取捨選択、統合し集約すると、一覧性の高い「未来年表」が作成できる。

実際に、この完成した年表を概観することで、いくつもの発見が得られた。たとえが、同時期に、テクノロジーが拓く「明るい未来」と社会の永続性(サスティナビリティ)や高齢化などに関連する「暗い未来」が混在しているということだ。

テクノロジーの進展に関しては、遠い未来になるほど楽観的になる傾向が強まる。2045年ごろには、夢のようなSF的技術が軒並み実用化されることになっていて、ロボットと人工知能は高度に発達しており、人が担ってきた「労働」のかなりの部分が機械に代替されている。

一方で、2035年ごろから先進諸国は強烈な高齢化負担にさいなまれ、医療保険や年金の財源問題に始まり、ついには国家財政が立ち行かなくなっていく。新興国においても、韓国、台湾、シンガポール、香港などはほとんど時間差なく高齢化問題に悩まされ、十分な経済成長を遂げる前に地盤沈下していく。

こうした深刻な「社会課題」と、科学技術に立脚した「打ち手」の進化との間には、密接な関係があり、現実的には楽観と悲観の中間で物事は進んでいくことになるだろう。そういう意味では、個々の予測に目を奪われるべきではないのかもしれない。重要なのは、未来に向かう全体の大きな流れを把握し、網羅性を担保したうえで「メガトレンド」を見つけ出すことだ。産業の変化も技術の変化も、すべてはその「メガトレンド」に極めて強く影響されながら変化していくものだからである。

川口盛之助氏(かわぐち・もりのすけ)
1984年慶應義塾大工学部卒、イリノイ大学修士課程修了(化学専攻)。 技術とイノベーションの育成に関するエキスパート。著作「オタクで女の子な国のモノづくり」は、技術と経営を結ぶ良書に与えられる「日経BizTech図書賞」を受賞し、英語、韓国語、中国語、タイ語にも翻訳される。

[日経テクノロジーオンライン 2016年3月11日掲載]

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