時短orフルタイム 育児社員、キャリアアップの道は?
仕事と育児を両立するための「短時間勤務」。女性の就労継続を支えるものだが、長期化するとキャリアに影響がでるとして、早めのフルタイム転換を働きかける企業が出てきた。一方で、時短勤務の社員に責任ある仕事を与え、活躍を促す企業も。それぞれの取り組みを取材した。
時短のままで管理職

「勤務時間を延ばして、成果に違いがでるのか疑問。むしろ短時間で効率的にアウトプットを出したい」。カルビーのフルグラ事業部企画部部長の網干弓子さん(42)は、4歳の子を持つワーキングマザー。2012年10月に育児休業から復帰して以来ずっと、9時~16時の短時間勤務を利用する。
野菜系スナックの開発担当が長かったが、復帰後、シリアルブランド「フルグラ」のマーケティング担当に。1年半で課長に抜てきされた。順調に売り上げを伸ばし今年4月、部長に就任した。いずれのタイミングでも「フルタイムに戻そうとは考えなかった」と話す。「短い時間で成果を上げるのがいいという風土。会社もそういうことは望んでいないと思った」
仕事の効率・成果、重視
13年には時短勤務の執行役員も誕生した同社。女性管理職の33%がワーキングマザーで、時短勤務が可能な女性管理職の半分が利用。効率的な働き方が浸透し、時間ではなく成果で評価する仕組みがあるからだ。「時短勤務であることが昇進や評価にネガティブに働くことは一切ない」とダイバーシティ委員会の新谷英子委員長は話す。
意欲あればマネジャー
高島屋は15年から育児のため勤務時間や日数を減らす「育児勤務制度」を利用する社員をマネジャーに登用し始めた。現在は7人の時短の女性がマネジャーとして活躍。「短時間勤務でも意欲があれば登用する会社の姿勢と、時間制約があってもマネジャーとして活躍できることを示したい」と人事部の三浦剛人事政策担当次長は話す。
横浜店でショップマネジャーを務める早田真衣子さん(38)もその1人だ。13年春に2人目の育休から復帰。9時45分~15時半の時短勤務で販売員をしていたが昨年9月、新設のデニム売り場のマネジャーに抜てき。「売り場にいる時間が短い自分に務まるのか」と不安だったが、「ずっと同じ仕事のままでいいのかという気持ちもあった」。上司や周囲のマネジャーから「フォローするから」と背中を押された。
限られた時間で業務をこなすため、優先順位付けを徹底する。部下との面談には時間を取り、一人ひとりとじっくり向き合う。「短時間勤務でも登用してくれた会社に感謝している。いい売り場をつくり、貢献したい」
早くフルタイム復帰
「いつまで時短で働き、いつフルタイムに戻すかを社員自身に考えてもらうことが大切」。日産自動車ダイバーシティディベロップメントオフィスの小林千恵室長はこう強調する。同社では子どもが12歳まで短時間勤務制度を利用できる。育児でキャリアが中断しないよう充実させた制度だが、一方で「キャリアへの影響を考えずに長期間、時短を続ける人も少なくなかった」。
出産前から復帰後のキャリアについて考えてもらうため、産休前の女性社員向けに「プレママセミナー」を2013年から実施する。復帰後のキャリア計画を書き、上司と共有。復職後のセミナーでも計画を見直す。
日本市場情報部の土田まり子さん(34)は15年10月、現部署への異動を機に2年半の時短勤務からフルタイムに切り替えた。希望していたマーケティングの仕事で、フレックスタイムを使い活躍する。「海外部門の仕事にも挑戦したい」とキャリアを思い描く。
時短時間、自分で計画
社員の約半数が女性の三菱東京UFJ銀行。「辞めずに働き続けるための支援」から「早く復職して仕事と育児を両立する人を支援する」へと打ち出すメッセージを変えたのは2年前だ。勤務時間をずらせる「遅出早退制度」など、フルタイムへの復帰を支える制度を取りそろえる。以前は3歳以上の子どもがいる女性の60%以上が時短だったが、今は約44%まで減り、早期にフルタイムに戻す人が増えたという。
時短は子どもが小学校3年まで利用できるが、年1回、人事や上司が面談する。大倉山支店お客さま相談課長の猪俣祐子さん(38)は「面談でフルタイム復帰を助言されなければ、もっと長く時短で働いていた」と明かす。2回の育休後、5年の時短勤務を経て13年10月にフルタイム復帰。自宅近くの勤務地に異動するなど環境を整えた。
在宅勤務導入し支援
10年前から女性採用を増やしてきたダイキン工業は、14年度に育児中の社員を対象に在宅勤務を試験的に実施し、今年から制度化。「時短からフルタイムに転換しようか迷っている人の背中を押す」と人事本部の今西亜裕美さん(41)。自身も2人の子育てと仕事を両立してきた。「時短の期間が長いと仕事に制約が出がち。育児をキャリアのブレーキにしないために、早期のフルタイム復帰を支援していく」

「期限まで」より「いつまで」
育児・介護休業法は、3歳未満の子を養育する社員が申し出た場合、1日6時間の短時間勤務とすることを事業主に義務付ける。企業によっては、利用可能期間を長くするケースも少なくない。
仕事と育児を両立させる制度は重要だが「短時間勤務の長期化がキャリアに与える影響や、夫婦間の家事・育児役割の固定化を考慮することなく、期限まで使うのが当たり前という女性は少なくない」と法政大学の武石恵美子教授。「自分が必要な範囲で使うという意識を持つことが重要」と指摘する。
慢性化する長時間労働が、育児中の女性のフルタイム復帰や活躍を妨げている現実もある。さらに海外に比べ日本では、「短時間勤務が育児中の働き方として重視されすぎている」。在宅勤務やフレックスタイム制度などの柔軟な働き方が浸透すれば、フルタイムでの両立もしやすくなる。
一方、短時間勤務者を管理職に登用するには、長い時間職場にいないとマネジメントできないという固定観念と、従来の働き方を変える必要がある。管理職が果たすべき役割の明確化も重要だ。
(女性面編集長・佐藤珠希、光井友理)
〔日本経済新聞朝刊2016年7月16日付〕
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