肺の「衰え」に注意 まず「肺年齢」をチェック

風邪がなかなか治らない。ずっと咳(せき)や痰(たん)が続く。階段を上ると息切れする。このように「呼吸器が弱い」と感じる人は、一度、呼吸器科などで検査を受けてほしい。慢性呼吸器疾患の研究が進み、こうした症状を持つ人のなかに、肺の機能低下が進みやすい場合があり、早めの対策が必要なことが分かってきたからだ。

肺の機能は健康な人でも加齢とともに少しずつ低下するが、なかには40代以降になって機能低下が急速に進むことがある。主な原因となる病気が慢性閉塞性肺疾患(COPD)で、空気の通り道である気道や、酸素を取り込む肺胞という組織に炎症が起こる病気だ。

日本医科大学の呼吸ケアクリニック(東京都千代田区)所長で特任教授の木田厚瑞さんは「COPDは診断が難しいため国内の年間治療者数は三十数万人だが、潜在患者数は700万人を超える可能性がある」と話す。

■日常生活に支障

自覚症状は運動時に呼吸が苦しくなったり、慢性的に咳が続くなど。進行すると息切れなどで着替えや入浴など日常生活にも支障が出るため、老後の生活の質が大幅に低下し、介護の負担増につながることもある。

COPDは喫煙経験者のおよそ15%が発症するという。若いころの喫煙が原因になることもあり、禁煙しても病気が進むことがある。また最近、喫煙経験が全くなくても、気管支ぜんそくなどがある人のなかにCOPDを発症するケースがあるとわかってきた。

両者に共通の発症メカニズムとして専門家が注目するのは、肺で起きている「炎症の悪循環」だ。木田さんは「肺に炎症が起きると肺の気道上皮が傷つき、細菌感染やアレルギー反応などが起こりやすくなり、それが気道上皮をさらに広く傷つける」と解説する。

COPDの患者の肺では、こうした悪循環が起きている可能性がある。炎症が特にひどくなった状態を「増悪期」と呼ぶが、これを繰り返すうちに、肺の機能低下がさらに進むことになる。

肺機能の低下を早期発見するための取り組みが、スパイロメトリーによる「肺年齢」チェックだ。この検査は、装置についた管をくわえ、限界まで息を吸って一気に吐き出す。最初の1秒間にはき出された空気の量である「一秒量」などを測定する。

自分の値が健康な人の何歳に相当するかを示すのが肺年齢。肺年齢が実年齢より10以上高い場合は、呼吸器科などで相談し生活の改善などに取り組むことになる。

COPDは他の生活習慣病の進行とも深い関係がある。要町病院(東京都豊島区)院長の吉沢孝之さんは「本人が呼吸機能の低下に気づかないレベルでも、運動量が減って糖尿病を悪化させたり、動脈硬化を進めたりすることがある」と話す。

喫煙者にはまず禁煙が求められる。肺年齢を知り、症状が進むと運動ができなくなったり、酸素吸入を続けないと生活できなくなったりすることがあると理解して、積極的に取り組むようになる人もいるそうだ。

運動習慣や栄養管理も重要だ。吉沢さんは「肺機能の低下は身体活動性と密接に結びついている」と話す。例えば、高齢者が外出したがらないのはCOPDによる息切れが原因のこともある。

運動不足になると呼吸に使う筋肉の衰えを招くなど、やはり悪循環に陥る。木田さんは「肺機能の維持には、定期的な運動習慣が大切。ただ歩くだけではなく、スポーツジムなどを利用し、上半身の筋肉をしっかり鍛えることが必要」と話す。

■筋肉の量を維持

栄養面では、肥満防止はもちろん「やせすぎ」にも注意が必要だ。栄養不足による筋力の低下は、呼吸機能の低下につながりやすいからだ。タンパク質などをしっかり補給して、筋肉の量を維持するようにする。

COPDの治療を進めるうえで、生活指導とあわせて薬物治療をするところもある。「残念ながらCOPDの根治療法はまだ見つかっていない。しかし、最近では新薬が次々と開発され、息切れなど症状の程度に応じた薬物治療がされるようになった」と木田さん。

ぜんそくが共存している場合などは、ステロイド吸入薬が有効なこともある。また、症状の増悪期をもたらす呼吸器感染症の予防にインフルエンザや肺炎球菌の予防接種も重要だ。

健康な肺を保ち、年を取っても活動的な生活を送れるよう、40歳ぐらいから肺年齢をチェックし、ケアをしていきたい。

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理学療法士、呼吸の整え方指導

最近では、COPDによって呼吸機能の低下した患者をサポートするための呼吸リハビリテーションを扱う医療機関が増えてきた。要町病院の吉沢さんは「医師と理学療法士(呼吸療法認定士)などが共同で薬物療法、栄養療法、理学療法、心理療法を組み合わせたリハビリテーションをする」と話す。

とくに重要なのは運動指導などの理学療法で、家庭でできる簡単なトレーニング法のほか、「着替えなど日常動作中に息切れなどが起きたときの呼吸の整え方」や「器具を使った痰を出す方法」など多岐にわたる。また、規則正しい生活を送るための「自己管理能力の改善」も指導される。

(ライター 荒川 直樹)

[日経プラスワン2015年1月31日付]

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