40代童顔は信用されない? 「人はギャップに弱い」
石田衣良
以前ある女優さんと対談したときのこと。新作映画の公開を続々と控えた人気者で、新時代の美女として名高い人でした。光の強い目が印象的で、多くの若い女性がその目を憧れとしているのです。
「あなたは目が魅力的だといつもいわれてますよね」
「いえ、ずっとこの目がコンプレックスなんです。自分では弱い目だと思います」
しばらく絶句。この目がダメなら、もう全員アウトじゃないか。でもコンプレックスってそういうものですよね。強さは弱さで、弱さが強さ。なんだかシェークスピアの台詞みたいになりましたが、そろそろ本題にいきましょう。
相談者は40代後半で30代なかばに見える。小柄で迫力もないから、ビジネスの場ではつい軽く見られているようで気になってしまう。結論からいくと、ビジネスはオーディションのような一回勝負ではありません。外見だけで判断されることはないのです。真の実力を発揮するチャンスは何度も回ってくる。
だとしたら、あなたの若さや小動物のような可愛さはたいへんな武器になるのではありませんか。こんなにチャーミングな人が仕事もばりばりに優秀。人は外見と中身のギャップに弱いものです。最初の過小評価が大逆転という構図は、実に描きやすいはずです。
世は就職活動を有利に運ぶためプチ整形する学生(男女とも!)がめずらしくない時代です。外見優先でイケメンや美女ばかり得をする。裏返せば顔の造り程度しか他人に注意を払わない淋しい時代なのです。誰もが厳しいグローバルな北風のなか、我が身の生き残りに必死ですからね。
古くさいようですが、そういう時代こそ顔やスタイルといった瞬間的な材料だけでなく、人柄や知識やセンスをちゃんと見ていきましょう。遠回りのようで人を判断するとき一番確実な近道になりますよ。
ところで最初から気になっていたのだけど、この人実は15歳若く見えるということを、それとなく自慢したくて、こんな相談を送ってきたんじゃないのかな。若き日には幼いルックスで合コンなんかでは、さぞ男たちにもてたに違いない。
でもね、その手の神通力は永続しないもの。昔のように15歳若く見えると自分で思っていても、周囲はせいぜい4~5歳くらいだよと冷静に考えているかもしれないのだ。そろそろ正確なルックス年齢を再調査してみてくださいね。
◆
石田さんと湯山玲子さん(著述家)、片桐はいりさん(俳優)、中園ミホさん(脚本家)が、みなさんの悩みに答えます。
◇ ◇ ◇
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。