何でも数えるクセが止まりません
俳優、片桐はいり
自分が無意識にやってしまうことが、気になる。なぜ、自分がそうするのかがわからないから、やめようにもやめられない。だったらこんな方法はいかがでしょう。意識的に数えてみる。しかも徹底的に。
私の経験からいえば、無意識にやってしまうことをやめるには、心から「もう嫌だ」と思うまでやるのがよい気がします。仕事にしちゃうとか。人間、好きなことを仕事にすると、たいてい嫌になりませんか(笑)。
たとえば、交通量調査のアルバイトをしてみるのはどうでしょう。街のある地点を通る人や自動車を数えるお仕事。経験した人の話では、丸一日、インジケーターを押し続ける仕事で「最初こそ数を気にしているが、そのうちどうでもよくなる」とか。歩くのがお好きなら、近所の階段や段差をひたすら数えてみるのもいいかもしれません。その数を記録して、インターネットなどで公開すれば、段差が少ないルートを探したい人たちの生活に役立ちそうです。そのうち、あちこちの街から「数えてくれ」とお願いされるようになるかもしれない。そしたら、特技を生かして人に役立つ充実感も味わえる。数えすぎて「もういい」と心の底から感じたら、すっきりやめられる。どっちに転んでも損はない気がします。
それにしても、数えることに悩む質問者さんには、集中して物事に取り組む懸命さを感じます。だって、数えるのは簡単なことではありませんから。私は時折、映画館でチケットのもぎりをやっているのですが、終わった後にもぎった半券を数えるのが苦手。どんなに頑張って数えても、途中で誰かに話しかけられたり、大きな音がたったりしたら、すぐわからなくなってしまいます。落語の「時そば」なら簡単にだまされるタイプ。
そのくせ自宅で1人でぼーっとしている時、なぜか時計の秒針の音に合わせて「1、2……」と数えている自分に気づくことがあります。これを私はスキマ恐怖症と名付けています。常に何か考えてないと気がすまないとか、貧乏性の一種ですね(笑)。でも、妙なものをなぜか数えてしまう人って、きっと大勢いるにちがいありません。
そもそも「数を数える」という行為じたいが不思議。数えれば数えるほど、無限に近づいていく。残りゼロにひたすら近づく行為ともいえます。もしかして無の境地に向かおうとしているのかもしれません。
あなたにその必要がなければ、「私が何かに集中していると感じたら『今なんどきだい?』と声をかけて、現実に引き戻してほしい」と、家族や友人に頼んでおくのもよいかもしれません。(談)
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[日経プラスワン2016年5月28日付]
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