持つ喜びを与えてくれる1万円以上の万年筆3選
持った感触が気持ちいい革巻万年筆「シープ」
軸に革を巻いた万年筆はときどき見かけるが、中でも品質と握り心地、書き味などの総合的なバランスに優れているのが、プラチナ万年筆の「プラチナ・シープ 美巧」だろう。革巻なのに細身で女性にも使えるスマートなデザインは、握った感じは素晴らしいけれど、見た目が野暮ったいという革巻特有の欠点を払拭している。
革は名前の通り、シープ(羊革)を使用。紙に触れた瞬間にインクがスッと出て、そのまま紙の上を滑らせるだけでしっかりした線が書ける。ペン先は金(14K)で、万年筆本来のタッチが長く味わえる。
かなり細い軸なのだけど、インクはカートリッジ、コンバーターの両用だからボトルインクも使える。革巻の万年筆を昭和41年から作り続けてきた技術の積み重ねが感じられる軸の加工は見事。継ぎ目がほとんど見えず、円筒状ではないわずかに湾曲した軸にきっちりと革が巻かれていて小物としてのクオリティーも高い。
革巻で、金のペン先で、コンバーターが使えて1万円という価格も見事としか言いようがない。色は、写真のライトキャメルの他に、ブルー、ブラック、レッドがある。老若男女を問わず似合うペンなので、自分用にもギフト用にも使える。
透けて見えるのがカッコいい「カスタムヘリテイジ92」
パイロットの「カスタムヘリテイジ92」は、1万5000円という低価格ながら、本体にインク吸入機構を内蔵する。1.2mlのインクを本体に吸入できるようになっている。通常のコンバーターが0.5~0.7mlなので、その2倍程度、インクを足さずに使うことができるというわけだ。またコンバーターに比べて密閉性が高いうえ、インクが詰まりにくく乾きにくく、インクフロー(インク供給の勢い)も良い。
ペン先は、金(14K)を使用。柔らかくしなるので、文字の強弱がとてもつけやすい。ペン先をF(細字)、FM(中細字)、M(中字)、B(太字)から選べるのもうれしい。しかも、インク吸入機構内蔵を強調する意味があるのか、いずれも透明軸になっているから、インクの残量がすぐ分かる。軸の色は、インクの色がはっきり分かるノンカラーと、半透明で色は分からないけれどインクの残量が分かる透明ブラック、透明ブルー、透明オレンジがそろう。透明軸の中に吸引メカニズムが透けて見えるのもカッコいい。デザインも含めて欠点が見当たらない名作だ。
完璧で個性的な「シンフォニー・アダージオ」
国産の万年筆は、その書きやすさや耐久性、初期不良の少なさ、品質のバラつきの小ささ、インクフローの良さとペン先の完成度の高さ、さらにコストパフォーマンスと、どれをとっても海外製の万年筆に引けを取らない。それどころか、上を行くのだけれど、万年筆としての主張が弱いというか、見た目のインパクトに欠ける製品が多い。
派手な軸ばかりになっても困るのだけれど、たまには、思わず眺めてしまうような軸や、こんなに?と思うくらい太いなどの個性が強い軸が欲しくなる。デルタの「ドルチェヴィータ」の鮮やかなオレンジや、パーカーの「ビッグレッド」の渋い朱色、ビスコンティの「ヴァン・ゴッホ」の深く透明感のある色彩……。
輸入筆記具の通販会社ペンハウスのオリジナルブランド、ペントの「シンフォニー・アダージオ」は、そういう個性的な軸への渇望を満たしてくれる万年筆だ。
細部の発色や柄にこだわって、細かく指定して作らせたというレジン製の軸は、デルタやビスコンティのレジンに引けを取らない見事さ。軸もキャップも太めで、ペン先もしっかり大きく、風格さえ漂う万年筆に仕上がっているのだ。ペン先はドイツのシュミット社製。大振りのペン先はゆったりと書くのに向いた滑らかな書き味のもの。
写真は、「樹冠を奏でる詩人の森~FOREST~」という軸で、こんな風に多色のレジンを組み合わせて作られた軸はなかなかないのだ。他にも、まばゆいオレンジが印象的な「想い出を綴る陽光~Sunlight~」、深いコバルトブルーと藍色のコンビネーションの「沈思する寂静の夜~Night~」など、印象的な軸がそろう。個性的ゆえに、ギフトというより自分に合ったデザインの一本を選んで使いたい。
(ライター 納富廉邦)
[日経トレンディネット 2016年4月14日付の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。