長引く空ぜき、眠れない…せきぜんそく、潜む危険放置すると重症化も

夜になるとせき込んで眠れない日が続き不安になる人が増えている。ひょっとすると「せきぜんそく」と呼ぶ聞き慣れない病気かもしれない。治療を受けないと、本格的なぜんそくに進む可能性があるので、早めに専門医を受診し、治療を受けることが大切だ。花粉症などアレルギー患者が増えていることも、せきぜんそくの増加につながっているという。

都内在住のある男性(55)は、夜寝るときに、空ぜきがずっと続いてなかなか寝付けなかった。市販のせき止めを飲んでも治らない。「肺がんか何か悪い病気では」と不安がよぎり、呼吸器アレルギーの専門医がいる病院を受診した。

「せきぜんそくの可能性が高いですね。これを服用してみてください」と言って、処方されたのが吸入ステロイド薬だった。数日使ってみたところ、あんなにしつこかったせきがうそのように止まった。

男性は子どもの頃に小児ぜんそくを患ったことがある。大人になると治ると聞いていたので、「せきぜんそくと聞いて驚いた」と話す。

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日本呼吸器学会では、小児ぜんそくの既往歴がある人はせきぜんそくと診断しないことにしているが、せきぜんそくの人には、小児ぜんそくだった人も少なくないという。小児ぜんそくの約4~7割はよくなるが、2~3割程度がぜんそくを再発するとされている。

せきぜんそくにかかるのは平均すると40~50歳代が多いが、70歳以上の高齢者を含めすべての年齢層で発症するという。ただ、乳幼児には、多くないとされている。成人では4対6くらいの割合で、女性に多いという。

通常のぜんそくは空気の通り道である気道に炎症が起きて狭くなり、呼吸をするときにヒューヒュー、ゼーゼーという喘鳴(ぜんめい)と呼ばれる音が出たり、呼吸困難になったりする。

せきぜんそくのせきも、気道に炎症が生じて起きる。夜間から明け方に悪化することが多い。喘鳴や呼吸困難になったりすることはないが、就寝後にせき込んで、しばしば目を覚ますなどぜんそくとの共通点もある。

夜間にせきがひどくなるのは、昼間に活発に働いている交感神経の活動が、夜になると弱まり、逆に副交感神経の働きが強くなって、気道を締め付けるからだ。気道表面の細胞にあるせきの“探知機”である受容体が、刺激を受けてせきが出やすくなるという。枕など寝具についたダニなどのアレルゲンがせきを誘発することもあるとみられる。

せきぜんそくの疑いがあるのは、風邪が治ったと思ったのに、せきだけ続くときだ。春や梅雨どき、秋になると決まって空ぜきが続く人も要注意だ。花粉や黄砂、ハウスダストなどによるアレルギー反応で気道に炎症が起き、せきがでやすくなっているからだ。

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せきは1~2カ月以上続くことが珍しくない。空ぜきの場合が多いが、たんが出るときもあるという。しばしば風邪や気管支炎などと見過ごされる。胸部X線写真を撮っても、異常はみつからない。気管支拡張薬を服用して、せきが治まることが診断の決め手になる。

吐く息に含まれる一酸化窒素濃度が高ければ、せきぜんそくの可能性が高い(名古屋市立大学病院)

事前の検査としては吐く息に含まれる一酸化窒素の量を測る方法がある。患者が装置を両手でもって、マウスピースをくわえて一定の速さで息をはき出す。一酸化窒素の値が高いと気道に炎症が起きていて、せきぜんそくの疑いが濃いという。

かつては大学病院や専門病院など大きな医療機関でないと検査ができなかったが、2年前に小型の装置が保険適用になった。このため、最近では一般の医療機関でも検査できるところが増えているという。

気道に炎症が起きているときは、たんを検査してみると白血球の一種である「好酸球」が増えていることも多い。

治療には主に炎症を抑える吸入ステロイド薬を使う。これだけでせきが止まる人もいるが、効果が不十分な場合などは、ステロイド吸入薬と気管支拡張薬(ベータ刺激薬)の配合剤を使う。慢性的な気道の炎症を改善する薬「ロイコトリエン受容体拮抗薬」も有効でよく使われている。

薬剤にもよるが、1~2週間で症状が改善することが多いという。

名古屋市立大学病院呼吸器・アレルギー・リウマチ内科の新実彰男教授は、「自然によくなることもあるが、治療しないと悪化して3割くらいは本格的なぜんそくに移行するので、早めにアレルギーや呼吸器内科の専門医などを受診してほしい」と注意を促す。

また最近は「食事の西洋化などで胃食道逆流症の人が増えており、それに伴い空ぜきに悩む人も多い」(新実教授)と指摘する。

胃食道逆流症の人は昼間、特に食後にせきが出やすくなる。せきぜんそくと胃食道逆流症を併発している人もおり、両方の治療が必要なケースも少なくないという。

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日本での認知まだ浅く 専門医、探して受診を

2~3週間にわたってせきが続く病気にはせきぜんそくのほか、花粉症などに合併することが多いアトピー咳嗽(がいそう)、蓄膿(ちくのう)症とも呼ばれる副鼻腔(びくう)炎に伴うせき、慢性気管支炎、百日ぜき、肺がん、肺結核などがある。高血圧や心臓病の治療薬であるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を服用していると副作用でせきが続くこともある。

肺がんや肺結核は胸部X線写真で異常が認められるため検査で判別可能だ。

せきぜんそくは1970年代に米国で提唱された。日本でも80年代後半に学会などで発表され始めたが、認知されるようになったのは90年代に入ってからだ。

日本呼吸器学会は2005年、「咳嗽に関するガイドライン」を作成し、せきぜんそくなどについて初めて詳細に記した。12年には改訂版が発表された。日本咳嗽研究会のホームページなどを調べれば、専門医や医療機関を探すことができる。

(西山彰彦)

[日本経済新聞朝刊2015年7月12日付]

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