営業女子、業種を超えて結束 「男」の世界に風穴
6月上旬。日産自動車、リクルートホールディングス、サントリーホールディングス、キリン、日本IBM、KDDI、三井住友銀行の各社から20~30代の営業職女性約30人が神奈川県内の研修施設に集まった。7社がはじめたプロジェクト「新世代エイジョ(営業女子)カレッジ」だ。
女性活用を進めてきた企業でも課題が残るのが営業だ。女性幹部を増やすには、現場を知る営業出身者を育てたい。「女性の営業のほうがしっかり話を聞いてニーズに応えてくれるという顧客の声もある」(ダイバーシティ担当者)。ただ、営業は体力勝負の文化で、上司が遠慮して女性部下を鍛え損ねている場合もある。課題に業界横断的に取り組もうと7社で企画した。
「営業で女性が活躍するための提言」をまとめ、11月に各社の営業担当役員らに報告する。混合チームでアイデアを練る。
営業女性「営業職のマネジャーの3割が女性になることを目指します」
講師「達成すると何がどう変わる? マネジャーである理由は? 3割という設定は適切?」
各グループのプレゼンに対して、講師の経営コンサルタント、佐々木裕子さんが矢継ぎ早に質問を飛ばす。「提言を考える過程で参加者の意識が変わる」と佐々木さん。そもそも管理職に興味がある女性は少ない。「意識が低いのはなぜか、環境要因を変えることも必要。ただの権利主張ではなく本質的な議論で経営陣を説得できれば」
参加している日本IBMの立花恵美さん(33)は普段、製造業向けの営業を担当。「同世代の同じ営業職で集まり、キャリアに向き合ういい機会」と話す。
「まだまだ営業は『ザ・男性』の世界。ライフイベントがあっても続けているか不安を抱える方は多いと思います」。7月19日、営業職女性コミュニティー「営業部女子課」の「夏の女子会2014TOKYO」。主催者の人材組織コンサルタント、太田彩子さんの挨拶に参加者が相づちを打った。2009年に始め、夏の女子会は4回目。80人の女性が悩みを共有した。
旅行会社営業の多々良真子さん(26)は「今は数字の達成に喜びを感じる。いずれ子どももほしいけれど、百%の力を仕事に割けなくなったらモヤモヤしそう」と打ち明けた。他の女性から「打ち合わせはITツールを使えば時間の節約になる」「私は子どもができたら親やベビーシッターに頼む」などの意見が出た。
太田さんは「ここ数年で営業女性は増えているが、出産で辞めたり内勤に移ったりするケースが多い」と話す。結果的に営業の現場は上司、同僚、顧客の大半が男性。「仲間がいると知るだけで励ましになる」
ただ、女性側の自己啓発だけでは不十分。「働き方を変える必要がある。テレワークを活用するとか早く帰れる担当にしてもらうなど、効率よく結果を出しながらホスピタリティーを発揮できるといい」と話す。
育児をしながら管理職を目指す女性も出てきている。7月25日、ジョンソン・エンド・ジョンソンは京都で営業職女性を対象に、理想のマネジャー像を話し合うイベントを開催した。パネリストとして参加した金子裕美さん(38)は病院向けの手術用機器の営業担当。タブレットやパソコンを持ち歩き、直行直帰で時間を節約。通常19時には学童保育と保育園にいる2人の娘を迎えに行く。
以前は医局前でいつ通るかわからない医師を待つことも多かったが「確実に先生に会える場所を選び、オンとオフを切り替えられるようになった」。1人目の出産後は担当地域が狭くなったが、実績を出し他の人と遜色ない担当に戻った。後輩女性からは「そんな働き方をしている人がいるとは」と感想が漏れた。
社内調査で管理職になりたい男性は8割なのに対し、女性は28%。特に営業では子どものいる女性マネジャーは近年おらず、金子さんも「部下を持てるのかは不安」と話す。ただ「子どもを相手にしていると、仕事で多少嫌なことを言われても言葉が通じるだけいいと思える」。さらに「コミュニケーション能力など、女性こそ管理職に向いている面もある」と感じている。
同社の女性活躍推進プロジェクト代表の向井陽美さんは「旧来型の男性のやり方を踏襲する必要はない。管理職の働き方も多様化していけば」と話す。営業職での女性の活躍はこれからが正念場だ。(井上円佳)
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