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東京と地方の格差 言い訳にすれば「負け」 ジャパネットたかた前社長 高田明氏(4)

2016/9/7

ジャパネットたかた前社長の高田明氏。テレビ通販王国を一代で築き、お茶の間でも人気者となった。社長引退後は、「伝える力」の伝道師として全国を飛び回るが、拠点は今なお長崎県佐世保市。「東京でなければビジネスができないという発想は理解できない」と語る。

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前回の東京進出の話の時に触れませんでしたが、誤解していただきたくないのは、私は東京がいいと考えているわけでないということです。東京と地方はよく対比されて「東京一極集中」の問題点が語られますが、私は中央、地方といった感覚は全くありません。「格差社会」というのは実際に世の中に存在するのでしょうけど、僕の意識の中にはないのです。格差という言葉を口にした時点で、自分が「負け」を認めたに等しいと思うからです。

■場所ではなく、変化の芽をいかにつかまえるか

ジャパネットたかた前社長 高田明氏

そうした前向きな思考ができるのはグローバル化時代でビジネスの環境が劇的に変わってきたからです。交流サイト(SNS)の普及や通信技術の発達により、地理的なハードルは急速に下がっています。例えばスマートフォン(スマホ)があれば、ヨーロッパでもブラジルでも今、そこにいるかのように現地の人と動画でコミュニケーションできる時代です。情報伝達が速く、国境を超えた人の往来も激しくなってきた。ビジネスに必要なインフラは世界中どこにいても手に入れられるようになっている。この場所でやらなければならないといった制約を感じることは少なくなっています。

ですから、東京を本社にしなければビジネスができないとか、東京でなければならないかといった必然性を見つけることが私にはできません。地元で働いておいしいモノを食べて空気がきれいなところで仲間に囲まれて生きる。これが人間にとって、とても大事であって、それは長崎の佐世保だろうが青森であろうが、沖縄であろうがどこでも当てはまるはずです。東京にしがみつかないと生活できない、ビジネスができないといった発想は理解できない。

もちろん業態にもよります。店舗で商品を売るから人がいる地域でないと商売がそもそも成り立たないといった業種はあります。しかし我々のような通販業者は拠点がどこでも構わない。佐世保からでも海外に情報発信することができます。だから「格差だ、格差だ」と言い訳ばかりしていたら、そこで自分が逃げていることになるわけです。

時代はそんな風に変わっているし、商品も時代の変化とともにどんどん変化していきます。場所ではないのです。あとは、変化の芽をいかにつかまえるか。そのシグナルをいかに早くキャッチするか。これが経営者には絶対大事だと思います。1つの変化から10を読み取る力がこれからの経営者には必要です。その変化に立ちおくれた時にその会社は取り返しのつかない事態を招くでしょう。

通販だと発信するばかりで、なかなかカメラの向こうにいる視聴者の顔が見えないと言われますが、全く逆です。実はお客様の顔が一番見えているのが通販なのです。顧客対応の応答窓口でお客様と会話し、「生(なま)」の声が聞こえるじゃないですか。電話でも消費者の顔が見えるのです。店頭は相対して商品を売っても買っていただいた人の名前も残っていないことがほとんどですが、通販は住所も名前も残るし、お客様の要望などのご意見も残せる仕組みがあります。

■店舗以上に顧客一人ひとりの顔が見える通販

北海道から沖縄まで、全国津々浦々のお客様の情報をジャパネットは持っています。ジャパネットはラジオ、テレビ、インターネット、チラシ、カタログ、新聞と様々なチャネルを通じて訴えるメディアミックス戦略をとっていますから、毎日たくさんの声が入ってくる。ビッグデータとはいかなくても、そういう意見を集計して見ていくことによって、お客様が今、何を感じているかということがダイレクトに感じられるわけです。だから店舗以上にお客様一人ひとりの顔が見えるのです。

商品にリコールが出た時でも店頭売りだと購入者の名前が分からないから回収にものすごい労力と時間がかかります。通販は一気に回収できます。人命人身に関わるような急を要する回収で力を発揮します。店頭売りだと、CMなど告知して購入者が反応してくれないと、話が進まない。通販はその意味で購入した後でも消費者にとって利便があるのです。まさしくダイレクトマーケティングです。そこは変化の芽をつかむ機会でもあるのです。

ジャパネットのコールセンターには買うときの問い合わせから商品を届けた後の問い合わせまで1日数万件の電話がかかってきます。それを集計して個々の部署で次の改善につなげます。物流センターはそうした声を反映して配送の効率化に役立てるし、コールセンターは商品開発部門にフィードバックして、何か重大なことがあればメーカーにもフィードバックします。これはメーカーにも喜ばれ、すぐ修正していただいています。今の商品は昔と違って商品のサイクル(寿命、開発期間)が非常に速くなっている。その分、メーカーの品質管理やテストに過大な負荷がかかっています。そういう意味で、通販会社が商品に関するお客様の声をフィードバックして共有するというのはメーカーにとってもいいわけです。

メーカーと販売店と消費者がつながって、モノ作りとかモノの売り方を考えて品質を日々高めていくという役割を果たせるのは、通販ならではの利点だと思いますね。ジャパネットはそこをこれからも大事にしていかねばならないと思います。販売から売った後のアフターケアまできっちりやることが企業のブランド力につながるのだと思います。

■「人治」ではなく「集合天才」によるイノベーション

私のバトンを引き継いだ現社長の高田旭人はそこをやろうとしているのだと思います。彼は持ち株会社をつくり、番組制作会社(ジャパネットたかた)、物流会社、コールセンター会社、機器設置会社など7つの事業子会社をぶら下げた経営構造にしました。私は販売、売ることに集中してきました。私ができていなかった部分をどう補完するかに新体制は知恵を絞っている。「人治」ではなく、組織をちゃんとつくるということです。私は一人で引っ張っていくタイプの経営者でした。旭人社長はトップ一人ではなく、皆の力、集団の力で私の代わりをしようという「集合天才」という標語を掲げています。

「集合天才」とは米国で生まれた経営理論で、一人の天才に頼らず、組織の各人の才能を集めることで良い結果を出そうという考え方です。そのリーダーに求められるのは、ビジョンを示してそれに向け社員を鼓舞するカリスマ型の資質ではなく、イノベーション(革新)を組織が内発的に起こす舞台を用意する役割だとされています。ジャパネットは昨年まで高田明が引っ張ってきました。同じ役回りを他の人間が急には果たせない。そこで皆で力を合わせて会社を高めていくというわけです。組織力を高めるために、企業統治(コーポレートガバナンス)改革を進めているのが今の体制だと言えます。

これまでのようにトップが指示をしてみんなついて来いというだけでは、社員を支える体制として不十分だから、「人」に関わることに投資しています。社員が創造性にあふれ、生き生きと働く環境をつくっていくために社員食堂をつくってみたり、託児所をつくってみたり、社用の携帯電話を全てスマホに切り替えたり、固定のデスクを全て取っ払って思い思いの場所で作業する「フリーアドレス」のオフィスにしてみたり。「企業は人なり」と言われます。ジャパネットが今進めているのはまさに組織の強化と人材の育成です。

新経営陣のこれらの取り組みを見ても、私は完全引退してよかったと思っています。完全引退ですからジャパネットに席もポスト(地位)もないんです。なぜなら私が社内で何らかの会長や相談役などのポストに就いて残っていたら、社員は私にお伺いを立てて自分で考えようとしないかもしれません。2015年1月に引退してから私は1回も社内の会議には出ていません。それが、残った者たちが必死に頑張ることにつながるのだと思います。そこからどんな風にジャパネットが変化していくのか、これからの将来を私は楽しみにしています。

高田明(たかた・あきら)
1971年大阪経済大経卒。機械メーカーを経て、74年実家が経営するカメラ店に入社。86年にジャパネットたかたの前身の「たかた」を設立し社長。99年現社名に変更。長崎県出身。67歳

(シニア・エディター 木ノ内敏久)

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