少年ナイフ結成35周年 舞台は世界、根っこは大阪
音楽大好き、走るしか
「世界で最も有名な日本のバンド」。そう称されるガールズバンドが結成35周年を迎えた。毎年英国や米国などに出向き、ライブハウスをいっぱいにする。「日本より海外ツアーの方が多い。でもうちらは大阪のバンド」。引っ張ってきたボーカル・ギターのなおこ(写真(左))は自然体を貫く。
「綿あめの雲が空に浮かんでる」。3月に出た新作アルバム「アドベンチャーでぶっとばせ!」に収める「Cotton Candy Clouds」は子供が口ずさむようなかわいらしい詞を英語で歌った。ずしりと重いビートに乗せてラップが弾む。「全曲英語だからいつにも増して韻を踏むのにこだわった。聴いてきた洋楽がそうだったから」となおこ。
ギター、ベース、ドラムのシンプルな編成。歌とコーラスは明るくユーモアたっぷりだが、ちくりと刺す毒も。米国のラモーンズ譲りの軽快なポップパンクをトレードマークにしてきた。新作は1970年代のハードロックやヘビーメタル、黒人音楽に影響された60年代のブリティッシュビートも取り入れ、いまなお進化を続ける。
作詞作曲を担うなおこは「以前は3つのコード(和音)で成り立っている曲も多かったけれど、今回は5つ以上使った曲が多い。構成もAメロ、Bメロ、サビに加えてブリッジ(中間部の異なるメロディー)も入れ、バラエティーを増した」と明かす。昨年公演したオーストラリア・ブリスベンの動物園で見た光景を描いた「Tasmanian Devil」はメーンボーカルをなおことベースのあつこが交互に受け持つ。初めての試みだ。
若いドラマーも新風を吹き込む。昨年7月に加入したりさ(写真(右))は初録音。大分で父、妹と組んでいたバンドがナイフと共演したのが縁でなおこの目に留まった。米国のシステム・オブ・ア・ダウンなどハードロック系のバンドが好きというりさ。爆音ビートをたたき出し「練習の時は耳が痛くなる」となおこは笑う。
20代のりさは「家族そろって大分から大阪までライブを見に来ていた」ほど筋金入りのファン。大阪のスタジオで3人仲良く出前のうどんをすすりながら録音した。りさは「憧れのバンドで演奏しているなんて夢みたい」と目を輝かせる。
現在、英国とアイルランドを回るツアーの真っ最中。1カ月で23公演の強行軍だ。11人乗りのワゴン車をレンタルし、現地マネジャーとメンバーで各地を回る。なおこは「移動に10時間以上かかる時もあってこたえるけど、昔からのファンが子連れでライブに来てくれる。なじみのプロモーター(興行会社)がずっと呼んでくれるし、走り続けるしかない」。日本では6月24日から東京、大阪など7公演を開催する。
「中学生の時のビートルズから始まってずっと洋楽が好き。だから洋楽に影響された音楽を楽しんで演奏してきた」と強調するなおこ。「パンクもロックも音楽のスタイルというより態度、姿勢だと思う」ときっぱり。好きなものをとことん突き詰め、楽しむ姿勢がファンにも伝わるのだろう。「一番大切なのはお客さんが喜んでくれること」と表情を引き締めた。
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ビッグスターと親交
世界への扉を開いたのは偶然だった。米国のバンド、ビート・ハプニングのメンバーでレーベルも主宰するカルバン・ジョンソンが84年の来日時にたまたま購入したレコードを気に入り「米国でレコードを出さないか」と申し出る。
米国のロックファンの間で人気が広がり、91年には4カ所で公演した。彼女たちを見初め、世界に名を広めたのはカート・コバーン。当時世界で最も影響力のあるバンドになりつつあったニルヴァーナを率いたカリスマだ。英国ツアーの前座に抜てきする。「私たちの楽屋にストーブが無かったので、暖かい自分たちの楽屋に招き入れ、サンドイッチにピーナツバターとジャムを塗ってくれた。優しく純粋な人だった」となおこは27歳で早世した故人をしのぶ。
昨年12月に亡くなったモーターヘッドのレミー・キルミスターら親交を結んだビッグスターは多い。2010年にはガールズパンクの草分け、英国のレインコーツの初来日公演で共演を果たした。
(大阪・文化担当 多田明)
[日本経済新聞夕刊2016年4月6日付]
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